第64話 ブチかまし。

文字数 3,027文字

 水の剣が美しい弧を描き、土の巨人ダッドの顔へと吸い込まれる。

 

 少しずつ少しずつ。 

 寄っては離れ、空を舞うタチが攻撃を繰り返していた。

さすが。としか言えませんね。この様に自由に動き回れるのは。
 タチの足に、風の力を宿らせたナビは援護しながら賛辞を贈る。
初めてでもないからな。
とはいえ、私を味方にしてからたった数度の体験です。
私は風の大陸出だ。きっと相性がいいのだろう。
嬉しいお言葉です。

 宙を跳ねる剣士と空を泳ぐ化身。

 2人の戦う姿は、洗練されてとても美しい光景だった。

「「「うぉぉおおおぉおお!!!」」」

 そんな上品な空の下で、泥臭い雄たけびを上げる3匹の青い影が、ばく進していた。 

…なんだ?
水の玉…ですね。

 タチとナビが眼下に目をやると、大きな水の玉が1つ、凄まじい勢いでダッドの顔へと転がっていた。

 迎撃のために撃ち込まれる土塊を弾き飛ばしながら。

まったく…大人しくしてればいいのに。あいつら。
言葉と裏腹に嬉しそうですよ?タチさん。
だろうな。心配も喜びもどちらも本位だ。
今更じゃがのっ…!もうちっと近くから走るんでも良かったんじゃいのかっ!?
い…勢いがないとっ――だもんっ!!
!!!

 水の玉の中を全力疾走する私達3人。

 分厚い水の壁を頼りに「体当たりをしてやろう作戦」をただいま実行中だ。

こうしてっ…協力してると思い出すねっ…!2人で計画ねってた頃っ!!
神殺しの剣奪いか…!!なつかしいのっ…!!
うん!!

 かつて、私とズーミちゃんはタチから剣を奪うため2人で手を組み行動していた。

 アルケー湖から港までの道中、コソコソ隠れてお話したり、計画を練ったり…。

全部失敗したがのっ…!!!
それはっ…タチが強すぎたから!ほら見て!今もお空で…かっこいいし!!

 全力疾走しながらのおしゃべりなど、無駄な体力消費にしか思えないだろうけど、お話している方が気がまぎれるのだ。

 しかもなんだか楽しい気分になってくる。


 青い壁の向こうに見えるのは、空を舞う二人。

 

 あんなカッコイイ戦いに、後れを取るわけにはいかない。

 私だって…私達だって、戦力なんだから。

おぬしっ…!ちっと離れている間に「スキスキ」になりすぎじゃろうっ…!
だって…好きになっちゃったんだもんっ!!
あやつっ…ただの変態じゃぞっ!?
!!!同意と小さな歯ぎしり音)

 確かに、タチと合流してからというもの、私はべったりだし。

 確かに、タチはただの所じゃない変態だけど…。

…うぉおおおおおお!!!!
叫んでごまかしとるじゃろぉっ!!!

 全力。全力疾走である。

 いつまでもお荷物は嫌なのだ。

 

 大好きな人の、役に立ちたいのだ。

病は気からッ!!!
使いどころ間違っとるしっ!恋の病は別腹じゃしっ!!
!!!(困惑。)

 突っ込みを入れつつも付き合って全力疾走してくれる2人。

 ダッドへの「ブチかまし」まではあと少し。


「「「うおぉぉおおおお!!!!」」」

 共にもう一度、声を張り上げる。

 私はとても良い仲間に恵まれた。


バシャッ!!

ぐっご!?

 回転する水の玉がぶつかり、弾けた。

 体当たりは成功。ダッドの顔はのけぞり、その大きな体ごと傾く。

 

 効果あり。

 

 私達も、厚い水の壁に囲まれていたとはいえ、ぶつかった時の衝撃は激しく尻もちをついた。

やった!!!
まさかじゃの!!
!!(喜び)

 汗だくの努力が実を結んだ・・・!

 目に見えた成果に、3人は自然と喜びの抱擁をする。


 ちょっとは役に立てたはずだ、空の上のカッコイイ二人の。

フフフ。楽しい子たちですね。
だろう?私の自慢の女だ。

 私達の攻撃で手を止めていた上空の2人が、こちらへ手を振る。

 私も喜んで振り返すと、ゆっくり傾き続けていたダッドが停止した。

止まったの…。

 ズーミちゃんの言う通り。

 斜めで静止したダッドは、攻撃も迎撃もやめ大人しくなってしまった。

 さすがに、今の一撃で倒しきれるとは思っていないが。どうも様子がおかしい。



ボコボコボコ!

 

 私達の立つ地面、ダッドの体中から土塊が盛り上がった。

 それは1つずつ切り離され、人型に形を変える。

…第二形態か。
 慌てた様子もなく、タチが私達のそばに降り立つ。
あまりにも大きすぎましたからね。私達と戦うに適していません。
 続けて寄った風の化身ナビも、冷静に状況を判断し言葉にする。
なるほど…。どでかい状態で暴れ、空を来るであろう、わらわ達の「おびき寄せ」と「捕捉(ほそく)」をしたわけじゃの。
…なるほど!

 納得のズーミちゃんと、とりあえず同意しておく私。

 だって、戦いの事とかよくわからないんだもん。

ここからは物量作戦というわけだ。

 タチが言いながら、腰のもう一刀。神殺しの剣を抜く。

 その動作が終わるよりも先に、出来上がった「土人形」達は走り出した。

ナビ!いつも通り私と手分けだ!離れるぞ!
はい。

 タチとナビ。2人は私達3人を挟み込むように、素早く位置取る。

 私の居なかった2カ月。その間も彼女たちはこうしてダッドと戦っていたのが良くわかる。

ナナ。おぬし余り離れるなよ。わらわがフォローする。
わかった…!足引っ張らないように気を付ける!

 ズーミちゃんの指示に(うなず)き、周りを見る。

 押し寄せる土人形を次々切り伏せるタチ、風を使い吹き飛ばすナビ。

 

 2人の間をこぼれて(せま)る残りを、私、ズーミちゃん、ユニちゃんで相手する。

 中でも一番戦力として低いのが私。

えいやっ!

 源の力「水」を込めた拳で、近寄る土人形を殴りつける。

 どうにか戦うことは出来そうだけど、一体倒すにも苦労。

 

 出過ぎないよう注意をしつつの戦い。

 危ない所はズーミちゃんが手を伸ばしたり、体を伸ばしたりして手助けしてくれる。


 そんな私の補助付き戦闘とは真逆で、意外に強いのがユニちゃん。

 日頃のたまったうっぷんを発散するかのように、角を土人形に刺し、体をねじってなぎ倒す。

 

 ボコボコ湧いて出る土人形を、ばったばったと倒していると、地面が徐々に削れていきダッドの体積が減っていく。

 

 何十体も何百体も倒してるけど、下を見れば地上はまだ遠い。

 ダッドの余力はまだまだあるだろう。

はぁ…。はぁ…。一番役に立ってない私が…。一番疲れているという…残念な事実。
無理をするなよナナ。
うん。気を使わせてごめんね。ズーミちゃん。

 拭っても拭っても額から汗が流れ落ちる。


 小さな体、少ない体力…今までで一番戦闘に向かないと思っていたが、思いがけないことも1つあった。

 ズーミちゃんから返してもらった源の力。

 

 始めて使ったのは前のナナ。

 ポチ君との戦で使用した時は、激しく消耗しすぐに体調を崩した。

 でも、今回は持続的に戦えている。

 

 たぶん、産まれた頃から備わっていたからかな?

 ユニちゃんの前で目覚めた時、この肉体よりも「源の力」の方が馴染んでいたのを思い出す。


ナナ!少し休んでいろ!
 タチが一薙ぎで5体の土人形を斬り倒して、私に目線を向ける。
大丈夫!まだ戦えるよ…!

 肩で息を吐きながら、答える私。

 強がり半分、本心半分。ダッドの体積を見れば、まだまだ戦闘は続く予定だ。

 こんな所で弱音は吐きたくない。

いいか。無理はするなよ?
うん!

 私のそばに一瞬より、頭を一撫でして飛び去るタチ。

 もちろん、敵を倒しながら。

 

 私の第一目標は、足を引っ張らない事。

 絶対無理はしないようにする。

 

 頭に触れた優しい感覚を噛み締めながら、意識を引き締め直すのだった。 

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登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

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