第39話 体の把握。
文字数 3,543文字
夕食の煮込み上がり待ち中。
黒衣の男の話になり「私も戦力になりたい!」と言ったら、タチが指南を始めてくれた。
両の手を水玉に包み、軽く拳を振る。
ズーミちゃんがくれた「源」の力は、思った以上に自在に扱えている。
元は自分のモノなのだから当然なんだけど…。
タチの方に拳を伸ばし、小さな水の玉を飛ばす。鼻先を濡らしてやる…!
そんな私のちょっぴりした反抗心は、顔を傾けるだけなんなく躱されてしまう。
わかっているが、身体能力も反射神経も比べ物にならない。
今、思いつきで足されたであろう呼び方。
三日前は、馬上で突然「おねーさま」と呼ばされた。
言い合いじゃ勝てないし、いや、肉体的にも勝てないんだけど、何より嫌でも無いので乗っておく。
タチが楽しそうなの見てると、私も元気が出るし。
タチが私の内ももをペチペチ叩く。
言われるがまま、もう少し足を広げる。
チュ。
馴れっこになってきた感覚を唇に覚え、目を開く。
フル族の所を出てから、日に5回ぐらいはキスをしてる。
朝と寝る前は確定で、隙あるごと暇あるごとに「されてる」成分強めのヤツを。
手をぶらぶらさせたまま、右に左に、体をひねる。
腕やお腹の筋がひっぱられ伸びるのを感じつつ。
目を閉じたまま体をブラブラ。
生まれ落ちた時から、自分の肉体と共にある人間はもっと違う感覚なのだろうか?
私には知る由もないが、こう…もっとぴったりするものなのかも。
小さく、自分に言い聞かせるように呟く。
今一番しっくりきてるのは、ズーミちゃんに返してもらった源の力。
それと、さっきチューされた唇。
そういえば、タチに抱かれている時は、ふわふわしてるけど、強烈に自分の体を感じていた。
普通の人は、常にあんな感度なのだろうか?
いや、さすがにそれはないよね…?それじゃその…えっちすぎるし。
暗闇の中、意識が思いをさぐり始め、胸がキュッと締まる。
今でも、タチの優しい温かさが私の中でうごめく。
…まぁ。タチにとっては、遊び半分のお勉強な気もするけど。
それでも、私にはいくらでも学ぶことがある。
足しにはならないまでも、足を引っ張らない程度に体を動かしたい。
なのに、色ボケかました私が悪い。
わかっていたような、いないような。
集中できてなかったことを反省する、私の気持ちは本当だけど、それがまた彼女には「美味しかった」ようで。
ギュッ!
きつく抱き締められ、露出した背中を触られる。
やっぱりわかるのは、自分で体を動かしている時より、肉体を確かめられるという事。
タチが私を地面に押し倒し、上の服をめくりあげようとした瞬間。
お鍋の煮込みあがりを、じーっと見ていたストレの声が挟まった。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/01c8e6900514b1b5738f69a7b980798e.jpg)
いっつも忘れられるストレの、いっつもまっとうなご指摘。
ごめん。今回は気付いていたんだよ?私たちのやりとりにかかわらないよう、お鍋だけを見つめてたこと…。
とりあえず。とりあえず言い合いするのはいいのだけど、服まくり上げたままはやめて欲しい。
さりげなく引き下げようとするも、タチの手はまんじりとも動かない。
ごめんなさい。ストレさんに見えてます。恥ずかしいです。
うん。知ってる。
グイっとこっちを見た以上、今更目を反らせないんだろうけど、顔を真っ赤にしながら訴えかけるストレ。
恥ずかしいのは、丸見えの私だからね?
だってもう…上脱がされてるし。
今更冷静につっこんだ所で、客観視があぶりだす間抜けな姿が、自身を殺すだけだし…。
一番まともで、まっとうなご指摘。
でもそれが、あられもない姿の私を串刺しにして、抵抗力を奪う…。
今日一番の脱力である。
まさか…これがタチ先生の教え…!
悲しい現実逃避に浸るしかない私を置いて、ストレは激しく責め立てる。
だって…求められるの嫌じゃないんだもん…。一緒にいると安心するし。
ストレの槍が、タチのいた場所で空を切る。
言われるとあの甘くもっちりとした触感が口に広がる。
だめだ、お腹がなりそう。夕飯前だし。
銀髪の追跡者が奇声を上げて槍をつく。全力で、命を取りに来るヤツを。
とっても楽しそうに私を抱えて、逃げ回るタチ。
きゅぅ~。
上半身裸で抱きかかえられ、仲間に追い回されてお腹を鳴らす私。
もう意味が分からないが、受け入れるしかない。
きっとこれも人生なのだろう。
でも本当は、みっともなくて、はしたなくても、ちょっと。少し。楽しめている自分にびっくりする。
これは間違いなく、タチと出会ったせいだ。
こういうのでも、いいのかもしれない。
神として、致命的にダメな気はするけど。