第64話 ブチかまし。
文字数 3,027文字
水の剣が美しい弧を描き、土の巨人ダッドの顔へと吸い込まれる。
少しずつ少しずつ。
寄っては離れ、空を舞うタチが攻撃を繰り返していた。
宙を跳ねる剣士と空を泳ぐ化身。
2人の戦う姿は、洗練されてとても美しい光景だった。
そんな上品な空の下で、泥臭い雄たけびを上げる3匹の青い影が、ばく進していた。
タチとナビが眼下に目をやると、大きな水の玉が1つ、凄まじい勢いでダッドの顔へと転がっていた。
迎撃のために撃ち込まれる土塊を弾き飛ばしながら。
水の玉の中を全力疾走する私達3人。
分厚い水の壁を頼りに「体当たりをしてやろう作戦」をただいま実行中だ。

かつて、私とズーミちゃんはタチから剣を奪うため2人で手を組み行動していた。
アルケー湖から港までの道中、コソコソ隠れてお話したり、計画を練ったり…。
全力疾走しながらのおしゃべりなど、無駄な体力消費にしか思えないだろうけど、お話している方が気がまぎれるのだ。
しかもなんだか楽しい気分になってくる。
青い壁の向こうに見えるのは、空を舞う二人。
あんなカッコイイ戦いに、後れを取るわけにはいかない。
私だって…私達だって、戦力なんだから。
確かに、タチと合流してからというもの、私はべったりだし。
確かに、タチはただの所じゃない変態だけど…。
全力。全力疾走である。
いつまでもお荷物は嫌なのだ。
大好きな人の、役に立ちたいのだ。
突っ込みを入れつつも付き合って全力疾走してくれる2人。
ダッドへの「ブチかまし」まではあと少し。
共にもう一度、声を張り上げる。
私はとても良い仲間に恵まれた。
バシャッ!!
回転する水の玉がぶつかり、弾けた。
体当たりは成功。ダッドの顔はのけぞり、その大きな体ごと傾く。
効果あり。
私達も、厚い水の壁に囲まれていたとはいえ、ぶつかった時の衝撃は激しく尻もちをついた。
汗だくの努力が実を結んだ・・・!
目に見えた成果に、3人は自然と喜びの抱擁をする。
ちょっとは役に立てたはずだ、空の上のカッコイイ二人の。
私達の攻撃で手を止めていた上空の2人が、こちらへ手を振る。
私も喜んで振り返すと、ゆっくり傾き続けていたダッドが停止した。
ズーミちゃんの言う通り。
斜めで静止したダッドは、攻撃も迎撃もやめ大人しくなってしまった。
さすがに、今の一撃で倒しきれるとは思っていないが。どうも様子がおかしい。
ボコボコボコ!
私達の立つ地面、ダッドの体中から土塊が盛り上がった。
それは1つずつ切り離され、人型に形を変える。
納得のズーミちゃんと、とりあえず同意しておく私。
だって、戦いの事とかよくわからないんだもん。
タチが言いながら、腰のもう一刀。神殺しの剣を抜く。
その動作が終わるよりも先に、出来上がった「土人形」達は走り出した。
タチとナビ。2人は私達3人を挟み込むように、素早く位置取る。
私の居なかった2カ月。その間も彼女たちはこうしてダッドと戦っていたのが良くわかる。
ズーミちゃんの指示に
押し寄せる土人形を次々切り伏せるタチ、風を使い吹き飛ばすナビ。
2人の間をこぼれて
中でも一番戦力として低いのが私。
源の力「水」を込めた拳で、近寄る土人形を殴りつける。
どうにか戦うことは出来そうだけど、一体倒すにも苦労。
出過ぎないよう注意をしつつの戦い。
危ない所はズーミちゃんが手を伸ばしたり、体を伸ばしたりして手助けしてくれる。
そんな私の補助付き戦闘とは真逆で、意外に強いのがユニちゃん。
日頃のたまったうっぷんを発散するかのように、角を土人形に刺し、体をねじってなぎ倒す。
ボコボコ湧いて出る土人形を、ばったばったと倒していると、地面が徐々に削れていきダッドの体積が減っていく。
何十体も何百体も倒してるけど、下を見れば地上はまだ遠い。
ダッドの余力はまだまだあるだろう。
拭っても拭っても額から汗が流れ落ちる。
小さな体、少ない体力…今までで一番戦闘に向かないと思っていたが、思いがけないことも1つあった。
ズーミちゃんから返してもらった源の力。
始めて使ったのは前のナナ。
ポチ君との戦で使用した時は、激しく消耗しすぐに体調を崩した。
でも、今回は持続的に戦えている。
たぶん、産まれた頃から備わっていたからかな?
ユニちゃんの前で目覚めた時、この肉体よりも「源の力」の方が馴染んでいたのを思い出す。
肩で息を吐きながら、答える私。
強がり半分、本心半分。ダッドの体積を見れば、まだまだ戦闘は続く予定だ。
こんな所で弱音は吐きたくない。
私のそばに一瞬より、頭を一撫でして飛び去るタチ。
もちろん、敵を倒しながら。
私の第一目標は、足を引っ張らない事。
絶対無理はしないようにする。
頭に触れた優しい感覚を噛み締めながら、意識を引き締め直すのだった。