第44話 質感。
文字数 1,032文字
目を開くと…遠い青空と、白い雲。
全身を覆う浮遊感は、水の上に浮かんでいるせいだ。
チャプン。
体を起こして辺りを見渡す。
水の高さは腰下ぐらい。
そのわりに、周りの景色が高く感じる。
自分の手を見る。
とても小さい。今まで経験したことない小ささだ。
意識に焼き付くのは、目を見開いたタチの顔…それと血飛沫…。
体から力が抜け、膝が崩れる。
思考は回らず、気力も沸かない…。
四つん這いになった私の目には、水面が鏡となり幼く、小さな顔を映し出す。
見慣れない少女…。左右で違う色の瞳に、金色の髪。
神から人に受肉する際、人の信仰の力を使って形作った。
人が私を引き寄せたのだ。
その力はイトラが言ってたように、失われつつある。
神を信じる者は減り続け、残る者も私ではなく、イトラを願っている。
できることを…タチが私を褒めてくれた部分の一つ。
軽く、体を動かしてみる。
絶大な力も、特殊な能力も感じ取れない。
たぶん今回も、なんにもない「ただの人」だろう。
どうしよう?ここはどこだろう?
転生するたびしていた、初期行動が冷静に行えない。
どうしても彼女のことを考えてしまい、そのたび最後の場面が頭をよぎる。
顔を振り、自ら両頬をペチリと叩く。
タチに会いたい…。だから、今でできることをまずやろう。
タチの強さを信じて。
握りしめた拳の周りに、水の球が小さく浮かぶ。
今の体なんかより、はるかに馴染んでいたために気付かなかった…。
源の力。
青い友人から返してもらった、力は幸い引き継げていたようだ。
小さな体ひとつで池にたたずむ私に、少し勇気をくれる。
見渡してみても、周りにあるのは緑の木々と生い茂る草花。
水場なのに踏みしめられた後もない、近くに人里はなさそうだ。
野生動物や魔物に襲われるとか、迷子になってとか…。
前者なら別に構わない。
痛みはあるが、すぐ新たな地点から始められるというだけだ。
とりあえず水からでようと足を進めた途端。
何者かが私の体を抱きしめた。
まさか…!と思ったのは一瞬。
振り返ると色白のお姉さん。頭に生えた角がとっても特徴的だ。
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