第66話 タチの剣。
文字数 4,032文字
影の化身ヤウが表れてから、場の空気は一変した。
圧倒的な力で場を支配していたイトラの輝きがくすぶり、空も厚く黒い雲が覆う。
ヤウは、イトラと向かい合っているが、私の味方ではなかった。
敵の敵は、という奴である。
光の化身イトラにとって、唯一と言える対等な存在。
二人は互いの力を
バチバチバチ!!
二人が言葉をぶつけるたびに、黒い雲から稲妻が落ちた。
決して交わらぬ、光と影の関係を物語る様に。
口元の血を拭うでもなく、タチは私を引き寄せてキスをした。
打ち付けられたダメージはもう回復したようだ。
ヤウとタチの間にまで、ひりついた空気が流れ始めたのを感じ、慌てて私は口をはさむ。
今でも、本心は誰とも敵対したくはない。
まして、こんな場面でヤウまで敵に回してしまったら、完全になす
パチン。
ヤウが指を鳴らすと、タチの背中にも黒い羽根が生える。
ヤウの手には黒い大鎌。それが彼の武器なのだろう。
ヤウが加わり、全力の二回戦が始まった。
白と黒。
空間がちぎれるような、衝突が起きる。
ヤウが大きく鎌で薙ぎると、空が千切れ、血のような赤い飛沫が散る。
空の流した赤が地面におちると、その場の土も、草も赤色に染まった。
イトラが輝く翼をはためかせると、開いた空が繋がり、赤く染まった色が戻る。
二人の攻撃は、世界の形を変える強さを持っていた。
パキン!
間を抜くように、黒い影が高速でイトラに斬りかかる。
タチがヤウから借りた羽を使い、神殺しの剣を手にして二人の戦いに割って入った。
だが、羽がもたらした速度に体はついてこられて無いようで、四肢のいたるところから、血飛沫が上がる。
移動しているだけで、負傷を負っている状態だ。
それを、自慢の回復力で誤魔化している。
人には無茶をするなと良く言うのに、自分は平気で無理をするタチ。
羽のおかげで光と影の戦いについていけてはいるが、灰色の「神殺し」では攻撃を当てれていても、ダメージがない。
イトラが神殺しの剣を掴み、力を込める。
不協和音を奏でながら、灰色の刃にヒビが走った。
そう神殺しの剣は、私に向けられ練り固められた嘆きの剣。
光の化身イトラに向かって攻撃をしかけても、ただの鋼の剣と変わりはしない。
タチが吠え、握りを強めたその時。
神殺しの剣は、イトラの拳によって、崩れ落ちたかのように見えた。
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戸惑うイトラの隙を見逃さず、ヤウは楽しそうに鎌で薙いだ。
空間をも斬る攻撃で、イトラの体から大量の光の泡が溢れて消える。
イトラの体が大きく輝き、無数の光の
まともに浴びた攻撃で、ヤウの体に大量の穴が空く。
だが、彼は笑っていた。今の状況が楽しくてたまらないかの様に。
タチは神殺しの剣…いや、「タチの剣」を手にして、光り輝く化身と打ち合う。
今しがた手に入れたばかりの、真っ黒な翼を広げて。
重ねるたびに激しく、速くなる攻防を、何度も、何度も、見せつけるように。
そんな白熱していく戦いを、私はただ見守っている。
一人の人間として。
私の横には、いつのまにかズーミちゃんが寄り添っていた。
気付かぬうちに震えていた、私の手を握りしめて…。
そう言ったズーミちゃんが両手を重ね、体を通して青い光を送り込んできた。
源の力。
ズーミちゃんに残された、残りのもう一つだ。
ひとつの優しい風と共に、ナビが現れズーミちゃんに続いて私の手を取った。
体を通して流れて来たモノは、同じく源の力。
かつては同じはずだった、今やまったくもって違う「色」をした、化身の化身たる
ナビは、ぶつかりあうたび世界を揺らす戦いを、遠い出来事のように見上げる。
地水火風よりもっと前に存在した、光と影の戦い。
それに加わるには、力が必要だ。その権利を二人が、私に渡してくれた。
私の体の中に返った二つの源。
青の色が付いた源が二つ。右の手に留まり。
緑の色が付いた源が一つ。左の手に宿った。
優しい。と感じる。
確かに元をたどれば私の与えたモノだろうけど、もうとっくに彼女達の一部になっていた。
35憶年前ぐらいに生み出され、それぞれが育み、見守る大陸と共に変化した化身。そして「源」。
まったく違う色のついた青と緑が、互いを尊重し、傷付けぬように私の中で融和する。
二つの色が互いの積み重ねを尊重し、私の体に気遣い、その「座り位置」を決めた時。
私の体に変化が起きた。
ナビが微笑みながら、私の髪を一束すくう。
少し伸びた、左側の緑色の髪を。
行ってこい。っとズーミちゃんが髪を揺らす。
私の右側と同じ、青色の髪を。
受け取った絶大な力が、身にまとっていたユニちゃんの服を破き、新たな服を作り出し体を覆う。
ズーミちゃんの体と同じ、プニプニとした感触の青い衣裳。
ナビの様に、自由に空を舞うための羽を背に生やし。
少し伸び、青と緑の二色になった髪を広げ、私は光と影の化身の戦い。
そして、愛するタチを助けるために、飛び立った。