第67話 祝福。
文字数 3,530文字

両腕を振り、連動する背中の翼を羽ばたかせる。
どうしよう。パタパタしながら空を飛ぶ私…お世辞にも「格好良い」とは呼べないこの姿。
世界を揺らし、空間を裂くこの戦場に、こんな不格好で登場してしまった。
一番格好良い人タチが、漆黒の翼を大きく広げ、深紅の刃を手首で回す。
ずるいなって思う。だって、強そうだもん。
ズーミちゃんとナビの助力を得て、こうして空を飛べ、戦闘に混じる力も得た。
イトラまでが冷ややかな目で、私に口で攻撃をする。
そんな全力で「近寄るな」って雰囲気ださなくっても。
そんなにふさわしくないですか私…?
でもでも、元はと言えば私が原因の争いでしょ?
たぶん。両方場違いだから、息が合うんだろうな。
変わり者同士、お似合いって事で。
いい勝負っぽくなっているのかと…。
胸を張って親指を立てるタチ。
握りしめた「新・神殺し」が彼女の意気込みに合わせて赤く燃え上がる。
私の参加で一時止まった戦い。
その小さな合間ですら喧嘩が始まる。仲間内で。
私達の様子を
両の手に、
イトラが
戦いを再開する合図の様に。
光の速さで、イトラが飛んだ。
今の私なら、それがわかった。
タチが追い、イトラが受ける。
真っ赤なタチの剣は、
生き生きと。
剣とは別の攻撃手段も持つイトラが、斬り合いながらも手数を稼ぐ。
少し、少しと押されるタチ。
でも、彼女一人じゃない。
叫んだタチの横薙ぎが、イトラの輝く剣を折る。
今まで素手以外の攻撃は返されてきたが、タチの剣は別らしい。
人の暗い想いが練り重なって、作り上がった黒い刃。
後に一人の人間に馬乗りで捕まってしまい、灰色になり。
今は、共鳴し真っ赤に燃え上がっている。
ふたつが合わさりあった刃は、光の化身イトラにも返すことができない。
イトラの輝きは衰えることなく、天を照らし、地を焦がす。
輝く翼で、タチと私は反撃をもらう。
返されることの無い「タチの剣」を中心に攻撃を組み、通す道や迫る流れは私が作る。
何度か繰り返すうちに、わかったことがひとつ。
距離が開くとやっぱり、こっちが不利だということ。
にもかかわらず、イトラは距離がつまることを避けていない事実。
ぼやくヤウは放っておいて、私とタチは戦いを続ける。
二度、三度、同じような展開を繰り返し、その度に世界が揺れた。
タチの剣は、何度もイトラの剣を打ち砕くが、少し距離をとられると、その両手には再び輝く剣が出現する。
またも、離れ近寄りが繰り返されるかと思ったが。
距離を離したイトラの体を、黒い影の手が拘束した。
ヤウが拳を握りしめ、イトラに絡みついた影の手で締め上げようとする。
――が、光の化身にできた、余りにも小さく薄い影からの攻撃。
あっさりとイトラは拘束を破き、距離をとる。
私は大きく翼を広げて、声を張り上げた。
あきらめず、後先も考えず、何度だってイトラへと突き進む人の名を。
ゴフゥウウ!!
大きく、全力で、水と風の源を合わせた力で風を起こす。
渦巻く風と、飛び散る水の玉が、迎撃しようとするイトラの光の玉を撃ち落とし、タチの体を先へと進める。
今までより少し早く、少し先に。
ドス。
伸びた深紅の刃が、イトラの体を貫いた。
いつまでもイトラ優位で続くと思われた戦いは、ほんの少しの変化によって、あっさりと幕を閉じた。
光の粒を吐き出しながら、イトラが堕ちていく。
初めて触れる輝く体。
不思議と懐かしい感じがした。
わかっている。
彼女は光の化身。今やこの世界の神にも等しい。
ただ存在するだけで、人々や世界から祈りを得て力にする。
ドシュ。
黒い手が伸びていた。
イトラのお腹のあたりから。
光の化身は密度を失い、サラサラと輝く体が流れていく。
突然の攻撃に動揺する私と、宙に浮く影を睨むタチ。
抱えていたイトラは重さを失い、崩れ上がる。
その時辺りが輝いた。
真っ白に。
呆然と立ち尽くす私を抱きしめるタチ。
その背にあった、ヤウから借りた黒い翼がボロボロと崩れ落ちる。
空に広がる声に、苛立ちを抑えず怒鳴り散らすヤウ。
いったい私の何がいけなかったのだろう、こんなことになってしまうなんて。
その言葉を最後に、光の化身イトラは世界から姿を失った。