第22話 三銃士

文字数 3,515文字

 船を待つ間の日々を、私たち三人は満喫していた。


 さすが大陸一の港町、色んなお店が立ち並んでいる。

 洋服屋、宝石屋、武器屋、防具屋、魔材店…

 どこに行っても潮の匂いが漂うのもピチョンならではだ。

 窓の外には大きな漁船と、海人達が網から魚を下ろしているのが見える。
お魚料理よりお肉とか豆料理の方が好きだったんだけど…ここ数日で順位が変わりそう!
じゃろう?水物は鮮度が命じゃよ。

 今日は、船着き場近くの小さなお店でお昼を頂いている。

 ズーミちゃんを隠しやすいよう、いつも通り端っこのテーブルで。

今までの中で、ここが一番好みの味付けだな。
 ワインで蒸された大きなムルル貝を頬張りタチがうなずく。
タチは味濃いの好きだもんね。
 白身魚のソテーを切り分け、トマトソースと共に口に運ぶ。
(美味しい!)

 選択肢がある場合、好んで魚料理を選ぶことはなかったけど、今度からは迷うことになるだろう。

 ピチョンに着いてからというもの、どんどんお魚が好きになる。

タチ。わらわのと、一つ交換じゃ

 いつもズーミちゃんは生魚のお刺身を選ぶ。

 素材のままが一番だそうな。


 赤身のお刺身二切れと、貝殻一つが交換こされる。

ナナもどうだ?うまいぞ。
ありがとう。でも、今回は遠慮しておく。貝物ちょっと苦手なんだよね…。

 ピチョンについてからは、毎食それぞれ違うものを頼み一口ずつ交換していた。

 三人いると色々味わいたい欲を、懐と胃袋に無理をさせず叶えられるのだ。

なぜじゃ。栄養も豊富でしかも美味しいじゃろう?
 めちゃくちゃ猫舌なズーミちゃんは必死にフーフーとムルル貝を吹いている。
むかーし、貝を食べた時にね。ジャリ!ってした嫌な思い出があって…。

 前々回の人生。猛獣使いをやっていた時。


 山奥で遭難しかけ、助けられた山小屋で出された夕飯の貝スープが原因である。

 その一家ではそれが普通なのだろうが、たっぷり入った貝はみんなジャリジャリで砂味がした。


 しかし親切に助けてもらった手前、残すわけにもいかず、涙を堪えて完食したのだ…。

 次の朝逃げるように山を下る途中、崖から落ちて死んでしまった。

これは大丈夫だ、食べてみろ。
う~ん…。

 もう何年もたっているし、タチとズーミちゃんもとっても美味しいそうに口にしている。

 その姿を見ていると、私も食べてみたい気持ちが大きくなる。


(今の私なら美味しく頂けるかも?)
タチ。ナナ様にあーんするのじゃ。これを味わわんのはもったいない。
 もぐもぐと口を動かし、目尻を下げて満足げなズーミちゃん。
(いいな~。スッゴクおいしそう。)
ナナ様…?

ピクッ。

 ズーミちゃんと私が固まる。

 だいぶ自然になって来たのだが、たまに表れてしまう、神と化身との微妙な関係性。

タチ!やっぱり私も食べたいあーんして!あーん!

 大きく広げた自分の口を指さし、卑しくせわしくおねだりをする。

 ズーミちゃんが「やっちゃったのじゃ!」と全身プルプルしているのを誤魔化すために…!

 いぶかしげな表情を見せながらも、ムルル貝を食べさせてくれるタチ。

 柔らかい歯ごたえと、独特な弾力。

 久しぶりの感触が口で広がる。味付けは薄いほうが私好みだけど、なるほど、確かに美味しい。

ん~~!!おいしい!ジャリジャリしない!
お前たち…いつからそういう関係になった?

 既に、もう何度かこの手のやらかしを繰り返していた。

 なにせ未だに剣一つ奪えない、私とズーミちゃんである。

 基本どこか抜けているのかもしれない。

タチにもあーんしたげる!私のお魚も美味しいよ!
わらわのも、あーんじゃ!あーんじゃと倍は美味しくかんじるのじゃ!
 二人して料理をフォークに刺し、タチの口元へと慌てて運ぶ。
いつ抱いたのだ?
「「…え?」」
 タチは、私の差し出した白身魚のソテーをパクリと口にしよく噛み飲み込んだ。
隠していたつもりかもしれんが、ここ数日主従関係が滲み溢れているぞ…。
もぐり。

 今度はズーミちゃんの差し出したお刺身を食べるタチ。

 ただご飯を食べているだけなのに、驚きの威圧感。

抱いたのだろう?ナナ。

 私とズーミちゃんは目を合わせる。

 色欲勘違いを起こしてくれている…!さすがタチ!

 困るけど助かる。だって抱いてないし!


 二人で小さくうなずき、共に口を開く。

そ…そんなわけない――
そ…そうなんじゃよ――
(…あれ?)
ちょ、ちょっとまってズーミちゃん!そっち路線で押すつもりなの!?
じゃって!いっそその方が辻褄も合わせやすいし、今後も楽じゃろうし…!
私とズーミちゃんはお友達!お友達でいたいって言ったじゃん!
そうじゃけど!やっぱり主従関係はあるものじゃし…どうしても意識するときはあるんじゃよ~!
無理させちゃってるとは思うけど!肉体関係があるみたいな――
ドン!

 タチがテーブルを叩いた。ずっしりと重く。

なぜ私を混ぜない!!
(…ですよね。)
この道を進むとそういう話になりますよね、タチさんの場合。
ナナがズーミを抱き!ナナを私が抱く!よって私が一番上!なぜそうしない!三人の中だろう!!
いや、抱いてないから!
ならば、私が両方抱いて私が一番上だ!
お主がナナより上になることなどあらんよ!ナナ様じゃぞ!!
変なとこでムキにならないでよズーミちゃん!タチが一番上でいいから!でも抱くのは無し!
やっぱり二人でしているな!いつの間にそんな中になった!隠れてこそこそしている時か!
(それはその…タチの剣を奪うために作戦会議というか…。)

 正直光の化身イトラが絡んできてからは、優先順位がさがっちゃったけど。

 美味しいごはんを仲良く食べまわるの下ぐらいの位置に。

タチだって気付いたらいなくなって、単独行動よくしてるでしょ!
私は自由だからな!だが除け者は寂しい!私も混ぜろ!!
わかった!まざるのじゃ!!わらわはそれでよい!
 完全に混乱しているズーミちゃんがタチの勢いに飲まれてしまった。
だめだよズーミちゃん!タチの手口なんだから!乗ったらたぶらかされちゃうよ!
ズーミとして、私とはできないのか!!ナナはスライムじゃなきゃ愛せないのか!!
だからしてないって!
じゃあ今夜はこれを着て一緒に寝ろ!とりあえずそれでいい!
 勢いよく伸ばしたタチの手には、ひらひらしたピンクの半透明の布が握られていた。
…なにこれ?
えっちな下着だ!
(なるほど、そういわれると一応、下着の形をしている…のかな?)
い…いつの間にこんなモノを?
夜な夜な街に繰り出してだ!

 ピチョンに着いてから、毎夜コッソリどこに出かけているのかと思ったら…。

 如何わしいお店に通い詰めてたわけじゃないのか…。

 いや、どっちにしても如何わしいお店だけれど。


だめです。みとめません。
ならズーミとの関係もゆるさんぞ!
だ・か・ら・~~!!

 交わらない会話。恥じらわないタチ。

 そんなえっちなモノお食事中に見せびらかさないでよ。

 目のやり場に困る。

ガシ。

 私の腕をズーミちゃんが突然つかんだ。

 プルプル震えながら。

…着ろ。その方が楽じゃ。裸じゃって川で見られたじゃろう。
ズーミちゃん!?
だってこのままじゃ!わらわポロっとしゃべっちゃいそうじゃもん!!わらわ達の関係を!!
やはりかっ!!!

 隠し通すごとに耐えかねたな!ズーミちゃん!

 そんな事で場が収まるなら…。って価値観なんだろうけど、素が裸のズーミちゃんとは違うんだよ!?

 スケスケだよ!?ちっちゃいよ?!


少し冷静になってよズーミちゃん!他人事だと思っていい加減なコト――
安心しろ。ズーミの分も、私の分も当然用意してある。サイズもきちんと合わせてあるぞ。

 両の手にヒラヒラとか紐を握りしめ、引き締まった顔をするタチ。

 不意にいなくなる前、妙に体を撫でまわされたが、もしかしてそれを作りにいってたの?

わ…わらわ元々裸なんじゃが?
 その通り。

 お出かけ時は全身皮装備だけど、部屋でくつろいだり、寝る時は素っ裸である。

だめだ。着ろ。一人は皆のため、皆は一人のためだ。
ズイッ。

 ズーミちゃんに真っ白の紐を押し付けるタチ。

  

…友として、これ以上わらわ達の事を問い詰めんでくれるか…?
!?待ってよズーミちゃん!!早まらないで!!
 ぷるぷると震えながら。

 差し出された白い紐 (下着)を手に取るズーミちゃん。

三人の変わらぬ友情の証だ。

 残った二つのうち、赤いヒラヒラで、なぜか切れ目のある布 (下着)を胸元で握りしめるタチ。


 二人はゆっくり私を見て、ピンク色で半透明な欠片 (下着)を差し出した。

(…ほんと。今回の人生はなんでこんな事になっているのだろう…。)


 我が友達の熱いまなざし。

 何一つ隠せていない下着 (概念)を握りしめるしか私には選択肢がなかった。

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登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

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