第30話 失意の者。

文字数 2,049文字

 3人北西を目指し大地を駆ける。

 今度はちゃんと一頭ずつ、馬にまたがって。


 黄昏時(たそがれどき)、広い広い草原を走っていると、まるで神話の世界に迷い込んだ気分になる。

 私神だけど。

やはり雲行きがおかしいです。早めだが野営の準備をしましょう。

 雨風をしのげる場所を、先行し探し出してくれたストレ。

 私の横に戻るなり、急かすようなしぐさを見せる。

一応役にたってるな。えらいぞ。
 どこでも一番偉そうにしてるタチが、ストレにねぎらいの言葉をかける。
私の主人はチビ様だ。お前に褒められても嬉しくない。

 「様」をつけてもチビ呼びなのは彼女の意地なのだろうか…?

 別にいいけど。


 テッドの街でお別れ予定だったのだけど、泣きすがるストレの姿と。

 青い友人が抜け、寂しかった旅仲間の埋め合わせで、道案内として雇ったのだ。


 私が個人的に。

ご苦労様。風読みができて凄く助かってる。
ありがとうございます。チビ様。
 元は王室近衛兵。

 胸に手をあて、頭を下げる姿に凛々しさを感じる。


 泣き顔だけが彼女のお似合いじゃないようだ。

 一番は泣き顔だけど。

 

ナナは私の女だ。だからお前は、私の下僕でもあるということだぞ。

 強引な理論で上下関係を強要するタチ。


(基本、主従でしか人間関係を認識してないよね…タチ。)

チビ様を手に入れてから言うのだな。
 馬移動の最中交わした会話で、私とタチの関係を正確に把握してくれたようで助かる。
唇は頂いた。あと少し全て頂くさ。だろう?ナナ。
しーらない。
 そんなこと当人に聞かないで欲しい。


ゴロゴロ

 空が不穏な音を立てる中、ストレの見つけた場所へと馬を急がせる。


 ほんの少し走り出したその先、進行方向に黒衣の人がいた。

(いつの間に?突然現れたような…。)
全て…お前が原因なんだろう?

 黒マントの下から見える、全身真っ黒の鎧。

 一目見ただけで背筋の凍る感覚。

 

 見たことのある深い黒だ…。



 神殺し。

ナナ。下がっていろ。

 横並びで馬に乗っていたタチが、真面目な声で私に話す。

 いや、話しかけたのじゃない「指示」を出した。

神様がいってたぜ?…お前が悪いって。

 黒衣の者が右腕をのばす。

 広げた手の平から火の玉が3つ飛び出した。

 

 私に向けて。


バシュ!バシュ!

 馬を飛び降りながら、タチが火の玉を水の剣で撃ち落とす。

 しかし、一つが落としきれずに、私の馬に当たった。

わっ…!

 馬の首元が焼けこげる。

 悲鳴と共に馬はあばれ、私を振り落して逃げ出した。

チビ様!

 ストレも馬を降り、転げた私を助け起こす。


(突然なんで…!?)
 わかることは明確な敵意と、それが私に向かってだという事。
ストレ!ナナを守れ!

 タチが振り向かずに叫び、黒衣の者に斬りかかった。


 明確な殺意のある攻撃に、敵だと認識したのだろう、行動が素早い。

邪魔だ。

ズラリ。

 黒衣の者も剣を抜き、二人が打ち合う。

 二合、三合…次々重なる斬撃と二つの黒い剣。

タチと…斬り合ってる…!
 黒衣の者は私に見えない速さで、タチと攻防を繰り広げていた。 
馬鹿な…。

 戦闘力の無い私なんかより、実感が強いのだろう。

 ストレは開いた口も閉じず、頬に冷や汗を流す。

お前のせいなんだろう…?なぁ…!!!

 男が叫ぶ。

 私に向かって。


 その声に含まれた、黒い感情に体がすくむ。

ないがしろにするほど余裕があるのか?

 私に言葉をぶつけ、打ち合いの手が止まった瞬間。

 タチが重なる刃先をずらし、男の腹部に蹴りを入れた。


グラリ。

 

 強烈な打撃に体勢を崩す黒衣の者。

 その隙を逃さず、追い打つようにタチが神殺しで男の胸を突き刺す。


ブシュ!


 赤い血が。黒い刃をつたって地面に落ちた。

 黒い男から流れ出す赤。

 

 それは彼が(まぼろし)ではなく、まぎれもなくヒトだと証明している。

間抜けめ。
…それでも勝てるもんでね。

 人間なら致命傷。

 完全に貫通した刃に膝をついたものの、男はニヤリとタチを見上げた。


ザシュ。


 男の振るった剣が、タチのわき腹を裂く。

タチ!!!
 そんなわけない。
ダメだチビ様!
 腹から血しぶきを上げ、崩れ落ちるタチ。

 駆け寄ろうとした私の体は、ストレに止められた。

ただの女にしか見えないがな…。
 男は私を見つめたまま、自らの胸に刺さった剣を抜く。

どうでもいい。とりあえず殺してみるまでだ。

 ゆっくりと、こちらに歩いてくる。

 タチを斬った血に濡れる剣を手にして。


時間を稼ぎます…私の馬で…
 男に聞こえぬように、私に耳打ちをするストレ。

 こんな状況でも、冷静な判断で主人を逃がそうとする。

やだ…やだ!タチを助けなきゃ!
無理です…私たちの敵う相手ではない…わかるでしょう?

 嫌だ。嫌だ。横たわったタチから目が離せない。

 あんなに血が流れてる…。


 大丈夫。タチがこの程度で負けちゃうわけなんてない。

 私が助けてあげなきゃ。


ポツリ。ポツリ。

 温かい雨が降り始めた。

 きっとこれから雨脚はもっと上げしくなるのだろう。

風情(ふぜい)だな。

 そう口にし天を見上げる黒衣の男を、私は全力で睨みつけた。
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登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

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