第3話 ぎゅっとね!

文字数 1,103文字

(私の眷属が!私のために!私を殺そうとする女を倒そうとしている…!)
なっ!!

 ズーミの中にズップと入った両の手でギュッっと核にぎりこむ。

 私の突然の行動への驚き…というより、的確に急所をつかまれたことの方がびっくりだったろう、大きなお目目が見開かれている。

タチさん倒して欲しいとかっ…!そもそも頼んでないし!!
 ズーミちゃんの中で、強く強く握りしめる。
ひゃうぅう!
 ビクンとズーミの体が波打ち、ぶるぶると震える。もどかしそうに、むずがゆそうに。
にゃっ…!にゃぜ!わらわの…源のいちぉ…!
ホントごめん!ごめんね!

 ギュウウゥ人間でいうと内臓を直接握られるようなモノだ…さぞ気色が悪い感覚だろう。


やめっ!…ひゃうぅうぅ!
 ぼちゃ。ぼちゃ。ズーミの体が少しづつ崩れ落ち、タチを捕えていた大きな水の玉が地面に落ちる。
殺しはしないから…!ごめんね!

 ぎゅうぅぅうう。もうちょっとだけダメージを与えておかないと、すぐ元気にもどってしまうだろうから…。

 可愛そうだけど…!


ひゃうぅううぅうううぅうぅぅ!

 ズーミは人型を形成していられなくなり、ぱちゃぱちゃと弾け小さな水たまりを作り出す。

 べちゃ!水の玉の方が破裂し、タチが完全に開放された。

タチさん…!

 土砂降りの雨、それも粘度の高い水に打たれた直後のような、びちょびちょで濡れ崩れ落ちているタチを抱き上げる。

 だいぶ水を飲みこんでいたみたいで、げほげほと咳き込むタチさん。


よかった…生きてた…
よく…やった…
 安堵の一息をついた私を見上げ、濡れた顔を拭いながら微笑むタチ。

 意外と優しい笑顔である。弱っているからかもしれないけど。

私の胸は…どうだ?
へ?

 自分の左手を見てみると確かに、抱き上げるために使用したこの腕は、彼女の胸に埋もれていた。


いや!これは完全に不可抗力です!!!

 こっちが必至で頑張ったのに、どこに意識を割いているんだこの女!

 だってあんたでかいんだから!体を支えようとしたらそんなこともあるさ!

 

照れるな。愛いやつだな…耳まで赤いぞ。
いいから!!逃げるよ!!
 こいつ。助けなきゃよかった。ホントこいつ。
どうせだ。楽しめ。

 ホントコイツ!こいつ!

 恥ずかしさと腹立たしさで内臓と頬と耳を真っ赤になる。

 とはいえ、せっかく助けたこの女を見殺しにもできまい、タチに肩をかしすぐにこの場を離れよう。

 ズーミが元気を取り戻す前に。



 残された無数の水たまりの中の一つ。

 手のひらサイズに縮んたズーミは二人の背中を見送るしかなかった。


(あやつ何者じゃ…?なぜワラワが授かった源を…)
 敗北したことや取り逃がした悔しさより、不可思議な少女への疑問に思いを募らせていた。
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登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

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