第37話 夜キュン。
文字数 3,562文字
今回の人生は試していないが、どうせヘタだ。
何度転生しても、変わらぬコトの一つ…壊滅的リズム感!
一度、天使の声を持って生まれた時があった。
目指せ歌姫!と意気込んでいたものの、度を越した音痴だと判明してしまう。
その回に限らず、どの肉体をもってしても…ダメなのだ。
どうも歌に感情を乗せるとか、
ちなみに歌姫を目指した回は、天使の声と悪魔の律動を合わせた「不気味の具現」として、対魔物の戦略兵器を務めていた。
最後は仲間から「吐き気を呼び起こす悪魔」として毒殺されたけど。
うぅ…タチのお誘いを受けたい気持ちはあるんだけど、思い出してしまう。
かつて英雄と呼ばれた戦士だった人生。たぶん二回目の人生だ。
あの時から既に、周りに言われていた。
リズムやタイミングなど無縁の、猪戦士。
既に戦い方から滲み溢れていたわけだ。
実際、生まれ持っての異常な筋力と治癒力で突っ込むだけで敵を崩壊させていた。
おへそを隠すと調子が悪くなるのと同じ。
何度転生してもダメな私の特徴だ。
私が嫌がる理由はソレ。でもどんなにダメでもタチが嫌わないのはわかっている。
だから、断る理由がない。
タチに抱き寄せられて、ゆっくり体を横に揺らす。
一つ。二つ。
体に緊張がはしり、手が汗ばむ。
上手になだらかに踊る人々の中。
ただゆったり横揺れしているだけの私達。
誰も私達など気にしてないだろうけど、とっても恥ずかしいし緊張してしまう。
しかも、この程度の動きで、タチの足を何度も踏みそうになる。
いつだってタチはタチ。
私のたどたどしい足取りなど、織り込み済みの様な足運び。
優しい言葉に、安心と
神としての
いつも私の胸をまさぐるタチの腕に任せて、体を揺らす。
何度も一定のリズムでタチにつられていると、まるで自分も乗れているような気になって来る。
2人で声を揃え、ゆっくり。ゆっくり。身を任せる。
体の違和感が消え、ちゃんと肉体が操れてないそわそわする感じを、タチが吸ってくれる。
踊り始めてからずーっと、タチは私を見ている。
「どんくさい奴だな」とか思ってないのはわかっているけど、ちょっと気になる。
始めて言われたけど、タチにはきっとわかるのだろう。
流れを感じる。ゆったり。ゆったり。
密着するタチと温かさを分け合い、柔らかさを確かめる。
二人の
ただの横揺れだけど楽しいし、踊れてる気がする。
心地よい動きに、私だけを見つめる瞳。
あぁ、ダメだ。また胸が締め付けられ始める。
タチのせいだ。苦しいのか嬉しいのかわからないこの感覚。
ちゃんと答えずはぐらかしてしまう私。
体を離すと空気の涼やかさを感じ、自分の体がだいぶ温かくなっていたのがわかる。
再び抱き寄せられると、体が安心する。
離れて失われた熱と、寂しさが埋め合わされて。
だめだ…。どんどん弱くなる。
踊ることで同調した私の体は、もう抵抗できない。
どうにか言葉で足掻いたつもりが、甘えた声色では何一つ隠せていなかった。
甘くしめやかなタチの言葉。
胸のズキズキがもう一度大きく広がる。私の体を超えて。
頭半分高い、タチの顔を見上げる。
隙間がないほど密着した体。顔だけが身長差のせいで、離れている。
寂しい。くっついていたい。
タチが首を傾け、私は目を閉じ、体の全てが重なる。
柔らかく薄い唇。脱力した私の体強く強く抱きしめられた。
今まで、気を使って優しく手加減してくれてたんだね。
心もギュウ、ギュウ。体もギュウ。ギュウ。
苦しいはずなのに、気持ちが良い。
もっと近くに居たい。ずっとそばに居たい。
溶け切った私の体は、タチに強く甘く食べられていく。
踊った時より隅々まで。されるがままに身を任せ、入り込んでくる舌を受け入れる。
熱く。熱く。柔らかく。艶めかしく。
物理的な侵入に、私の体は少し反応する。
ちょっとのびっくり、ちょっとの警戒、大きな喜び。
うっすらと瞼を開き、確認する。
やっぱりタチだ。
大丈夫だ。と優しく細まった視線で答えてもらった。
再び瞼が落ちて、暗闇の中彼女だけを感じる。
お口から入り込んだタチに失礼のないよう、全て受け入れる。
だらしなくてもいい。ちゃんとくっついていたい。
踊りの時と同じ。ゆっくりうごめくタチの舌に、私はただ合わせるだけ。
小さな水音を重ね。お互いを確かめ合う。
ズキズキの痛みは繋がりやすい場所を求め、私もタチもたくさんキスを重ねる。
肩からぶら下がっていただけの私の両腕は、崩れて離れないようタチの腰にすがり付く。
それに合わせてもう一度、締めなおすように強く、タチが私を抱きしめた。
バクバク暴れまわる心臓。体だけじゃなく、全てを重ね合わさないと痛みが治まらない。
もっと、もっとタチの方へと向かわないと…。
絞るように抱きしめられても、全然だめだ。甘く切なく素敵でも、この痛みに耐えられない。
今感じてる、この苦しみをわかってほしくて、必死に彼女にすがり付く。
私もタチが好きだよと、ちゃんと伝えたくて。自分からも必至に唇を重ねる。
しょせんは私。どんなに全力で伝えようとしても、タチの言葉一つ。タチの動き一つで。
敵わないと思い知らされる。
それが、私は…。
どっぷりと情に浸かり、抜け出したいとも思わない。
ずっとずーっとキスしていたい。
何度も何度も唇を重ね、舌を絡める。
好き。大好き。
突然、私を抱きしめていたタチの腕の片方が、ゆっくりと背中を伝い私のうなじを撫でた。
ちょっと必死になり過ぎてたようだ、唇が離れたとたん、体が勝手に荒く呼吸をする。
でも、それどころじゃない、離れてしまうと息ができてもズキズキと寂しさで死んでしまう。
キスを再開しようとする私を避けるタチ。
なんでよ。いつも欲しい欲しい言ってたのに…!どうして離れるの?
ぼーっとタチを眺める。どうしよう。好きが止まらない。
タチがこれ以上離れないよう、ギュッと抱きしめる。
息をするだけで褒めてもらえる。不思議だけど当然だ。
キスを我慢してまで、呼吸してるんだから。
ちゃんと酸素も吸ったし、離れるのは終わり。
じゃないと怒る。私をこんなにしておいて…。
そっか。今より。もっと近くになれるのかな?
もっともっとタチに心が重なるのかな?
ちゃんと私の気持ち受け取ってもらえるのかな?
その夜私はタチと体を重ねた。甘く。愛しく。