第40話 トカゲフライ
文字数 2,770文字
ストレの案内で足を運んだのは、風の大陸北西、フィルル高原。
薄い空気は意識を
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/03098fa958fd3011dc3db7327f44de92.jpg)
タチの視線の先には、ポツリと変哲もない小屋が一つ。
ただし、鳥にしては大きすぎる影が複数小屋を囲んで舞っている。
どうやら空中に浮かぶ影を恐れているようで、この先に進みたがらないヒヒーン壱号(タチ命名)。
空気の薄い高所を、十分ここまで移動してくれた。
近場の木に
そう言ったストレを残し、私とタチは小屋へと向かった。
聖地へと移動する手段を得るために。
小屋の中には受付らしきものすらなく、ただの民家。
大きめの暖炉の前に、ひげもじゃのおじさんが一人椅子に腰かけている。
会う人、会う人、なんだそれ?どこだそこ?状態だった私の聖地。
知ってる人がいるだけで、少し安心。
確かめようのない今の私では、存在を疑う気持ちすら沸き始めてた…。
私が世界に降り立った場所なのに。
確かに、人間になってから600年。私が知っているのは身の回りの事だけだし…。
自分が何してたかだって、全部を明確に覚えているわけじゃないけど…。
たった数百年で、お祈りしに来なくなるものなの?
私の背中を撫でるタチの一言に、思い直す。
そうか、みんな、忘れたとか居なくなった訳じゃなく、移ったんだ。
たぶんイトラの所に。
小屋の周りを飛んでだ謎の影。
今も窓から優雅に宙を舞っているのが見える。
名前の響きは食べ物みたいでおいしそうだけど…。
さらっとおじさんは言うけれど、なかなか酷い言葉だ。
絶滅したくてしたわけじゃ、ないだろうに。しやがったって。
横長のその絵には、無数のワイバーンが墜落している所と、まるで神様みたいな白い影が光り輝いてる場面。
思い悩む私を、タチが叫んで強く抱き寄せた。
先ほどまでの、お楽しみお触りじゃなく。必要に迫られて。
ドバァ!
小屋の入り口が派手に消し飛ぶ。
状況を把握するのに精いっぱいな私とは違い。
タチの行動は早かった。腰の水の剣は既に抜かれていて臨戦態勢だ。
タチと黒衣の男の斬り合いが始まってしまう。
両者言葉で解決する気など初めからない。
私は巻き込んでしまったおじさんを、小屋の外へと連れ出そうと暖炉の方へ駆け寄る。
いつでも変わらない。できる事から。
こちらに向かって走り来るストレを指さす。その後方には木に繋がれた馬がいる。
馬にのって逃げてもらえれば、おじさんは逃げれるはずだ。
狙いは悪魔で私達…いや、私なのだから。
ピュゥィ!
おじさんが指笛を吹くと、一匹のトカゲフライが
そうか、ココは空の運び屋の小屋だ。
ここまでの道中、タチとの時間が楽しすぎて、やっぱり戻らなくてもいいんじゃないか?とか。
聖地には飛べないと言われて、少し嬉しく思ってしまった私を叩きたい。
後ろで続けられる、激しい斬り合い。その戦闘音に負けない様に大きく声を張り上げる。
黒衣の男に届くように。大声で。
対峙するタチにも、駆け付けるストレにもちゃんと聞こえるように。