第24話 よよいの、酔い。
文字数 2,117文字
青い空!青い海!青い私!
同じ青でも一つだけ、爽快さと真逆のイメージを抱かせる。
湧き上がる吐き気との格闘は、まだまだ終わる気配が見えない…。
眩しい太陽も、羽ばたく鳥も、元気の象徴のように輝いてるけど、足元の私は絶不調である。
船酔いで。

ズーミちゃんと泣いて抱き合い、別れを惜しんだのは先日…。
ピチョン港をでた船は、ずっと、ず~っと波に揺られている。
当然なんだけど、それが私をこんなにも苦しめるとは…。
今の私にとってあまりにも遠い時の果て…。
いつ吐いてもいいように、甲板で座り込んでいた私の未来は闇に包まれた。
ホジマリン号。
大きな船は、百人近い人間と、大量の荷物を運んでいる。
その中で、一番重い荷物は私に違いない。
気持ち的に。
船に乗った直後、私はタチ。宣言した。
この十日程を予定している船旅。ズーミちゃんと別れた寂しさに負けず、全力で楽しもう…と。
涙さんとお別れするための意気込みだったのに、私は今もまだ涙目のままだ。
ぐっへっへ。
上半身裸のおにーちゃんが話しかけてくる。
確かに海の上、特に甲板上は暑いけど…。どこか他所で披露してくれないだろうか?
今、面倒をあしらう元気が売り切れ中なのに…。
おにーちゃんの視線を遮るように、立ちふさがるタチ。
この時ばかりは、タチの彼氏面がこの上なく頼もしい。
なんか、余計な一言があった気もするけど…。
げっへっへ。
目つきも息遣いまでも鬱陶しい…。
このままじゃ、私の気分はどんどん悪くなる。
後は頼んだ…タチ。
むっへっへ。
引く気はない様子のおにーちゃん。
やめておけばいいのに…。
意味ありげに、腰に差したナイフを一撫でする男。
逃げ場がないのはそっちだと思うけど…。長い船旅、さっそく暴力沙汰は私たちも困る。
…私´が´困る。
騒いでほしくない、私の横で。
ひんやしりた飲み物で、少し引いてきた吐き気がぶり返してしまう。
耐えがたい気持ち悪さに、ひえひえの飲み物を一口。グビリと喉に流し込んだ。船酔いで感覚が死んでいてもさすがにわかる。
これはブドウ酒だ。
波の揺れよりも大きく、足元が歪み、世界が回り始める。
万物は流転し。
ただ、時の流れの中、密度を持って
思考が
バタリ
タチが駆け寄り、私を抱え起こす。
見上げた空も雲も、ぐわんぐわんと踊り狂う。
私の脳みそも意識も。ぐわんぐわん。伸びたり、縮んだり。
その度に痛みも、もたらす…。ぐわんぐわん。
地上を照らすんだい!と言わんばかりの太陽様が、熱く、眩しく、私だけを焼き焦がす。
たえられない。もうむり。中からも、外からも焼かれている。
自分のはく息さえ熱い液体のようだ。
タチがめずらしく、どうようしている。へんなの。
笑えてきた。
手袋と靴をもどかしく脱ぎ捨てる。
汗でびちょびちょになった服も早くぬぎたい…。
私を抱きかかえていたタチの手が、男の腹にめり込む。
手首から先が見えなくなるぐらい。
とてもいたそう。
笑えてくる笑えてくる。
そのまま放って置いたら、タチの手は男の内臓になるのだろうか?
男が口から食べたものを、タチの手が消化するんだ。
タチはやっぱりつよいんだなー。
こんな大きな声で、船中にいかくしている。けものみたい。
もう、だめだ。脳みそが回らない。