第41話 すまん。やりすぎた。
文字数 4,254文字
一際は大きなリアクションをとったのはタチだった。
黒衣の男の方はジロリと私に視線を向けるだけ。
タチが混乱している…!珍しい一面を見られてちょっと可愛――だめだ!
今はそういう時じゃない!
色恋…というか、性の方向でしか思考をもたないのだろうか?
なんかもっと深~いところで、読み解かれていると思っていたんだけど…。
親友というか
今の私にその実感はないし、彼女も同じ気持ちだろう。
ただの親友ってやつだ。
やっと言えた。ずっと隠してきた事実を。
それでもタチはタチのまま、私と話をしてくれることに感謝しちゃう。
息を切らせて、駆け付けてくれたストレが、想像したであろう場の空気との落差に戸惑う。
あなたが正しいけど。
黒衣の男は、明確にタチを狙って攻撃をしかける。
今までは私が目的で、タチもストレも障害でしかない扱いだったのに。
会話…というより、口論をしながら剣がぶつかり合う。
私にはもちろん、ストレにも入り込む隙がない。
戦闘力が違い過ぎて。
男の縦ぶりで、瓦礫が吹き飛び、大地が割れた。
攻めているのは黒衣の男なのに、剣を振れば振るほど、苦しんでいるのは男の方に見える。
男の動きが荒くなるのにつれて、生じた隙をタチは容赦なくついた。
水の剣が一太刀。男の腹を掠める。
ブシュ!
前回のお返しとばかりに、繰り出したタチの反撃で、男のわき腹から血が噴き出す。
吹き出る血もお構いなしで、乱暴に剣を振る男。
一撃、一撃の隙をつき、刃を体に切り込ませるタチ。
幾度もタチの剣撃を受けながらも、衰えない男の猛攻。
斬られた傷は、次の一刀を受ける前に塞がってしまっている。
キィィン。
突然。
タチの腰で神殺しが震えだした。
抜き出された神殺しの刀身は、この場の誰よりも黒かった。
交錯した二人の黒い斬撃は、一つは空を切り、一つは男を両断した。
上下二つに。
斬り落ちた、男の上半身にタチが話しかける。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/b9a6a40d6ab20e2650e23ae5a410170d.jpg)
口からゴポゴポ血を溢れだし喋る、上半身だけの男。
まっぷたつに切り分けた、相手を抱きたいという女。
会話の内容と、見た目の状態に差がありすぎる。
死にかけの人に言うには、余りにも無神経な言葉に男が目を反らす。
見守るだけだった私達に、急に矢が飛んできた。
ストレは見た目のグロテスクさで、背を向けて、涙目でオエオエしている。
でましたよ。タチの断りずらい理不尽!
切った張本人が何をまっとうそうに…。
でも、とりあえず、やれることをやろうの精神で、ボッテリ崩れ落ちてる下半身をタチのほうに引きずろうとする。
言いつつも、太もものあたりを抱えて、切り口を上にしタチのもとへ運ぶ。
もちろん顔はそむけて。
そんな私の勇気ある行動を見て(見れてない)。ストレちゃんはただひたすらに自らを
可哀想に…助けに駆けつけてくれたのに、見せ場の一つもなく、ただただゲロゲロしている。
でも戦士ならこんな場面いくらでも…ないか。
真っ二つになった人間を繋げ直そうとする場面なんて。
直視してないとは言え香りが凄い。なんかブシュブシュ空気の潰れる音もするし…。
足元は瓦礫だらけ、転びでもしたら内臓が飛び散ってしまう…。気を付けないと…。
極めてまっとうな意見が、極めて異常な姿の男から吐き出される。
ゴポゴポ、胸下の輪切りと、口から血を吐きながら。
男の言葉はおいといて、とりあえず断面を重ねてみる。
内臓一つ落っこちたままだけど。
思った以上に元気な上半身さんが、私にどなりつける。
正直、そもそも、タチが他の人と「仲良く」している所なんて見たくない。
でも、まぁ。タチだから仕方がない気もする。
でもでも、さすがに、下半身だけと仲良くしてるとこは…想像したくもない。
戦闘中と変わらず、会話を続ける二人。
私には理解できない感覚だ。
とりあえず、言われた通り上半身につながる様に、下半身を持つ。
五分…かかえてなきゃいけないのか…。
重ねた切れ目部分からピチピチ音がするのが怖い。
男とタチが視線を交えていた。
私はただの支え役。ちょっぴり寂しい。
あと、私も吐きそう。
変わらず支え役のままだけど、だいぶん嬉しい。
でも神を殺すため、長い旅をしてきただろうにいいのだろうか?
…良くないと困るけど。
傲慢で、上からで、偉そうな、いつものタチ。
バタリ。
向こうの方でストレが倒れた音がした。
ごめんね。いっつも放っておいて。背中の一つでもさすってあげたかったんだけど…。
たぶん、今までしたきた色々な事をおもいだして。
タチは優しく男の頭を撫でた。ゆっくりゆっくり。
その姿をみても、私に嫉妬の心や、寂しさは生まれない。
不思議だけど、当然だと感じる。なにせタチだから。
許されていいわけがない…。
繰り返しつぶやく光の化身が送り込んだ刺客は、普通に悩み後悔するただの人間だった。