第52話 再開。
文字数 3,958文字
そびえ立つ石造りの城壁は、平らな草原を駆け抜けてきた私達に、とても巨大で威圧的な印象をあたえる。
私の体が前よりもだいぶ小さいから、そう感じるだけかもしれないけど。
[ウィンボスティー]
四大陸でも一番大きな土地、風の大陸の王都の一つ。
巨大で威圧的な壁の内側に広がる光景もまた壮大だ。
数多くの石造りの建造物に、大通りには人の波。
広い。でっかい。
この巨大な街並みのどこかにタチがいる。
私の前を歩いている、白くてフワフワの物体が一つため息をつく。
ユニちゃんの
街中を探索するうえで変装を必要としたのだが、余りにふわふわフリフリが全身を覆うその姿は、逆に目立ちまくっている。
とはいえ、体の大部分を隠すのが必須条件で、協力者が乙女好きな以上「歩くわたあめ」みたいな結果は必然であった。
私の体は今までで一番「しょぼい」
旅の疲れはなかなか取れないし、そもそもの体力がない。
前回と同じく、能力も才能もない、何にも無しのナナ。その縮小版。
それでも、ここに来るまでに寄った村や出会った人たちの話が、裏付けという気力を沸かせた。
変態神抱き女は、ウィンボスティーに確かに滞在していると…!
胸の騒めきが抑えきれず、はやる気持ちが抑えきれない。
抱えたチビユニちゃんも震えプルプルしている。闘志で。
再会が待ち遠しいのは私と一緒だけど、秘める思いは正反対。
自分の頬を叩き、疲労の抜けない体に活を入れる私に、ズーミちゃんが指し示す。
その指の先では女性が二人、興奮気味に会話をしていた。
なんかもっとこう、ここまでの道乗りもあったし、へとへとになりながら酒場と宿を何軒も駆け巡り、ついに二人は…!!
的な事を想像して気力を振り絞ろうと思ってたんだけど…。
余りにもあっさりと、苦労せずに霜降り亭は見つかった。
直後に話しかけた男性が「お前もか?」と呆れられながらも、教えて貰えたから。
二階建ての酒場付き宿屋の扉をくぐる。
中では場所通り。何組もの人がまだ昼下がりだというのに、酒を手にし談笑を繰り広げていた。
広い店内の一組だけを避けるように、酒場の日常がそこにある。
階段そばのテーブル。
そこだけを避けて。
入口からまだ一歩も進んでいないのに、私は叫んでいた。
避けられたそのテーブルに向かって。
見知った顔三つと、風の化身が居るそこに。
私の声に店内の全員が振り返り「またか…」と一瞬で興味を失う。
タチ以外の全員が。
何知らない女とキスしてるのさ!って平手の一つでもお見舞いしてやる計画は、両腕を広げ立ち上がるいつも通り過ぎるタチの姿で
勝手に走り出した両足に筋力などなく、倒れこむようにタチの胸に吸い込まれる。
ずっと拭えずにいた、タチの首が飛ばされた光景。
大丈夫、エロ話を撒き散らかしていると言われても、消えなかった不安。
それが今実態で、質量あるタチに抱き留められて消し飛ぶ。
タチはタチの声とタチの顔で、嬉しそうに私を抱きしめる。
前と体が違うせいで受ける感覚はちがうけど、しっくりくる感じは同じだ。
でも「きっと」って何さ!
抱き合う私とタチの横、懐かしの銀髪、ストレが水を差してくる。
あぁ懐かしい!泣き顔適合者のストレちゃん!
タチを責め立てるストレに、なぜか犬返事で参加する黒衣の男。
かつて私達の追手で、タチに上下真っ二つに切られたあの人である。
姿かたちは依然と同じだが、いったい彼になにがあったのだろうか??
一人感動の再開をはたした私を置いて、変わらぬ日常が続けられた。
なんか色々待って欲しい。頭の整理が追い付かない。
あと私の感動の再開を返して欲しい。
さりげなく体を触りながら。
なんだろう。もっとロマンチックで悲恋の後の再会なはずで…。
なんだろう。毎夜、最後の別れの焼き付きが脳裏に浮かび、タチの生死が不安で仕方がなかったのに…。
さっきまでの切なく、しめやかな思いはどこえやら、湧き出たムカツキで声を張り上げる私。
だってこいつら…!特にコイツ!!私の気持ちもわからずにっ…!
タチは…しばらくぶりでもタチだった。
離れていても、何処にいても、ただただ彼女の想いのままに、迷いなく。
前よりもだいぶ縮んだ私の背に合わせ、少し屈んで唇を重ねる。
ジンジンジワジワ、触れ合ったところから何かが溢れて頭中、体中に広がった。
安心か、喜びか、言葉にできない、ともかくあふれるべきものが、あふれた。
ゆっくりと離れた唇。
真っすぐ見つめられ、真っすぐに返す。
あぁ。何度も交わしたこの視線、確かに目の前に生きたタチがいる。
我慢できるわけがない、それは泣いちゃうさ。
いつもの通りに抱きしめ、頭を撫でてもらう。
良かった、本当に良かった。
さっき湧いて出た
泣きじゃくる私を抱くタチと、怒り狂うユニちゃんを抱くズーミちゃんも再会を果たす。
まさかまたこの3人が一緒にいれるなんて…。
神に戻ろうと旅をしていた時の事を思うと信じられない。
いつものタチガール出現と思っていたであろう二人が、私の方をまじまじと見た。
そう、とくと見よ。私こそが真のタチガールである。
私よりも派手に泣き崩れ始めたストレと、相変わらず犬鳴しかしない黒衣の男。
こっちはこっちで離れていた数か月で色々あったようだ…。
でも正直私だってそれどころではないのだ。
私はタチを見上げる。タチも私を見つめてくれる。
今はずっとタチだけを見ていたい。
他のテーブルにお酒を運び終わったナビが、エプロンで濡れた手を拭きながら、混沌とした集まりを整理しようとしてくれる。
この場で唯一冷静な存在かもしれない。
軽々しく私を抱きかかえ、お姫様だっこで階段を上るタチ。
破壊音を口からさせ睨め付けるユニちゃんも、その他もろもろ全てをおいてタチは進む。

この感じ。
出会った当初は迷惑で、怒りすら覚えた強引さ。
それが今はとても心地が良い。
確かにナビの言う通り。
今までどうしていたの?とか。
どうして無事だったの?とか。
聞きたいことは山ほどあるけど、今の私には全てがどうでもいい。
きっとタチも。
そのまま二階の一室につれこまれ、言葉も交わさず確かめられる。
ナナとタチ。
いるのは私達二人だけ。
そうしてやっと、私はタチにまた抱かれることができた。