第26話 海と空。タチと私。

文字数 2,489文字

 穏やかな夜風が、髪をさらう。

 見上げれば透き通る星空とお月様。


 静かな波音が心の根元を少し、切なくさざめかせる。

風の大陸…。楽しみだね。
 木製の手すりに両肘を乗せ、飽きることのない美しい景色を眺める。
別段、代わり映えのする場所でもないがな。

 並んで空を眺めていたタチが、知った風な口を利く。

 退屈しのぎに、二人で一番輝く星を探す遊びをしていた。

知ってるみたいに言うね。
風の大陸の出だからな。
えっ!?そうだったの?
 サラっと頬杖つきながらしゃべるタチ。

 意外な情報を耳にして、私は彼女の顔をの覗き込んでしまう。

言ってなかったか?水の大陸には剣を取りに足を運んだだけだ。
聞いてない!そういう事早くいってよ!
(今まで聞いた話と言えば、どこそこの女は感度が良いだとか、なんとか族の男はアレがおっきいだとか…。実りの無い情報ばっかり!)
水の大陸に来たのが一年前程だ。
野暮な話じゃなくて、そういう事教えてくれれば良かったのに。

 タチが突然出歩く場所もない船の上、必然的に二人きりで話す時間が増えた。

 …タチは主に下品な話だけど。

こいつを手に入れたら聖地ケサに向かう予定だったんだがな。

 軽く腰に差した神殺しを触るタチ。

 タチの見通しと違い、現在、風の大陸に出戻り中。


 私に付き合って、別の聖地…世にいう旧聖地を目指している。

すっごい今更だけど、本当に良かったの?
もちろん。予定通りなどつまらん。ナナと一緒に居たいのだ。
 自分の思いのままに…ずっとそうやって生きてきたのだろう。
…ありがとう。
好きにしているだけだ。

 出会った当初より、私もタチに興味と好意も抱いている。

 ただ、手持ち無沙汰に胸を触るのはやめて欲しいけど…今みたいに。

どのあたりで生まれたの?国の名前とか聞いてもわからなそうだけど。

 私も風の大陸で生まれた事がある。…確か七回目の人生だ。


 魔の住処と言われる「カイツールの森」

 あふれ出る魔物を刈る戦士たちの一人。拒絶の弓使いと呼ばれていた。

 ある日、喉が渇いて井戸を汲んでる最中、井戸に落っこちて死亡した。

私たちに国はない。遊牧の民だ。
…なるほど。

 四大陸一大きな風の大陸は、大草原が有名だ。

 広がる平野には多くの動物と色々な人が住む。国の数も大陸一多く、生活様式も様々。

 その一つが遊牧民族だ。


 そうか、ちょっと納得してしまう。

私たちは留まらない。大陸を移動し、肉を食い、乳を飲み生活している。
ずっと走り回ってるの?
居つかないというだけだ。たまに街にもよる、毛皮や工芸品を取引するためにな。

 どんな暮らしなんだろう。言葉で聞いても想像が難しい。

 でも、馬に乗るタチは絵になりそうだ。

いつ頃、離れて一人に?
 質問続きになるが、興味がある。タチの昔に。
六・七年前だな。突然嫌になって逃げだした。…なんとなくだ。なんとなく自由になりたかった。
なんとなく…。
 なんとなくで家族と離れ、ずっと一人でいるのだろうか?
(寂しかったりしないのかな…。)
フル族は実力主義でな、女であろうと力があれば狩りもするし、指導者にもなる。私の母のように。
タチの…お母さん。

 そうか、タチにも親がいるんだ。

 生き物なのだからあたりまのはずが、まったく私にはしっくりこない。

 

 神の私には永遠に手に入らない存在。親。

 きっとタチに似て気が強く芯の強い人なのだろう。

知らなかったのだ。私たちの生活の方が、他の村や町…国に所属して生きるより遥かに自由だったという事を…。
(私は今のタチしか知らない。変態で、強引で、格好つけで、憎いが様になっている強い人。)
驚いたものさ…街で生活を始め、城で下働きをしてな。自分が削れていくのがわかった。
大変だった?上下関係とか。
と言うより、自分を見失ったな。…すぐに嫌気がさして、しらばっくれたが。
ザザー。

 波音がする。広く大きな海の上。少し強めの海風が吹く。

次へ次へと他を探し、体一つで歩き回った。
 結い上げた黒髪が風で舞い、タチの顔を隠す。
だが、結局フルが一番ましだった。…私の血は、生まれた通りをの型を望んでいたわけだ、つまらんことに。

 何か声をかけたいけど、どういっていいのかわからない。

 ただ、黒い海を眺める美しい人に、よりそう事すらできずにいる。

全てに腹が立ってな。フルに戻ることなく、一人流浪の剣士となったわけだ。

 そう言って私を見るタチの表情は、いつもよりちょっと寂しそうに見えた。

 夜のせいか、海のせいか、ただの勘違いかもしれないけれど。


こんな話つまらないだろう。ギャルン族の舌使いの話の方が盛り上がる。
私は聞けて嬉しかったよ。
 素直な感想を言葉にする。ちゃんと話を聞いてたよ。と伝えたくて。
ステビチ嬢達の腰使いの話よりか?酒場では最高のおかず話だぞ?
私は嬉しかったの!
 いつもの流れに持っていかれそうになるも、誰かさんの真似して強引に、自分を押し付けてみる。
そうか…なら、たまにはいいかもしれんな。
そうだよ。綺麗な夜空の下だもん。

 一緒に探した一番輝く星。確かお月様の真下にあったはずだけど、今はもう見分けがつかない。

 タチの事が気になり過ぎて…。

私が一番嬉しいのはな、人とぶつかる時だ。
ぶつかる時?
戦いでも、愛し合う時でも、体を重ねると心が通じる瞬間がある。相手と自分を感じる時が。それが好きだ。
…本当にあるの?

 どんなに近づいたって、他人は他人じゃないのだろうか?


 きっと私にはわからない。何度人生を繰り返したって感じたことなどないのだから。

 だって私は…

ある。私が今一番感じたいのはお前だ。

 タチが私に向き直り、腰を引き寄せ顎に指をかける。

 近づいてくるタチの唇…。今まで何度も迫られ、その度拒絶してきた。


 雰囲気のせいか、そんな気はないのに、自然と瞼が落ちてしまう。


 黒い海と黒い空。広がる世界に、二人寄り添っていても、あまりにも小さく虚しい。



 優しく、ゆっくりと、ふたりは重なった。

 柔らかい感触と同時に、切なさが湧き上がる。心臓が締め付けられ、胸が痛んで高鳴りがとまらない。



 しっとりとした世界で、私は少しだけタチの事を感じられた気がした。 

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登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

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