第21話 ピチョン。
文字数 2,393文字
水の大陸一の大きな港町ピチョン。
風の大陸へと渡る船が出るのは十日後だ。
私が既に十三回目の人生な事。
今から聖地に向かい、神に戻ろうとしている事をズーミちゃんには説明した。
丸いお月様が空に浮かぶ夜。宿屋の二階の一室で二人きり。
タチは街に着くなり何処か (たぶん如何わしい所)に出かけてしまった。
私の長ったらしい説明を、ズーミちゃんはずっと背筋を伸ばして聞いてくれていた。
もちもち食べてた時みたいに、仲良くしたいけど、彼女の気持ちを考えれば無理もない。
よくある一階が食事処になっている宿。
先ほど部屋に上がる途中、まろやかな白シチューの匂いがしていた。
下で食べるとなると、ズーミちゃんは身を隠さなければならない。大変だろう。
馬車移動の疲れも、お触り大魔神の不在もある。
のんびり食事をできるチャンスだ。
立ち上がり、素のままでドアへと向かうズーミちゃん。
このまま外に出したら絶対にスライムバレするだろう。
馬車移動中、ずっと全身を服で隠しゆられていた。
暑いし、息苦しいし、大変だったろうに一言も文句も言わず…。
真面目な子なのだ。
クキュル。
一階に降りると、美味しそうな匂いでお腹が鳴った。
今回の人生、もっぱら食を楽しみに生きていた。
美味しいごはんは何よりのご褒美だ。才も能も無いおかげで、ソレを知れた。
五つある丸テーブルと、カウンターの席は全て埋まっている。
この手のお店には珍しく、酔っているお客さんが一人もいない、どうやらお酒を扱ってないようだ。
酔っ払いに、絡まれることが無いのは助かる。
カウンターの奥でお鍋をぐるぐる混ぜていた、白頭巾のおばちゃんに話しかける。
クキュル。
待ちきれずにもう一度なったお腹。たぶん聞かれてしまった恥ずかしさで、お腹を押さえた私の肩を、誰かが抱き寄せた。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/ad2e314bb6dab1a257679c25b80f8d8a.jpg)
到着が遅かったのもあり、部屋はどこも埋まっていて一つしか取れなかったのだ。
ホント、好き勝手しかしないんだから。
目の前に現れた、宝物に目が奪われ、ムカツキも消し飛ぶ。
そうだ、今私は幸福の時を待っていたんだ。
馬車移動の時からそうだった。
同乗したお客さんの前でもオレの女だ。みたいに振舞って…。
皮肉たっぷりで嫌味を言ってやる。
正直、美人さんだし、格好つけも多少は様にはなってると思うけど、その自覚が腹立つ。
ムカツク。
しょうがないのだ。
だって今は人間だし、人はお腹が減る。そして食事は幸福なのだ。
クキュル。
お腹だって同意している。
部屋に戻りズーミちゃんと三人仲良く、おしゃべりしながら食事をする。
みんなで食べる白シチューはとっても美味しいし楽しい。
悔しいかな、一つ増えたシシカ肉が、私の胃と心に贅沢を味わせる…。
ずるいぞタチ!
でも、食後のカラの食器を奪って、私が一人で下げたから。
それでお相子なはずだ。
たぶん。