第45話 水面になりたい。
文字数 3,741文字
角の生えたお姉さんが、私のおでこにグリグリと鼻をあて匂いを嗅ぐ。
ユニコーン…?確かにユニユニ言ってるし、額に立派な角も生えてるけど…。
私が一度見たユニコーンは、もっとちんまりとした可愛らしい生き物だった。
私の唯一知るユニコーンと、外見は一致しないけど、話を聞く限り同一なような…?
穢れって、たぶんタチのことだよね?「処女を湖に投げ込めば会えたのか!」って言った外道の。
どうやら本当に、風の大陸へと向かう道中で出会ったユニコーンらしい。
始めて会った時は三頭身ぐらいで、今の私より小さな体をしていた。
シルエットは、こんなほっそりとした縦長じゃなくて真ん丸の。
口元を両手で覆い、一つ大事な情報を手に入れたことに喜び驚く。
前いた地点からだいぶ離れてしまった。
上半身をかがめて、私の胸元に鼻を付けクンクン匂いをかぐユニちゃん。
まるで犬みたいだ。
タチに会いたい。今すぐあってくっつきたい。現在地はわかった。一歩近づけたと思うと、余計に気持ちがはやる。
でも彼女の事を思い出すと、どうしても甘い思い出より、強烈な場面が前に出て、不安と恐怖が湧き出てしまう。
最後に見たあの光景が…。
図々しいお願いだけど、なりふり構っていられない。
まずはわが友、水の化身ズーミちゃんの所に向かい、助けを得なければ。
居ないタチには敵意満載だけど、私には優しいユニちゃん。
彼女の真っ白な手をとり、感謝する。
順調順調。このまま一刻も早くタチの元へ…。
可愛らしい見た目と、種族の問題で聞き捨てられるが、怖い発言な気がする。
今の私にとって大変都合がよろしいので、とやかく言ったりしないけど。
あれ?物騒な発言をスルーしたせいだろうか?より問題ある発言が続いた気がする。
因果応報、自業自得その手の文字が脳に浮かんだ。
あれれ?なんかこの強引な感じ、ユニちゃんの憎む、真反対の存在なはずな誰かさんと似ているぞ?
私の大好きな、おてんばさんと。
一刻も安否を確認したい想い人と…。
勝手にしゃべって、勝手に高ぶっていくこの感じ…。似ているあの人に。
始めて出会った時、タチはユニちゃんの事をなんて読んでただろうか…。
そう「
この際素っ裸でも走り出そう。そう思った私に向かい、無垢で、美しく、可愛らしい笑顔で、ユニちゃんが微笑む。
私の掴まれた両腕から、確固たる意志を感じさせながら。
まともな言葉も交わさず、覚悟もないまま、突然の出来事で…。
最後に目にした血塗られた光景を、私は認めていない。
タチは…タチならば。必ず生きてるはずだ。
そうじゃなきゃダメなんだ。
タチの二文字を口にするたび、こぼれそうになる涙をグッと堪える。
だって今は、優しく拭ってくれる彼女の前じゃないんだから。
うつ向き考え込むユニちゃんに
持ち合わせは何もないが、想いと願いは本心だ。
差し出せるものは全てさしだしても、タチに会いたい。
根は優しいのだろう。乙女に対して限定だけど。
願いが通った喜びで、軽く返事を重ねたが、実際二人が対決することを想像すると、ユニちゃんに申し訳なくなる。
酷い目にあわされそうだ。
ユニちゃんのキラキラ光る瞳から、輝きが一瞬消えたような気もするが、見なかったことにしよう。
ともかく一歩でも先に進まないと。
早く行動をおこしたくて、体がソワソワする。
ユニちゃんの角が、ピカーっと光り輝いた。
真っ白な光の中から、綺麗に折りたたまれた、お洋服が一式現れる。
もし、できたらしたんだろうな。…乙女を。
寂し気に洋服を見つめるユニちゃん。中身ではなく服だけを集めた彼女の背中には、味わい深いものが漂っている。
うん。再びわかった。これがユニコーン。
乙女にただならぬ執着心を持つ生き物。
非常に厄介だ。
私がその、子供服と肩を並べてる神だよ!の説明は面倒だし、おしゃべりが長くなりそうなので伏せておく。
必要な事。へそをださないと調子が悪くなる事だけは、ちゃんと言っておこう。
ユニちゃんは手にしたお洋服を輝く角にしまうと、違うお洋服を引っ張り出してくれた。
大変便利な能力だ。
過ちの香りが漂うのは気になるけど。
陸に上がり、じっくり見られながら着替えを終える。

見守るというか、至近距離でじっくり観察してたけどね。
それがお返しになるなら安いものだ。
まずは、アルケー湖。ユニちゃんが言うには、ユニちゃんの背に乗って川をいくつか下れば、三日で着くそうだ。
着いたらズーミちゃんに会って事情を説明し、力を貸してもらおう。
力が無理でも、風の大陸まで戻る資金をせびらないと。
ニコニコ笑顔で、おんぶの形のまま私を待つユニちゃんに、私は逃げることなく立ち向かうのであった。
立ち止まってしまわぬよう、焼き付いた光景から、目を背けて。