第70話 贈り物。

文字数 2,057文字

まじか…イトラの奴負けやがった…!
空が…輝いて…。
(こんな雑魚共相手にしている場合じゃねぇ…!イトラが消えたと なりゃぁ~、ヤウだって全快ってこっちゃね~だろう。光と影がこの世から消えれば…一番つぇーのはオレ様…!!)
輝く空を見て、今が好機とアチャは飛び立とうと両足に力を入れた。

その時、場の異変にストレが気付く。

えっと…どちら様でしょうか?
 ストレの横に、いつのまにか人が居た。

 色味の薄い肌と、くすんだ表情が不気味さをかもしだす。

(なんだこの野郎?…いつの間に?)
怪我をなされてまスネ。治療をしましょう。止血効果のある植物が近くに存在しマス。
???いったい誰だ??…ポチ助!ポチ助はどこに行ったのだ!?

 状況把握ができていないストレは、周りを何度も見渡すが、人影はどこにもない。




 人影は。

わん!!
えっ…?いや???ポチ助がどこにいるか知っているのか?ワンちゃん。
わん!わん!!
え??いや???え???
人を探しておられるのでスカ?
 混乱に混乱を重ねるストレの所に、灰色の人が戻って来る。


 手には赤色の棘がある葉を持っていて、ストレの傷口に勝手に葉を当てると。

 緑の葉が血を吸い赤く染まり、変わりにフチの赤い棘が緑色になった。


 すると、傷口の血は(ぬぐ)われ、あふれるはずの新たな血は葉の液で固まりせき止められる。


うん???そうなんだが…だから君はだれなんだ??ポチ助は何処に行ったんだ???
わん!!
染みまスカ?痛みはあると思いまスガ――

 幾枚も用意された葉を使い、手際よく傷口の血を吸い固める灰色の人。

 状況が理解できていないのはストレだけ。

 嫌な汗が一筋、彼女の背中を伝って落ちる。

なんなんだこれは!?!?
女ァ!!
そうだ!あなたが居た!!火の化身…!助けてくれ!?なんか置いてかれている!!
あの犬野郎は転生者だよな?イトラが呼び込み力を与えた失意の者。
そ…そうだ、神様と世界を恨み、かつてはチビ様の敵だった。今更そんな事を聞くな!…ポチ助!無事か!?何処にいる!!
…なら、そいつがポチ助だ。
(ベロが出ている。)(尻尾を振っている。)
嘘だぁああああ!?!?
さっきの光を見ただろう?イトラが消えた。ポチコロは誰に呼ばれて力を得た?、誰に呼ばれてここに居る?
わん!

 なんとなく感じていたであろう予感に、ストレは言葉を探せず呆然と座り込む。

 その横では灰色の人が、変わらずストレの手当を進めていた。

だが…なんで残ってやがるんだ?なぜお前も消えない?信仰を受けているわけでも、支えがあるわけでもない犬コロが…。
ワレワ、マネブモノ。
 くぐもった声がすると同時に、アチャの後ろで小さく土が盛り上がる。

 柔らかく、ゆっくりと。


 形取られたのは、手のひらサイズの土の化身「ダッド」だった。

ダッド!てめー、向こうの方にも体があるんだろう?情報をよこせ!どうなってやがる!?
チクセキとは、タカラナリとはツナガリなり…。地水火風のタイリクとツナガリ、積ミ上ゲラレタ、土地のケイケンを今ツナゲタ。
何を言ってんだ?ヤウの野郎は生きてんのか?誰がイトラをヤッたんだよ!
おい待て!勝手に消えるな、まだ話が――!!


種は蒔かれたのデス。

 消えたダットの代わりに言葉を続けたのは、灰色の人だった。

 感情のなく、一定な声。


 周りには、ストレの血を吸った赤い葉が均一に並べられている。

各地に繋がり…種を…?イトラとダッドの奴まさか!…俺と喧嘩した300年前のあの時から…!!
(300年前…。やっと知っている情報が聞けたが…確か、火と土が争い、津波が各大陸を襲ったのが――)
クソが!俺様の大陸には手を出させねーぞ!!!

ドバァ!!!

 アレた言葉を残し、爆音を(かな)で、火の化身アチャは空へと消えていく。

 彼が去った後もしばらく、空気が空へと巻き込まれ、風は天へと流れ続けた。

わ…私は一人でどうすればいいのだ?
わん!
まずは、ちゃんとした手当をしましょう主様。近くの村にご案内しマス。

土地の情報ナラ既に持ち合わせていますノデ。

わ、わたしは君の(あるじ)じゃない…!いったい君は何なんだ!
祝福デス。全てのヒトへ偉大なモノからの贈り物。ヒトビトを支え幸福へと導くタメの存在。
……
主様。まずは体を整えませント。存在がデキなくなりマス。

 ストレはゆっくりと立ち上がる。

 それに合わせて灰色の者も立ち、犬も立つ。

 

 ストレが右を向くと、2人も右を向き。

 ストレが左を向くと、2人も左を向いた。

 

 ストレがもう一度座ると、当然2人も座る。

怖い!!!怖いですチビ様!!!もう嫌です!理解不能です!!助けてください!!!
 ストレは泣き叫び走り出した。
主様。傷口が開きマス、まだ応急処置にすぎまセン。
わん!わん!
ついて来るなぁあああああ!!!

 冷静に静かな雰囲気でストレを追いかける灰色の者と、何もかもが楽しそうにベロを出して駆ける犬。

 2人は全てを受け入れていた。

 

 世界はこういうものなのだと。


 先頭を走るストレだけが、何もかもを受け入れられずにい泣いていた。

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登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

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