第30話 失意の者。
文字数 2,049文字
3人北西を目指し大地を駆ける。
今度はちゃんと一頭ずつ、馬にまたがって。
私神だけど。
雨風をしのげる場所を、先行し探し出してくれたストレ。
私の横に戻るなり、急かすようなしぐさを見せる。
「様」をつけてもチビ呼びなのは彼女の意地なのだろうか…?
別にいいけど。
テッドの街でお別れ予定だったのだけど、泣きすがるストレの姿と。
青い友人が抜け、寂しかった旅仲間の埋め合わせで、道案内として雇ったのだ。
私が個人的に。
胸に手をあて、頭を下げる姿に凛々しさを感じる。
泣き顔だけが彼女のお似合いじゃないようだ。
一番は泣き顔だけど。
強引な理論で上下関係を強要するタチ。
ゴロゴロ
空が不穏な音を立てる中、ストレの見つけた場所へと馬を急がせる。
ほんの少し走り出したその先、進行方向に黒衣の人がいた。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/b2c257cf84a29281371d4c3c0a3c1f22.jpg)
黒マントの下から見える、全身真っ黒の鎧。
一目見ただけで背筋の凍る感覚。
見たことのある深い黒だ…。
神殺し。
横並びで馬に乗っていたタチが、真面目な声で私に話す。
いや、話しかけたのじゃない「指示」を出した。
黒衣の者が右腕をのばす。
広げた手の平から火の玉が3つ飛び出した。
私に向けて。
バシュ!バシュ!
馬を飛び降りながら、タチが火の玉を水の剣で撃ち落とす。
しかし、一つが落としきれずに、私の馬に当たった。
馬の首元が焼けこげる。
悲鳴と共に馬はあばれ、私を振り落して逃げ出した。
ストレも馬を降り、転げた私を助け起こす。
タチが振り向かずに叫び、黒衣の者に斬りかかった。
明確な殺意のある攻撃に、敵だと認識したのだろう、行動が素早い。
ズラリ。
黒衣の者も剣を抜き、二人が打ち合う。
二合、三合…次々重なる斬撃と二つの黒い剣。
戦闘力の無い私なんかより、実感が強いのだろう。
ストレは開いた口も閉じず、頬に冷や汗を流す。
男が叫ぶ。
私に向かって。
その声に含まれた、黒い感情に体がすくむ。
私に言葉をぶつけ、打ち合いの手が止まった瞬間。
タチが重なる刃先をずらし、男の腹部に蹴りを入れた。
グラリ。
強烈な打撃に体勢を崩す黒衣の者。
その隙を逃さず、追い打つようにタチが神殺しで男の胸を突き刺す。
ブシュ!
赤い血が。黒い刃をつたって地面に落ちた。
黒い男から流れ出す赤。
それは彼が
人間なら致命傷。
完全に貫通した刃に膝をついたものの、男はニヤリとタチを見上げた。
ザシュ。
男の振るった剣が、タチのわき腹を裂く。
駆け寄ろうとした私の体は、ストレに止められた。
ゆっくりと、こちらに歩いてくる。
タチを斬った血に濡れる剣を手にして。
こんな状況でも、冷静な判断で主人を逃がそうとする。
嫌だ。嫌だ。横たわったタチから目が離せない。
あんなに血が流れてる…。
大丈夫。タチがこの程度で負けちゃうわけなんてない。
私が助けてあげなきゃ。
ポツリ。ポツリ。
温かい雨が降り始めた。
きっとこれから雨脚はもっと上げしくなるのだろう。