第40話 トカゲフライ

文字数 2,770文字

チビ様のおっしゃる「空中に浮かぶ地」へ向かうのならば…ココから飛び立つしかないかと。

 ストレの案内で足を運んだのは、風の大陸北西、フィルル高原。

 薄い空気は意識を散漫(さんまん)とさせ、強い横風が体をさらおうとする。


あの小屋で飛べるのか?

 タチの視線の先には、ポツリと変哲もない小屋が一つ。

 ただし、鳥にしては大きすぎる影が複数小屋を囲んで舞っている。

馬は置いて、ここからは歩きだね。

 どうやら空中に浮かぶ影を恐れているようで、この先に進みたがらないヒヒーン壱号(タチ命名)。

 空気の薄い高所を、十分ここまで移動してくれた。


 近場の木に手綱(てづな)をくくり、(ねぎらい)いの果物を一つあげる。


私が荷下ろしをしておきます。話をしてきてください。

 そう言ったストレを残し、私とタチは小屋へと向かった。

 聖地へと移動する手段を得るために。


約束の地パンテオン…また、ずいぶん懐かしい名前だな。

 小屋の中には受付らしきものすらなく、ただの民家。

 大きめの暖炉の前に、ひげもじゃのおじさんが一人椅子に腰かけている。

良かった!知ってる人がいて!

 会う人、会う人、なんだそれ?どこだそこ?状態だった私の聖地。

 知ってる人がいるだけで、少し安心。


 確かめようのない今の私では、存在を疑う気持ちすら沸き始めてた…。

 私が世界に降り立った場所なのに。

聞き覚えはあるが、行ったことはない。ひいひい爺さんが若い頃飛んだらしいが…。
なんで!?どうして!?最高の観光地じゃないの!?ちょっと前まで人々は足しげく通ってたはずだよね?
 高いし、空中に浮いてるし、一応聖地だし。
ちょっと前って…400年近く昔のこったろ?

 確かに、人間になってから600年。私が知っているのは身の回りの事だけだし…。

 自分が何してたかだって、全部を明確に覚えているわけじゃないけど…。

 たった数百年で、お祈りしに来なくなるものなの?

ウチは代々、空の運び屋やってるから知っちゃいるが、今時熱心なパンテ教の奴でも名前ぐらいしかしらないだろう?
むしろ、熱心な者は新聖地(ケサ)に向かうだろうからな。

 私の背中を撫でるタチの一言に、思い直す。

 そうか、みんな、忘れたとか居なくなった訳じゃなく、移ったんだ。


 たぶんイトラの所に。

パンテオンに向かいたいの!いくらで運んでもらえますか?
向かいたいって言われてもだな…。約束の地があったとして、俺は行ったことがないし、そもそもその高度を飛べる「羽」がねぇ。
 おじさんは、暖炉の(まき)を軽くつついて、火加減を調整し、追加の木をくべる。
えっ…?あの外に飛んでる子たちは違うの?

 小屋の周りを飛んでだ謎の影。

 (くら)がついてる子もいたし、このおじさんが飼い主なはずだ。

 今も窓から優雅に宙を舞っているのが見える。

アレはウチのトカゲフライだ。確かに背に乗せて空を運ぶのが商売だが…。トカゲじゃあんたの望む高度がだせない。昔はな、トカゲフライ以外にもワイバーンって魔物がいたんだよ。
 トカゲフライ。確かにおっきなトカゲに羽が生えたみたいな見た目をしている。

 名前の響きは食べ物みたいでおいしそうだけど…。

そのワイバーンはいないのか?高い所が飛べるんだろう?
 私のお尻を撫でまわすタチが、変わりに疑問を聞いてくれる。
いない。とっくに絶滅しやがった。
絶滅!?

 さらっとおじさんは言うけれど、なかなか酷い言葉だ。

 絶滅したくてしたわけじゃ、ないだろうに。しやがったって。


あぁ。ホント突然な。空がピカっと光って一斉に死んだんだとよ。
 おじさんが火かき棒で指した壁には、当時の光景を描いたらしき絵画が飾られていた。

 横長のその絵には、無数のワイバーンが墜落している所と、まるで神様みたいな白い影が光り輝いてる場面。

その時は、ウチも商売畳むとこだったらしい。だがどうにかなるもんだ。空の王者が消えたおかげで、トカゲがバカスカ増えて、こうして食いつなげてる。
トカゲフライじゃ無理なの…?
無理だよ。奴らの薄い羽だと、一人乗せたらそこの山より高く飛べない。…俺も一度乗ってみたかったがね。ワイバーン。
(どうしよう…?)
水の大陸から、海を渡り。風の大陸を馬で駆け、山々を登り遂に…!という所でまさかの立ち往生。
ナナ!

 思い悩む私を、タチが叫んで強く抱き寄せた。

 先ほどまでの、お楽しみお触りじゃなく。必要に迫られて。


ドバァ!


 小屋の入り口が派手に消し飛ぶ。

悪い。待たせたな。
 私の目の前に再び。黒衣の者が立ちはだかっていた。
焦らされるのは嫌いじゃない。

 状況を把握するのに精いっぱいな私とは違い。

 タチの行動は早かった。腰の水の剣は既に抜かれていて臨戦態勢だ。

ねぇ…!イトラの指金(さしがね)なんでしょう!?本人をココに呼んでよ!聞きたいことがあるの!
 ゆっくりと、私の方に歩み寄る男に訴えかける。
オレは神の呼び方なんてしらねーよ。ただ役割を果たすだけだ、時の化身。アンタを殺して、殺して、あきらめさせる。
ナナ!離れていろ!
 タチが私を押しのけ、黒衣の男に立ち向かう。
俺と同じように失意と無力で溺れるまでな!!

 タチと黒衣の男の斬り合いが始まってしまう。

 両者言葉で解決する気など初めからない。


 私は巻き込んでしまったおじさんを、小屋の外へと連れ出そうと暖炉の方へ駆け寄る。

 いつでも変わらない。できる事から。


いったいなんなんだ!?
ごめんなさい!あっちの!銀髪の子の方へ走って!馬がいるから…!

 こちらに向かって走り来るストレを指さす。その後方には木に繋がれた馬がいる。

 馬にのって逃げてもらえれば、おじさんは逃げれるはずだ。


 狙いは悪魔で私達…いや、私なのだから。


馬なんていらねぇ!俺にはトカゲがいる!

ピュゥィ!

 おじさんが指笛を吹くと、一匹のトカゲフライが瓦礫(がれき)を巻き上げ、私達の横に着地した。

 そうか、ココは空の運び屋の小屋だ。

待ってろ、今あんたらの分も――
ごめんなさい!私のせいなんです…!逃げてください!
 言える言葉が見つからない。
だが、女の子を置いて…
いいから!お願いします!逃げてください!
 私の必至のお願いに、おじさんは少し考えて答えを出す。
…悪いが、俺は逃げるぜ。
ごめんなさい…!
 バサバサと羽を鳴らし、飛び去るおじさん。
(本当に、本当に、ごめんなさい。巻き込んで…。)

 ここまでの道中、タチとの時間が楽しすぎて、やっぱり戻らなくてもいいんじゃないか?とか。

 聖地には飛べないと言われて、少し嬉しく思ってしまった私を叩きたい。


 後ろで続けられる、激しい斬り合い。その戦闘音に負けない様に大きく声を張り上げる。

ねぇ!あなたイトラに騙されてる!

 黒衣の男に届くように。大声で。

 対峙するタチにも、駆け付けるストレにもちゃんと聞こえるように。


私が神なの!!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色