第67話 祝福。

文字数 3,530文字

タチー!!!

 両腕を振り、連動する背中の翼を羽ばたかせる。

 どうしよう。パタパタしながら空を飛ぶ私…お世辞にも「格好良い」とは呼べないこの姿。

 世界を揺らし、空間を裂くこの戦場に、こんな不格好で登場してしまった。


ナナ!?…お前は何度も私を驚かせてくれるな!

 一番格好良い人タチが、漆黒の翼を大きく広げ、深紅の刃を手首で回す。

 ずるいなって思う。だって、強そうだもん。

なんだ?その間抜けな姿は。
うるさいな!これでも強くなってるんだからね!
 体を黒く揺らめかせ、影の化身ヤウが、私を鼻で笑った。


 ズーミちゃんとナビの助力を得て、こうして空を飛べ、戦闘に混じる力も得た。


(いつまでも傍観者だと思うなよ…!私だって、地上を揺るがすこの戦いに一矢報い――)

…ふざけないで頂きたいものです。

 イトラまでが冷ややかな目で、私に口で攻撃をする。

 そんな全力で「近寄るな」って雰囲気ださなくっても。

 そんなにふさわしくないですか私…?

 でもでも、元はと言えば私が原因の争いでしょ?

いいな!ナナも飛べるとなれば、空で逢い引きできるじゃないか!
やっぱりタチだけは、私の味方だね!
当然だ!!空で愛し合うのが今から楽しみでならん!!

 たぶん。両方場違いだから、息が合うんだろうな。

 (さま)になっているが、変わらず不謹慎なタチと、無様だけど真剣な私。

 

 変わり者同士、お似合いって事で。

しかし…こんな間抜けが加わった所で、こっちの不利は変わらんぞ。
押されてるの?ヤウとタチ二人がかりで。
 さっきまで戦闘を目で追うこともできなかった私からすると、びっくりな情報だ。

 いい勝負っぽくなっているのかと…。

いや、私が押している。奴にはこの剣を再現できん。

 胸を張って親指を立てるタチ。

 握りしめた「新・神殺し」が彼女の意気込みに合わせて赤く燃え上がる。

客観的に場が見れてね~ぞ。女。
見えてないのはお前だ悪魔。

 私の参加で一時止まった戦い。

 その小さな合間ですら喧嘩が始まる。仲間内で。

たぶん。あなたは始めから望んでいなかったのだ。神であることなど…そんなあなたに彼らが気付いた。人間…。不条理と理不尽があると信じる狭量な生命。

 私達の様子を(うかが)っていたイトラが、光り輝く。

 両の手に、(きら)めく剣を持ち。

ごめんね。今の私にはわからないから…。もう神じゃないんだもん。
最初からあなたには見えてたのかもしれませんね…。今私の目の前に広がる。多様で乱れた数々の世界が…。

 イトラが(きら)めく二本の剣を交えて構えた。

 戦いを再開する合図の様に。

私は…ずっとあなたを理解してみたかった。あなたの席からは…どう見えているのかを…。

 光の速さで、イトラが飛んだ。

 今の私なら、それがわかった。

それは恋という奴だ!今や私の女だがな!
全てを貴様の低位な頭で(わか)ると思うな愚か者!

 タチが追い、イトラが受ける。

 真っ赤なタチの剣は、(きら)めくイトラの光に負けず劣らず、輝いていた。


 生き生きと。

出会いはお前が先だったのに残念だったな!
残念なのは貴様の偏狭(へんきょう)さだ!

 剣とは別の攻撃手段も持つイトラが、斬り合いながらも手数を稼ぐ。

 少し、少しと押されるタチ。

 

 でも、彼女一人じゃない。

たまには私が守るんだから!!
 水と風、まざった二つの力で光の玉を弾く私。
やはり私達が押している!

 叫んだタチの横薙ぎが、イトラの輝く剣を折る。

 今まで素手以外の攻撃は返されてきたが、タチの剣は別らしい。


 人の暗い想いが練り重なって、作り上がった黒い刃。

 後に一人の人間に馬乗りで捕まってしまい、灰色になり。 

 今は、共鳴し真っ赤に燃え上がっている。


 ふたつが合わさりあった刃は、光の化身イトラにも返すことができない。

汚らわしい!なにが恨みだ!なにが意思だ!貴様らにそんなものが――あるものか!!

 イトラの輝きは衰えることなく、天を照らし、地を焦がす。

 輝く翼で、タチと私は反撃をもらう。

ナナ!いけるか!?
うん!ついていけるよ!

 返されることの無い「タチの剣」を中心に攻撃を組み、通す道や迫る流れは私が作る。

 何度か繰り返すうちに、わかったことがひとつ。

 距離が開くとやっぱり、こっちが不利だということ。

 にもかかわらず、イトラは距離がつまることを避けていない事実。

舐められているぜ。
見てないで手伝ってよ!
光と打ち合い過ぎると弱まるんだよ俺の攻撃は。最初が一番濃くて暗い味してんだ。
 ヤウが黒い羽根を畳んだ。まるで何かを貯めこむように。
好機だと思ったんだがな…。イトラを消すには。

 ぼやくヤウは放っておいて、私とタチは戦いを続ける。

 二度、三度、同じような展開を繰り返し、その度に世界が揺れた。

無駄です。

 タチの剣は、何度もイトラの剣を打ち砕くが、少し距離をとられると、その両手には再び輝く剣が出現する。

 またも、離れ近寄りが繰り返されるかと思ったが。

 

 距離を離したイトラの体を、黒い影の手が拘束した。

間抜けと対峙(たいじ)すると、さすがに(かげ)りが落ちるか?影の溜まりが早いぜ?
私に…陰りなど…!
沸かなければ使えない技なんだがな!

 ヤウが拳を握りしめ、イトラに絡みついた影の手で締め上げようとする。

 ――が、光の化身にできた、余りにも小さく薄い影からの攻撃。


 あっさりとイトラは拘束を破き、距離をとる。

タチ!

 私は大きく翼を広げて、声を張り上げた。

 あきらめず、後先も考えず、何度だってイトラへと突き進む人の名を。


まかせた!
 チラリとこちらを見たタチが、私の意図を察して剣を脇に構える。


ゴフゥウウ!!

 大きく、全力で、水と風の源を合わせた力で風を起こす。 

 

 渦巻く風と、飛び散る水の玉が、迎撃しようとするイトラの光の玉を撃ち落とし、タチの体を先へと進める。

 今までより少し早く、少し先に。

 

ドス。

 伸びた深紅の刃が、イトラの体を貫いた。

…何故だ。

 いつまでもイトラ優位で続くと思われた戦いは、ほんの少しの変化によって、あっさりと幕を閉じた。

 光の粒を吐き出しながら、イトラが堕ちていく。

イトラ…!
 彼が地面へとぶつかる前に、私は光り揺らめく体を受け止める。

 初めて触れる輝く体。

 

 不思議と懐かしい感じがした。

トドメは…あなたに。時の化身。それが道理というものでしょう…。
ねぇ…。どうしてもどちらかが消えなきゃダメなの?
 抱き留めたイトラの体は重かった。光の化身で、あんなにきれいな翼を持っていたのに。
…このまま時間をとるのなら、私は力を取り戻すだけですよ?…それでも構いませんが。

 わかっている。

 彼女は光の化身。今やこの世界の神にも等しい。


 ただ存在するだけで、人々や世界から祈りを得て力にする。

私にあなたを否定できる道理なんてない…。そんなことを置いても、イトラに消えて欲しくなんてないよ。
そこまでナナが言うのなら、私も剣を収めてもかまわんぞ?
 私の後ろでタチが腕を組み翼を畳む。
どうかな?ちょっとだけ話し合いをして、私じゃだめでも、他の化身と力を合わせて――
な、言っただろイトラ?こいつら間抜けだって。

ドシュ。


 黒い手が伸びていた。

 イトラのお腹のあたりから。


 光の化身は密度を失い、サラサラと輝く体が流れていく。

イトラ!!
ヤウ貴様!!

 突然の攻撃に動揺する私と、宙に浮く影を睨むタチ。

 抱えていたイトラは重さを失い、崩れ上がる。

ヤウ…あなたの…好きにはさせない…。
ざま~みろ。これで俺の勝ちだ。存在した時からてめーらが憎くて仕方がなかったんだよ。テメーとテメーが。
 見下ろしたヤウが、私とイトラを指さす。
私がなにもせず、ただ時を過ごしていたと…?これが――私の贈り物です。
なんか俺にくれる準備をしてたってのか?ありがたいね!
 イトラの体は完全に消え、光る粒子があたりに漂っていた。
人にです。神にもお前にも、世界を乱させたりしない――。

 その時辺りが輝いた。

 真っ白に。

イトラ…?
なんだこれは!?

 呆然と立ち尽くす私を抱きしめるタチ。

 その背にあった、ヤウから借りた黒い翼がボロボロと崩れ落ちる。

自らに主体があると疑わぬ、愚かな者たち…。
 空から声がする。薄く広がるイトラの音が。
(またた)くまに世界を繋げる私と…この地を覆い蓄積したダッド…。私達からの「祝福」です。
てめ~!!最後まで!最後まで俺を相手しないつもりか!!トドメを刺したのはこの俺だぞ!!

 空に広がる声に、苛立ちを抑えず怒鳴り散らすヤウ。


 いったい私の何がいけなかったのだろう、こんなことになってしまうなんて。

お前たちが、私から奪ったのだ。…思い知れ。

 その言葉を最後に、光の化身イトラは世界から姿を失った。

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登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

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