第16話 水洗い。

文字数 1,880文字

 アルケー湖をでて三日たった。

 港行きの乗合馬車が出ている街まで、徒歩七日。

 ズミナナ組の「奪っちゃおう作戦」はずっと迷走中だ。


 タチの腰、水の剣と交差する形で装備された例の剣。

 移動中はさすがに難しいが、寝ている時なら…と手を出したが、さすが戦士。


 気配に敏感で、すぐに目覚め「どうした?寂しいのか?」と抱きしめられる。

 ズーミちゃんが遠くからこっそり手を伸ばす作戦でもダメだった。

ナナお主の出番じゃ!
 二日目の夜。つまり昨日。ズーミちゃんの予定どうり、囮作戦が発令された。
タ…タチ。鳴き声が怖いから傍で寝てもいい?
 オイン港へと続く街道端での野営。

 開けた道が続いていると言っても、夜はどこからともなく野生動物の鳴き声がする。

いいのか!?

 私の申し出に驚くタチ。頬に赤みがさしているのが夜でもわかる。

 決死の覚悟で開かれた腕枕に身投げした…。

 次の瞬間朝だった。
ふぁえ!?
良く寝れたか?可愛い寝顔だったぞ。
(いつの間に!?)
タチとのすったもんだをしている間にズーミちゃんが…という作戦なのに。
寝かせ上手だろう?今夜も一緒に寝ような。
 頭を優しく撫でられる。もはや事後のようだ。
(この女!いったい今まで何人に心地よい朝を…。)
おふぁようじゃ~…。

 私はタチの右腕枕で目覚めた。

 左の腕枕ではスライムが心地よい朝を迎えていた。

なんで!?
 移動の準備をする際にこっそり問い詰めた。
す…すまぬ…。「お前もどうだ?」と言われて…一度誘いに乗り油断させて、と思ったのじゃが…。
思ったけど?
…寝とった。

ぐぬぬぬ…。

 不甲斐ない。私も気付いたら朝だったので同類だけど。

 体の調子も凄く良いし、とってもスヤスヤできたみたいだ…。

 あの女手慣れている。

両腕がふさがっていなければ…可愛がってやれたのだがな…!

 タチは残念そうに、寝袋を畳んでいた。


 こんな二日間だ。

どうしよう…。

 オイン港まではまだあるが…。

 時間はあれど、策が浮かばない。 

小さいが、綺麗な川じゃないか。

 三日目の昼、街道を少し離れた森の中に足を運んだ。

 体を洗いたい二人と、水分補給が必要なズーミちゃんの意向である。

奥に水だまりがある。あそこなら体を洗いやすいじゃろう。
 ズーミちゃんが目で訴えかけてくる。チャンスが来たと。
よしナナ!洗いっこするぞ!
 鼻息荒くタチがベルトを外す。そんな急がないでも…。
うぅ…。

 お気に入りのアンズゥの花の香りがする石鹸を鞄から取り出す。

 背に腹は…と言ったものの肌をさらすのには少し抵抗が。

 普段からおへそは出してるけどさ。


まかせろ!隅々まで、きもち…綺麗にしてやるからな!

 特にこのケダモノの前では貞操の危機が…。

 躊躇(ためら)いの視線を同盟者に向ける。

 水色でキラキラの仲間は「まかせたぞ」と頷くだけだった。

(体を洗いたいのは事実だし…頑張れ私…!)

 普段から薄着なのは、肌で風を感じるのが大好きなのと、ヘソを隠すと体調が悪くなるからだ。

 とはいえ、裸は別物。


 川横の大きな岩に身を隠してスカートと、インナーを脱ぐ。

 ナイトムーゴの皮製の上下インナーは、なめらかで肌触りがよく、温かさにも寒さにも強い。

 私が身に着けている服の中で一番高価な物だ。

ナナーまだかー!

 岩向こうからタチの声が聞こえる。

 エサとして余りグズグズしているわけにはいかない。

 冒険者のお供、キヌ布と石鹸を手にして川に入る。

(もっと大きな布地のにすれば良かったな…。)
 体を洗うようなので面積が小さい。かろうじで前が隠せる程度だ。

 腰まで届かないぐらいの水位、全裸で両腕を広げてお迎えがまっている。

 …嬉しくない。


自分で洗うからね!

 タチの脱ぎ散らかした服と装備から注意をそらすため、私も水溜まりの方にチャプチャプと入っていく。


(後は頼んだよズーミちゃん。)
これから一緒の長旅だぞ。仲良くしよう!
まって!待ってってば!
 裸なのに平気で抱き着いてくる。

 引き締まった体と大きな胸がギュムギュム当たる。

こんな布いらん!私の手の方が丁寧に優しく隅々まで撫でまわせるぞ!
体を洗いにきたの!!
 ばちゃばちゃと水飛沫があがる昼下がり…。
うぐはぁ!!

 石鹸でヌルヌルの手で私を撫でまわし始めたタチが突然叫ぶ。

 助かった…じゃない、何事だ?


 タチがわき腹を押さえている。その傍にちっこくて二頭身の生き物がいた。

…ユニコーン?

 白くて幼い子供姿に薄桃色のふんわりとした髪。

 なにより、額にはとんがった角。

 

 たぶんそうだ、初めて見る。清純と潔癖の象徴。


 できれば服を着ているときに会いたかったけど。

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登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

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