第29話 二人乗り。
文字数 2,434文字
貸し馬に鞍をつけ、出発準備を始めるタチにストレが泣きついていた。
この人、私が会ってから顔に涙を浮かべている時間の方が多い気がする。
3時間ほど馬を走らせた所にある街。そこが今の私たちの目的地だ。
山羊乳の料理を食べるために!
お腹の空き具合的にも、宿がとれるかも心配だ。
港脱出の日がずれるのを恐れたストレ。
だが必死の提案は、もちろん一蹴される。
浮かんだ涙は、港街への絶望か、タチの圧からきた恐怖か…。
大丈夫だよストレさん。タチはここに居座るつもりなんてサラサラないから。
ずるいぞ…色んな種類の料理を教えておいて、それを人質に取るとは…!
答えは分かっている。
既に何度も私のお腹は鳴き声を上げている、だけど、ご褒美が予定されていたから我慢できていたのだ。
グッと親指を立てるタチ。
頭に疑問符を浮かべるストレ。
覚悟を決めた私。
大きな胸を後ろから押し当てる変態と。
たまに体をまさぐられる神と。
なぜか一人馬に乗る事となった物乞いは移動を始めた。
3時間。
少し多めに口にしてしまったパンを噛み締め、ありがたく味わう。
テッドの街に着いたのはギリギリ夕方。
手早く馬を返し、戻し金で宿を借りた。
鶏肉の上にたっぷりと山羊チーズが乗った肉にかぶり付くタチ。
丸机を三人囲んで、お食事中。
山羊チーズをのせこんがり焼かれた硬いパン。
上には輪切りのトマトにお肉が少々…。
そんな私とお揃いの食事が進んでない。
席についても、かしこまったまま一向に注文が進まなかったストレさん。
私の限界 (お腹の)が来て、勝手に同じものを二つ頼んだのだ。
涙をこぼして、食を進めるストレさん。
もう基本の顔が泣き顔なのだろう。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/b014e87ad8b8c419652a89275ce22a02.jpg)
はじまるいつも通りの会話。
食と性。決して譲らない二人に論客。
彼女にとっては当然の疑問だろう。
頬にトマトの欠片をつけて不思議そうに私を見つめる。
お口にお肉を入れたままおしゃべりするタチ。
ストレは私たち二人の顔をキョロキョロ見比べ、何かに気付いて目を見開く。
ただの仲良しの友達ぐらいなはずだ。
…他人から見ると違って見えるのだろうか?
せっかくの至福の時間に邪魔が入る。
今を生きる女タチは、経過とか過去とか興味がなさそうだ。
気になって仕方が無いようで、食事の手を止め質問を続けるストレさん。
何ですか、その表情?口から火でも噴きましたか私?
気まずい視線を受けながらも、タチの差し出したお肉を一つ頂く私。
いつもの、交換っこ。
驚くべき正体は隠してるけど、彼女が気にしているのはそこじゃない。
私が神だと知っても、今より動転してくれない可能性すらある…。
私は美味しくお食事したいのだ。
みんなで会話は良いけど、話題がよろしくない。
タチにお返しのパンを一切れ渡し、気になっていた事に突っ込む。
私の身長は150ちょっと。
彼女も2,3センチ高い程度で、タチより顔半分は低いのに、チビ呼びはないだろう。
背比べをした記憶はないが、たぶん私の方が低いだろう。
言い返す気はない。
3人でわちゃわちゃ食事をしていると、青い友人の事を思い出す。
もうアルケー湖に戻っているだろうか?
右手袋の内ポケットにしまった、贈られた青い宝石を取り出して眺める。
後でちゃんと洗うから許してね。