第16話 水洗い。
文字数 1,880文字
アルケー湖をでて三日たった。
港行きの乗合馬車が出ている街まで、徒歩七日。
ズミナナ組の「奪っちゃおう作戦」はずっと迷走中だ。
タチの腰、水の剣と交差する形で装備された例の剣。
移動中はさすがに難しいが、寝ている時なら…と手を出したが、さすが戦士。
気配に敏感で、すぐに目覚め「どうした?寂しいのか?」と抱きしめられる。
ズーミちゃんが遠くからこっそり手を伸ばす作戦でもダメだった。
開けた道が続いていると言っても、夜はどこからともなく野生動物の鳴き声がする。
私の申し出に驚くタチ。頬に赤みがさしているのが夜でもわかる。
決死の覚悟で開かれた腕枕に身投げした…。
私はタチの右腕枕で目覚めた。
左の腕枕ではスライムが心地よい朝を迎えていた。
ぐぬぬぬ…。
不甲斐ない。私も気付いたら朝だったので同類だけど。
体の調子も凄く良いし、とってもスヤスヤできたみたいだ…。
あの女手慣れている。
タチは残念そうに、寝袋を畳んでいた。
こんな二日間だ。
オイン港まではまだあるが…。
時間はあれど、策が浮かばない。
三日目の昼、街道を少し離れた森の中に足を運んだ。
体を洗いたい二人と、水分補給が必要なズーミちゃんの意向である。
お気に入りのアンズゥの花の香りがする石鹸を鞄から取り出す。
背に腹は…と言ったものの肌をさらすのには少し抵抗が。
普段からおへそは出してるけどさ。
特にこのケダモノの前では貞操の危機が…。
水色でキラキラの仲間は「まかせたぞ」と頷くだけだった。
普段から薄着なのは、肌で風を感じるのが大好きなのと、ヘソを隠すと体調が悪くなるからだ。
とはいえ、裸は別物。
川横の大きな岩に身を隠してスカートと、インナーを脱ぐ。
ナイトムーゴの皮製の上下インナーは、なめらかで肌触りがよく、温かさにも寒さにも強い。
私が身に着けている服の中で一番高価な物だ。
岩向こうからタチの声が聞こえる。
エサとして余りグズグズしているわけにはいかない。
冒険者のお供、キヌ布と石鹸を手にして川に入る。
腰まで届かないぐらいの水位、全裸で両腕を広げてお迎えがまっている。
…嬉しくない。

タチの脱ぎ散らかした服と装備から注意をそらすため、私も水溜まりの方にチャプチャプと入っていく。
引き締まった体と大きな胸がギュムギュム当たる。
石鹸でヌルヌルの手で私を撫でまわし始めたタチが突然叫ぶ。
助かった…じゃない、何事だ?
タチがわき腹を押さえている。その傍にちっこくて二頭身の生き物がいた。
白くて幼い子供姿に薄桃色のふんわりとした髪。
なにより、額にはとんがった角。
たぶんそうだ、初めて見る。清純と潔癖の象徴。
できれば服を着ているときに会いたかったけど。