第38話 朝チュン。
文字数 4,193文字
目が覚めると、いつものタチ枕の上。
暖かで心地よく。つい、寝ぼけた顔を押し当ててしまう。
それでも、タチの目は開かない。
脈略のない恐怖に突然襲われ、じっとタチの寝顔を伺う。
通った鼻筋を見ていると、ツンツンと突っつきたくなる…。
大丈夫、ちゃんと息もしているし、呼吸の度に胸も上下している。
勝手に
チャリン。
タチの頬にかかった髪を、そっと退かした時。私の首元から金属音がした。
昨晩「タチと仲良くした際」に付けられた、黄金の首飾りが擦れた音だ。
タチに夢中で気付かなかったが、見慣れぬ誰かの寝床にいると思うと、急に落ち着かなくなる。
これ以上タチの顔を見ていたら、頭やおでこをこすり付けてしまいそう。
彼女の安否も確認したし、起こすのも嫌だ。
気持ちを押さえ、満たし
薄く、ひんやりとした空。
まだ太陽の光も弱く、今の私には丁度良い。
かけられた声の方に目をやると、タチママが簡素な椅子に腰かけ、広がる草原を眺めていた。
そういえば昨日連れ込まれたのは、用意された仮テントではなく、ママさんの一番大きな丸テントだった。
布切れ一枚で隠した体を縮こめ、テントに戻ろうとする所を止めらる。
タチママは、左に置かれた同じく簡易的な椅子を叩き、ここに来いと場所を示す。
余り声を張られたらタチが目を覚ましちゃう。
とりあえず言われた通りに、横に座る。
怒らせると怖そうだし…。
この首飾り、そもそもは昨日タチが詩った時の衣装の物だ。
私を押し倒した後、キスを重ねながら取り付けられた。
ただのタチの気まぐれデコレーションだとばかり思っていたが、違ったようだ。
怖い…!タチママといると常に緊張感がある。
フル族の長だからなのか、タチママだからなのか…。
皮肉屋や意地悪じゃなく、素直な思いなのはママさんの口調でわかる。
縮こまってはしまうけど、嫌な気持ちはそんなにしない。
…怖いけど。
恐る恐る返してみる。普段なら関わらないタイプだけど、相手はタチママ。
少しお話してみたい。
やった!初めて会話が成立した気がする。
返した言葉を受け取って貰えて、ちょっと安心。
冗談だと思うけど、本気なようもするママさんに。素直に返す私。
そうだろう?と娘を褒められて嬉しそうなママさん。
2人とも顔の話しかしてないけど。
物怖じせずに、目を見てお話しすると、普通に返してもらえる。
どうやらおどおどした私の態度が、ママさんを逆なでしていたようだ。
なんだか、素敵な贈り物である。
あとなんだか、凄く嬉しくなる。
目を閉じて、両手で金輪に触れてみる。
そうやってずっと、フル族の人が受け次いだ、所有することのない贈り物。
繋いでくれた色んな人の事、なにより私に届けたタチの気持ちを想って切なくなる。
これがタチのママさん。パパさんはどんな人だったんだろう?
この金輪を私の前に受け取った人。コレを作った人。
みんなどんな思いで、人と触れ合い話、伝えたのだろう?
これも人間。不思議な存在だ。
タチママの横顔は、遠いような近いような、過去の記憶を愛でる美しい表情。
刻まれた大きな傷や深い
タチの実家に、タチの詩。タチママにタチナイト。
色んな事が重なって、やろうとしていた事や、追われていた事なんてすっ飛ばしていた。
体を重ねて朝を迎え、ちゃんと息してるかな?なんて心配してる場合じゃなかったのだ。
確かに。昨日のタチは世界で一番優しかった。
私だけを見て、私だけを想ってくれて。何度もキスをして撫でてくれた。
私だって、全力で答えたし。返した。
…足りてはないだろうけど。
思い出すと胸がきゅーっと締めあがる。
させてたかもしれない。顔とか頬とか少し熱いし。
恥ずかしいし。たぶん、にやけていたし。
深く頭を下げる私に、優しい声で迎えてくれるタチママ。
困惑し目を反らす私を、救世主が抱き寄せた。
下着姿のタチだ。
ママの必至の提案を無視して、私を椅子からお姫様抱っこするタチ。
布が…!体に巻いた布が…!落ちちゃう!
ママとどんなお話をしたのか、気になるようで…。
様子を伺おうと、探り探りなタチなんて珍しい。
…可愛いじゃないか。
ボフリ。
昨日沢山愛し合った、敷布団の上に乱暴に投げ込まれる。
金輪を首から外され、再び2人だけの世界に引きずり込まれる。
もとから逃れるつもりなんてない。ずっと続けばいいと、私だって思っている。
2人だけの時。
結局。フル族の野営地を離れたのは夕方だった。
そのままだったら、もう一晩お世話になっていただろう。
でも、それじゃだめだ。世界は2人だけで構成されてるわけじゃない。
…というかもう一人いるのだ。大切な仲間が。
たっぷり2人でくっついて、ゆったり体を確かめ合ってる最中
泣きながらテントに転がりこんだストレが、私を現実に引き戻したのだ。
聖地への旅とか、黒衣の者とか、イトラの存在とか。
昼過ぎに準備を始めて、フル族のみなさんと食事をし3人で旅にでたのである。
ストレちゃんごめん。ずっと忘れてて。