第42話 誰が神を慰めるのか。
文字数 3,677文字
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瓦礫の山の中。夜を迎える。
黒衣の男は無事に体をつなげ、指をならし現れた黒馬と共に消えた。
必ず帰ってきます。
そう言い残して。
私はタチに沢山抱かれた。
タチに触られていると、自分の中身を強く感じる。
感情なのか、心なのか、魂なのか…。
感じているのは肉体なのに、自分の中身が揺さぶられる。
誰に向けてかもわからないけど「ごめんなさい」と繰り返し謝る私に、タチはずっと「良い子だ」と返してくれた。
愛してる。大好きだって。ずっと、ずーっと伝えてくれた。
私は涙が枯れるまで泣いて、必死にタチにしがみ付く。
何もかも忘れて、今だけを感じていたいという願いと。
自分は神様なんだって、自責。
どうしてこうなってしまたんだろう。という不安で。
私の中で沸き乱れる、ぐちょぐちょした感情と、快楽に溺れながら。
夜空の下、タチに包まれて、声を上げる。
ちなみにストレちゃんは空気を読んで、私たちのいる小屋の跡地じゃなく、離れた馬の所で寝てくれてたみたい。
本当いつも、申し訳ない。今度3人で美味しいものをたくさん食べようね。
タチが、乱れて汗で張り付いた私のおでこの髪を整えてくれる。
乱れ毛を整え終わったタチが、おでこに一つキスをくれる。
不正解者にも優しい強者だ。
タチの唇に人差し指で触れる。
自分で振ってしまった話題に、少し後悔する。
私が何者かなど関係なく、今は「タチの下」として可愛がって貰えてたのに。
胸の奥がちょっと痛む。
タチはいつだって素直だ。隠すことも、恥じることもしない。
その強さが、私の弱さを引き立てる。
わかっている。わかっているのに、ちょっと不安になる。
もし、私が本当にただの人間だったら、タチはここまで優しくしてくれたのだろうか?
私に興味をもってくれたのだろうか?
タチは…どこまでも「我」の人だった。先とか後とか、周りとかなく。
さっき言ってた、強さだってそう。タチの強さは相対じゃない。
たった一人でもきっと強い。絶対的な強さ。
あぁ。私は、この人を忘れる事などできないのだろう。
例え、例え神に戻ったとしても。長い月日が流れたとしても…。
タチの体にしがみ付く。
憎らしいほど、タチの事が好きになってしまっていて。
しがみ付いた私の両手は彼女の体に食い込み、重なった個所から血を流す。
タチは私に負けないぐらい強く体を抱きしめ、優しく頭を撫でてくれる。ゆっくりゆっくり。
いつもの通りに。
顔も知らん父が母に注ぎ、母は受け止め私が作られた。それまで一片たりとも私の物などこの世になかったが、今私は私だ。ママの思い通りに動くこともないし、自由に生きてる。両親を否定することだってもちろんできる。感謝することもな…。
タチの熱い体温と、心臓の鼓動が聞こえる。
今この瞬間を生き。私に言葉を向けてくれる彼女を感じる。
私の延長などではない、確かな他者を…。
やっぱり。やっぱり。タチと居るせいで、泣き虫になる。
枯れたはずの目元から、溢れるはずの無い涙が湧き出てくる。
全部。全部タチのせいだ。彼女の起こす不思議な魔法で私はこうなってしまったんだ。
きっと彼女が存在するから、私は人になりたいって思って、肉体を得て――
そう、もう一つの。最大の不安。
こんなに好きで、こんなに頼りになって、こんなに素敵な人を。
いつか、必ず失ってしまう時が来るという恐怖…。
タチがきつく私を締め上げる。
体から空気が抜け、心から苦しみが絞り出される。
私の一切が零れてしまわないよう、タチは唇を重ねながら。
長い。長いキスだった。
息継ぎをしなければこのまま死ねるほどの。
優しく優しくおでこにキスがされる。
出会ってからの短い期間で何度キスされたことだろう。
私が、神である私が、味わう事など想像もしてなかったであろう気持ち。
仕える心と、慰められる喜び…。
ずっとずーっとこのまま…今だけが続いてくれれば…。
懐かしい。私の最初で最古の他者。
光の化身イトラ。