第20話 枝拾い。
文字数 2,912文字
馬車移動を始めて二日。
日中は客車で揺られ、夜はテントで過ごす生活だ。
私達三人だけの機会は少ないし、ズーミちゃんは服を着こんで動きが鈍い。
港までは後三日…。焦りも募るけど、気になることが一つ。
ぷるぷる震えて、雑な相槌でなにかをごまかすズーミちゃん。
一夜離れ離れで過ごした後、馬車旅になってから、どうも様子がおかしい。
空が赤く染まり、馬車が街道脇に止まる。
これから、日が落ちる前に野営の準備。焚火の燃料探しに誘ってみた。
ポツリと小さな声でズーミちゃんがつぶやいた。
葉の間から夕陽が地面を赤く照らす。
二人きりで、もくもくと乾いた木の枝を拾い集める作業。
ばくばくと心臓が激しく脈打つ。人間の体なんだと強く意識させられる。
光の化身イトラ。今の私がどうしているかを把握していたんだ。
いったいいつから?
もしかしたら、ダッドとの騒動で見つかったのかもしれない。
普通そっちが対象だと考える。普通は。
少しの間、気まずい空気が流れる。
赤い木々の中、どちらから口を開くべきなのか…。
光の化身様から、ただ一個の人間に対しての対処命令。
混乱するのも無理はない。
言うべきだ。隠しているのは自分の都合だけだもん…。
カラカラ。
突然の告白。ズーミちゃんが抱えていた枝を腕からこぼす。
乾いていた筈の枝は、しっとりと湿り気を帯びていた。
まだ見ぬ憧れの存在への侮辱。
ズーミちゃんの思い違いだけど、彼女を責めることはできない。
その体内にある源を軽く撫でる。
ズーミちゃんの体の中で、輝く塊を撫でまわす。
これ以上の説明の手立てが思いつかない私。
またしても、気まずい沈黙の時が流れた。
もう一度教え込もうと、手をにぎにぎしながら、近寄った私を慌てて止めるズーミちゃん。
少し、タチに影響を受けたかもしれない…。
とりあえず強引にやっちゃえ的な感覚が。
イトラの命令は絶対なはず。
地水火風より上位存在でもあるし、単純に力も強い。
まじかコイツと、ズーミちゃんの顔に描いてある。
私が神だとバレてなければ、きっと口に出されていた。
まだ、信じ切れていないのだろう。
考え込むように深くうつ向き、思い出すように天を仰ぐ。
じっくりと。
確かに言ってたね。ただの食いしん坊とか、そんなに食うとブタになるぞとか。
べちんべちんと平謝りで、頭とツインテールを地面にぶつける。
向かい合って土下座をする。
二人のおでこは泥だらけ。
ある意味仲良しだ。
ガバリと顔を上げズーミちゃんを見る。土下座勝負は私の負けだ。
だって「ただの食いしん坊」が「卑しい」付けられちゃったらね。
確かに、前から少し漏れてた。作戦のエサとか平気で言ってたし。
二人、急いで散らかした枝を拾いなおし、馬車の所に戻る。
泥だらけの顔の言い訳を考えながら。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/764c8f2b5873ce6d317a80edb4fa2360.jpg)