第74話 新もちもち殺し改。
文字数 1,422文字
日の高いうちに地表に出ると、この一年でアルケー湖の景観が変わったのがよくわかる。
一言で表すと「整う」
とても、整理された感じ。綺麗とはちょっと違う。
かつて訪れた時のような、わいわいガヤガヤ、ごちゃついた「お祭り感」はない。
道も、店も、人並みもとても整っている。
でも、これはアルケーに限った話じゃない。
この一年。私たちが見てきたどんな場所でも、そう変わり始めていた。
人にとって都合のいいように整理整頓されていく土地。
人の体に良い範囲でのバリエーションある食事。
人に危険の及ばない街づくり。
そんな中でも私の思い出のお店は、素敵な香りを漂わせてまだ残っていた。
一見、変わったのは店名ぐらい。
「もちもち殺し」→「新・もちもち殺し」→「新・もちもち殺し改」と、また文字が追加された。
私とズーミちゃんが並んだ「もちもちの列」は灰色に染まっていた。
前も後ろも。
私たち以外は全員「祝福」
もう、誰も待機のために時間は使わない。
私の次にもちもちを受け取った祝福が、規則正しくこの場を離れる。
きっと、主人の所に運んでいくのだろう。
ギルガさんのため息を背中に受け、あたりを見回す。
まだいくつか残っている出店の列は、どれも整って灰色だった。
割り込みもなく。よそ見をして前進忘れもない。
会話に夢中でぶつかってしまい、ケンカするものだって当然いない。
怒号も、いざこざも起こらない。
もちろん、無駄話も笑い声も聞こえない。
愚痴りつつも手を止めないギルガさんの後ろにも、祝福はいた。
主人の汗をぬぐっている。
水分補給を促す祝福をギルガさんは存在しないかのように無視していた。
お店を離れた私は思い出す。
祝福は人の幸福を目的に行動する。
主の怒りや苛立ちで「あたられる」ことも容認する。
ギルガさんはそんなことしないだろうけど、前に見たことがある。
祝福に当たる人々を。
もっといい暮らしを、もっと旨いものを、と浅ましい姿で訴える人を。
祝福は再生する。土と光さえあれば、主の中が空になるまで受け止める。
あの時怒っていた人たちも、今はもう大人しく享受していることだろう、新しい生活を。
無意識に言葉が口から出た、なんとなくの疑問。
ズーミちゃんと並んで、もちもちをかじる。
甘い。美味しい。