第46話 ちゃんと並ぶ友。
文字数 3,553文字
ユニちゃんの水上高速移動により、アルケー湖には予定通り三日で到着した。
水上はおんぶされて移動。陸地はおてて繋いで移動。
特に問題も発生せず、紅茶をたしなんだり、おやつを楽しんだり。
人形遊びをしているような生活。
私は人形役だったけど。
土の化身ダッドとの戦いから、店並も人通りも完全復活している、根性ある土地で、水色おさげの人影に走り寄る。
勢いよく抱き着いて、感触を確かめる。
このプニプニした肌触り、ひんやりとする心地よさ…!
懐かしい。
私の元部下で、現親友。
水の化身ズーミちゃん。
土の化身ダッドとの一件以来、地元では身を隠す必要もないのだろう。
全身を覆う、怪しげな皮服を着ることもなく、素のままでかき氷の待機列に並んでいた。
あぁ。懐かしき、安心する声。
ギュっと握りしめた私の腕が、ズプズプとズーミちゃんの体に沈んでいくこの感覚。
体が縮んだせいで、前よりズーミちゃんの体が大きく感じるけど、たしかに我が友だ。
突然の不審少女出現にも、疑うことなく受け止めてくれる我が友ズーミちゃん。
転生とか神とかの面倒な説明は、化身で友達の彼女に必要ない。
一番最初に打ち明けたのは彼女にだ。
あぁ。懐かしき食べ物談義。こんな話を毎日してたのだ…もう半年も経つのか。
…半年?ズーミちゃんと別れたのってそんなに昔だったけ?
私とズーミちゃんのやりとりを、ムフムフ眺めていたユニちゃんが「ちゃんと眼福の対価は払うユニ」と言って、かき氷の列の最後尾へと消えた。
私は掻い
タチとフィルル高原にたどり着き、聖地パンテオンに飛び立とうとした事。
そこにイトラが現れて、私とタチが…襲われたことを彼女に話した。
今から急いでもどっても、数か月はかかる旅になる…。
それでも、私は戻りたい。タチの所に。
信じない。最後にみた光景なんて。
毎夜、夢に出る
私は信じない。タチは絶対負けるはずない。
例え首が斬り落されたって…。
考えすぎないようにしている。
思い過ぎないように。
正常な判断をしたとたん、きっと私は動けなくなる。
目的を見失ってしまい。
ズーミちゃんが言ってることが頭に入らなかった。
私がついこの前居た、あの場所がもう無い…?
土の化身と火の化身の大ゲンカ…。
その衝撃は別大陸も襲い、ズーミちゃんが水の化身を引き継いだきっかけとなった。
それほどの戦いがあの後に?
何百年に一度の大変動、その中心に私達は居たことになる。
ただの人などひとたまりもない状態だろう。
まして…直前に首を落とされたタチは…。
それでもそれでもタチなら…。
ずっと合わせてくれていた目線を、少しズラすズーミちゃん。
なにか言いにくそうに、口を紡ぐ。
そうなのだ。タチが生きてる。
その事実だけで、踊りだしたいほど私は世界が肯定できる。
私の心を察したズーミちゃんは、口を開く。
タチのよく言っていた、酒場で一番盛り上がる話題というやつだ。
ようは
まさか、自らがおいしいお話にされるとは…。
次の私が地上のどこで生まれるかなんて、タチにはわからない。
だから私に見つかる様に…。生きてるぞって伝えるために、主張してくれてるんだ。
…エッチな話で!
船の上や馬旅で散々きいた、タチのしょうもない話を振り返ると、それはもうスケベで、具体描写の多いお話がでまわってるのだろう…。
私の知らぬ各地で…。
こっぱずかしい。
恋の話と濡れ場の話、いつの時代、どんな場所だって興味を引くし、広まりやすい…。
タチが散々言ってた事だ。だからこそとわかってはいる。タチらしい存在証明。
だけど、彼女の事。いつも私に言ってくれたような歯の浮く言葉を、恥ずかしげもなくばら撒いているのだろう。
死ぬほど恥ずかしい。ちょっと嬉しくもあるけど…。
見覚えのない情事が付け加えられているようだが、たぶんタチのせいではないだろう。
雑で、荒くて、感染力がある、「尾びれ背びれ」それこそウワサ話の性質だ。
もろ刃の剣として、受け入れるしかない。
わが友が信じ切って、危ない性癖を心配してくれてるのは気まずいけど。
まぁ。後々、経験してみれば事実になるし。
なにはともあれタチに会いたい。
かき氷を三つ持ったユニちゃんが背後で佇んでいた。
可愛らしい見ためで「あの女絶対殺すユニ…!」と憤死しそうなのは、首絞めプレイを想像したからだろう。
歯を噛み締めすぎて、バキバキ恐ろしい音がしてる…。
パクリ。
ミルクかき氷をひとくち口にする。
甘い。
いや~、良かった。なによりタチが無事っぽいことが確認できて。
