第20話 枝拾い。

文字数 2,912文字

他の旅人さんもいると、なかなか機会がないね。

 馬車移動を始めて二日。

 日中は客車で揺られ、夜はテントで過ごす生活だ。

う…うむ。そうじゃな。

 私達三人だけの機会は少ないし、ズーミちゃんは服を着こんで動きが鈍い。

 剣奪取(けんだっしゅ)(すき)がうかがえずにいる。


 港までは後三日…。焦りも募るけど、気になることが一つ。


ど…どうしたもんかの~。

 ぷるぷる震えて、雑な相槌でなにかをごまかすズーミちゃん。

 一夜離れ離れで過ごした後、馬車旅になってから、どうも様子がおかしい。

ね。ズーミちゃん、一緒に木の枝取りに行こう

 空が赤く染まり、馬車が街道脇に止まる。

 これから、日が落ちる前に野営の準備。焚火の燃料探しに誘ってみた。

私も手伝おう。
 いち早く客車から降りたタチが、腰に手を当て、背を反らしながらこちらを見る。
大丈夫。いつも力仕事まかせちゃってるし、たまにはね。
そうか。では天幕張りでもしておこう。
 全身を服で隠したズーミちゃんと二人、少し離れた森林へと足を運ぶ。
わらわは…お主が好きじゃよ…。

 ポツリと小さな声でズーミちゃんがつぶやいた。



(やっぱり、何かあるのかな…?)

 葉の間から夕陽が地面を赤く照らす。

 二人きりで、もくもくと乾いた木の枝を拾い集める作業。

私…何かしちゃったかな?ズーミちゃんの嫌がる事とか…。
 なかなか口を開いてくれないので、こちらから直球で訪ねてみる。
ナナ…お主、イトラ様を知っておるか?
!?
先日、お話しする機会があっての、その別れ際に命をうけた。
 なぜ、その名を私に…!

 ばくばくと心臓が激しく脈打つ。人間の体なんだと強く意識させられる。

今、わらわが共にしているモノに、不届きものがおる…そ奴に対処せよ…と。
…対処。

 光の化身イトラ。今の私がどうしているかを把握していたんだ。

 いったいいつから?

 もしかしたら、ダッドとの騒動で見つかったのかもしれない。

当然。タチの事じゃと思ったよ。あやつは確かに不届きものじゃし、神殺しを目論んでおる…だが違った。
 神殺しを目的に、神殺しの剣を持つ女。

 普通そっちが対象だと考える。普通は。

 少しの間、気まずい空気が流れる。

 赤い木々の中、どちらから口を開くべきなのか…。

ナナ、お主いったい何をした?そもそも何者なんじゃ?イトラ様から直接命を授かるなんて…。初めての事じゃ。

 光の化身様から、ただ一個の人間に対しての対処命令。

 混乱するのも無理はない。


 言うべきだ。隠しているのは自分の都合だけだもん…。

…今まで隠しててごめんなさい。…私は…私は神なの。

カラカラ。

 突然の告白。ズーミちゃんが抱えていた枝を腕からこぼす。

 乾いていた筈の枝は、しっとりと湿り気を帯びていた。

なるほど、行き過ぎた狂信者というわけか。自らを神と名乗るなどと…!
ちがう、本当に――
わらわを馬鹿にするな!お会いした事がなくとも、神と人の見わけぐらいつく!!
 ずっと隠してた自分が悪いとはいえ、やっはり一筋縄ではいかなかった。
見損なったぞナナ!根の優しい食いしん坊だと思っていたんじゃがな!

 まだ見ぬ憧れの存在への侮辱。

 ズーミちゃんの思い違いだけど、彼女を責めることはできない。


ごめん…わかりやすくいくね!
 ズーミちゃんの服の前を強引に開け、ズブリと腕を中に突っ込む。
ひゃう!?
わかるでしょ?ただの思い込み人間に触れられるものじゃないって…!
 ビクビクと体を波打たせるズーミちゃん。

 その体内にある源を軽く撫でる。

にゃっ…にゃぜ…!?
だって元々私の力だもん!これが何よりの証明だよ!
なでり。なでり。

 ズーミちゃんの体の中で、輝く塊を撫でまわす。

わかっひゃ…わかっひゃからぁ…!手を…!
人間には無理だよね?こんなことできないよね?
んひゃっ…!
 最後にもう一撫でして、ズーミちゃんの体から腕を抜く。
ハァ…ハァ…
 息を整えるズーミちゃん。

 これ以上の説明の手立てが思いつかない私。

 またしても、気まずい沈黙の時が流れた。

しかし…ナナが神様…そんな話が…まてまて!そう急くな!

 もう一度教え込もうと、手をにぎにぎしながら、近寄った私を慌てて止めるズーミちゃん。


 少し、タチに影響を受けたかもしれない…。

 とりあえず強引にやっちゃえ的な感覚が。

聞け!例え、どうあったとしても、お主に酷い事するつもりなどなかったよ。
(ごめんなさい。むしろ私がひどいコトしてて。)
なんで?

 イトラの命令は絶対なはず。

 地水火風より上位存在でもあるし、単純に力も強い。

…いい奴じゃから。
(…本当にごめんなさい。体の中を撫でまわしたりして。)
ダッドの件で学んだのじゃ、自分の感覚をもうちょっとは信じると…。
…ありがとう。なんか嬉しい。
しかし、本当にお主は神様なのか?どうして人間に…?
 当然の疑問だ。それの答えは今でも明確にわかる。
えっと…人生を楽しんでみたくて!

 まじかコイツと、ズーミちゃんの顔に描いてある。

 私が神だとバレてなければ、きっと口に出されていた。

信じてもらうのは難しいとおもうけど、私が地上に降りた場所、パンテオンに行けば戻れるから…。
 聖地パンテオン。私が人に転生し、初めて受肉した場所。
それじゃ。聖地に向かわせぬよう対処しろと言われたんじゃ…旧聖地に。
それが命令?
遅延、足止め、で手段はなんでもよいと…。
 ズーミちゃんが少し口ごもる。
殺せって?
明確に言われんかったが…。
殺しても、生まれ変わるだけだからね。下手したら聖地の近くで生まれるかもだし。
 パタパタ手を振って、冗談めかす。事実だけど。
ナナが…神様。

 まだ、信じ切れていないのだろう。

 考え込むように深くうつ向き、思い出すように天を仰ぐ。

 

 じっくりと。

すいませんじゃったのでしたじゃーーー!!
 盛大に土下座し、地面に何度も頭をこすりつけるズーミちゃん。
ど、どうしたの急に!?
じゃって!じゃって!今までいろいろと失礼な口や行動を…!しかもタチに剣を…!

 確かに言ってたね。ただの食いしん坊とか、そんなに食うとブタになるぞとか。

 べちんべちんと平謝りで、頭とツインテールを地面にぶつける。

私が悪いんだよ…。隠し事して今まで黙ってて!こっちこそごめんね!
 負けじと私も両ひざをついてズーミちゃんに謝る。
やめてくだされ!だめですのじゃ!!
ズーミちゃんがやめなきゃ私もやめられないよ!

 向かい合って土下座をする。

 二人のおでこは泥だらけ。

 ある意味仲良しだ。

思い返せば、ただの卑しい食いしん坊。変態の愛玩動物、ただの囮、などと思っておって…!
ちょっとそれは言われた言葉よりだいぶきつくない!?

 ガバリと顔を上げズーミちゃんを見る。土下座勝負は私の負けだ。

 だって「ただの食いしん坊」が「卑しい」付けられちゃったらね。


 確かに、前から少し漏れてた。作戦のエサとか平気で言ってたし。

とりあえず。この話は一旦ここで終わり。もう戻らないと、怪しまれちゃう。
わ…わかりましたのですじゃ…!
今まで通りに話そうよ。なんか語尾もおかしくなってるし。
はいなのですじゃ!

 二人、急いで散らかした枝を拾いなおし、馬車の所に戻る。

 泥だらけの顔の言い訳を考えながら。

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登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

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