第63話 落下。
文字数 2,729文字
目的地、土の化身ダッドの現れた場所、その上空にたどり着いた私達。
雲から見下ろす光景に驚いていた。
かつて水の大陸アルケー湖で
まるで人型の山のような姿は、雲に乗っているから全身見渡せているが、地上からだと顔の部分が見れないんじゃないだろうか?
ナビは使いの者から得た情報との違いを
その時山がこちらを見た。
大きなダッドの「くぼみ」としか言いようのない目が、私達を捕捉する。
ブン!!
雲に向かって振り上げられた山の腕から、無数の土の塊が飛んできた。
バシュ!バシュ!
勢いよく乱れ飛ぶ
下から来た攻撃に対処するのは難しく、その中の一つが私に直撃しそうになった時――。
バギン!
空気が弾ける音がした。
ナビだ。ナビが風の守りを張って、私への攻撃を弾いてくれた。
でもその反動で、宙に浮くナビは離れた所に飛ばされてしまう。
それと同時に、乗っていた雲がほどけて消えた。
私は庇いに来てくれたタチと共に、空へと放たれる。
高所からの落下。
激しい風の音の中、互いの無事を確認し周りを見る。
少し離れた上空でズーミちゃんが体を伸ばし、ユニちゃんを捕まえていた。
ナビはまだ、だいぶ遠くにいる。
二組の落下物を待ち構えているのは、動く山ダッド。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/bef961a7a35a52bcf8a8b5a3e16325b5.jpg)
風の流れに反した彼女の言葉がかろうじて聞こえる。
このまま落ちればダッドに撃ち落とされる、されずとも地面に激突するだけ。結果は同じだろう。
親友に渡された「源の力」それを使って水の玉でタチと私を覆えば…。
ゴアアァア!
激しく響く空の音。
体を遊ぶ浮遊感。
非日常な状態が、私の集中を
目を閉じ集中しようとしても、嫌な想像が脳裏に浮かぶ。
私の苦悩の横で、自身に満ち溢れた声が発せられた。
落ちるだけしかナイはずの人から。
むに。むに。
そうです。タチさんです。
タチが私の胸を揉み始めました。
困ったことに落ち着いてしまった。
だって「いつもの」過ぎるんだもん。
体が馴染み、ちょっとだけ心地よさが広がる。
ドプン。
タチの叫びと共に、私の握り合わせた手から水の玉が膨らんだ。
なぜだろう、この素直に喜べない感じは…。
バキバキバキ!!
激しい風、水玉の壁を越えてユニちゃんの歯ぎしり音が降り注ぐ。
「上」にいる彼女達からは、さぞかし良く見えたのだろう。
弄りまわされる私が。
体を覆った水玉が空気抵抗を作り、伸ばされたダッドの手から軌道を反らす。
ブヨン!
どうにかダッドの肩部分に無事着地できた。
この位置ならダッドも攻撃をしにくいに違いない。
続けて降り立った、ズーミちゃんが地上を見下ろす。
地上よりも空が近く感じる高さだ。
ダッドもイトラも、和解や話し合いなど最初から考えていないのだろう。
私を守って弾かれたナビも集合し、みんなでダッドの顔を見上げる。
グラッ。
地面…。つまりダッドの体が大きく揺れた。
私達を振り落すつもりらしい。
ぶっきらぼうに指示するタチに、両腕を広げて答えた風の化身。
ナビが祈る様に手を合わせると、タチの両足に緑色の輝く風が
そう言い残しタチはダッドの肩から飛び降りた。
身投げするみたいに。
突然の出来事に、慌てて彼女の行方を追う。
揺れる地面に両ひざをつき、眼下を見下ろすがタチの姿が見えない。
ヒュパ。
私の顔に一瞬影が落ちた。
頭上をナニか横切ったのだ。
タチが空を蹴って走っていた。
撃ち落とそうと飛ばされる
その横をナビが援護しながら泳いでいく。
見事に息があった連携である。
2人の舞うような動きを見て、これが初めてじゃないとズーミちゃんも感じたようだ。
空を見上げ下唇を噛む私を、新しく厚い壁の水玉を張ったズーミちゃんが手招く。
既にユニちゃんは中に居て、私よりも怖い顔で上空の2人を…いや、タチを睨んでいた。
分かっている。邪魔や足手まといには絶対なりたくない。
反抗するつもりなんて微塵も無く、私も大人しく水玉の中に入る。
厚い水の壁の向こうでは、一層格好よくタチとナビが宙を舞い戦っていた。
以前グラグラと揺れるダッドの上。
私達の所にも、流れ弾程度の攻撃が飛んでくる。
だがその全てが、水の壁を貫通することはなく、勢いを殺されただの泥となる。
自分の右手を見てみると、微かに青く光っていた。
私の意志じゃない。ズーミちゃんの持つ「源」に共鳴しているようだ。
ユニちゃんが親指をたて、私にアピールする。
そうか、ユニちゃんも補助してくれているのか。
水の化身に、源をもつ元神、それとユニコーン。
良い感じに相乗効果が効いているみたい。
ダッドの攻撃さえ通さない、分厚い水の玉。
鉄壁の守りの中にいれば、もう安心だ。
水の壁をぷよぷよ押す私は、一つの案を思いつく。
ズーミちゃんとユニちゃんが不思議そうな顔をしている。
そんな不穏な水玉の外では、スタイリッシュな空の戦いがまだまだ続いていた。