第51話 タチガール。

文字数 2,498文字

 村に着いたらまず、お店が閉まる前に買い出しだ。

 食料に、油、手ぬぐい、それとクシも。


 買い物しながらお店の人に話も聞いたけど、ウワサを耳にしていても、今の居場所まで知ってる人がいない。

 消耗品の補充も終わったし、本格的な聞き込みをしたい所だが…。


 人の集まる場所といえば、やっぱり酒場。

 足を運びたいけど、今の私だと店の前をウロついてるだけで叱られそうだ。

 どうしたものかと、切り株に腰を掛け悩んでいたら声をかけられた。


見ない顔だね?親はどうしたんだい、迷子かい?

 前を通りかかったおばーちゃんが、私の横に腰かけ座り込む。

 どこの村でも一人はいる、気さくに声をかけてくれる優しいご年配みたい。

えっとね、人を探してるんですけど…「神抱きのタチ」の噂ってしってますか?
あぁ、あの卑猥(ひわい)な話かい。あんたみたいなチビ助が耳にするのはまだまだ早いよ。
えっと…えっちな話が聞きたいんじゃなくて、居場所がしりたいんです。
そんな事いって…しょうがないねぇ~。そういうのに興味をもつ年ごろかい?ルーベン!ルーベン!

  性に関心を持つどうしようもないエロチビのため、向かいで野良仕事をしていたお兄さんにおばーちゃんが声をかける。


なんだよばーちゃん!今忙しいんだよ!
いいからおいで!このチビ助が聞きたいことがあるんだってよ!あんた直接見たことあるんだろ?
またその話かよ!エロばーさんが!

 ヒッヒッヒと笑うおばーちゃんは、嬉しそうに私の顔を見た。

 孫に叱られたのが嬉しいのだろうか、元気なおばーちゃんである。


それで?なんの用だい、おじょうちゃん。
神抱きの話が聞きたいんだとさ!

 私が口を開くよりさきに、返事をするおばーちゃん。

 さてはおばーちゃん。私をだしに孫と話をしたいだけだな…!

 

 可愛いおばーちゃんである。

こんな子供に聞かせる話じゃねーよ。ド下ネタだぞ。
あの…エッチな話が聞きたいんじゃなくて、その人の居場所が――
私だって若い頃はね、沢山もてたんだよ?フィーンに船を持つ船長に――
ばーさんは夕食の支度だろ!話がややこしくなるから、早く家にけーれ!

 関係のない長話が始まりそうになったその時、お兄さんがばーちゃんの背中を押し、すぐ横にある家の方へと追いやる。

 どうやらここがお家だったらしい。

なんでだい!私がこの子を見つけたんだよ?
いいから、帰れって。日が暮れちまうよ。
チビ助も一緒に食べるかい?今夜は――。
ばーさん!
いっひっひ。意地悪な孫だろ?

 2人のやり取りを縮こまって見ていた私に、同意をもとめるおばーちゃん。

 眉間にしわを寄せてはいるが、本気じゃない。あきらかにおばーちゃんは楽しんでいた。

えっと…仲良しさんでいいですね。
そんなことないんだよ、この前だって――
あぁー!はいはい!こんな子供にまで気を遣わせるんじゃねーよ!
 もう無理やり扉の前までおばーちゃんを押すお兄さん、若い力によって元気なおばーちゃんは家にしまわれた。

 負けないぐらいチャーミングでお元気だったけど。

悪かったな。…それで「神抱きのタチ」の居場所が知りたいって?
はい!知ってるんですか?
 お兄さんの腕力のおかげで、日が暮れる前に情報が聞けそうだ。
…まさか、じょーちゃんもタチガールか?
…たちがーる???

 また聞き覚えの無い、通り名である。

 彼女がなにかやらかしたのだろうか?でもその場合私に確認するのはおかしいか…。

なんでも、最愛の神様が死んだんだってよ。まぁ。神様っても「想い人」って事だろうが。んでもって、また生まれ変わってくるはずだから、戻ってくるのを待ってるらしいんだが…。

 うん。間違ってない情報だ。水の大陸で流れていた盛り盛りの噂話より正しい。

 神様が本当に神様を指すとは誰も思ってないようだけど。


直接聞いたんですか?
あぁ、一ヶ月ほど前になる。毛皮を売るためにクリーンの街に向かう途中、でっけー土の魔物と戦ってるのを見た。
 土の魔物…たぶんダッドだ!風の大陸で暴れまわってるとズーミちゃんが言っていた。
つえーこと、つえーこと。人間離れした動きで切り伏せてたさ。その後、街の酒場で見かけて酒を奢ったんだよ。器量も良いし、酒も強かった…。
その街どこにありますか!?

 嬉しい。少なくとも一ヶ月には、その街に元気に存在してくれている。

 そう証明してくれる人が目の前に存在する。

やっぱり…こんな小さな子までタチガールかよ…。立派な女だが…チビには良くないだろう…。
あの?さっきから言ってる、タチガールってなんなんですか?
言っただろう?強くて、顔が良い…。ようはモテるんだよ。
…?
私が転生した神だよ!って自称する女が、わんさか神抱きに寄ってんだ。あんだけもてりゃー気持ちがいいだろうな。
!!ちょっと私のタチなのに――。

 タチガールの言葉の意味を理解して、つい声を上げてしまった私を冷ややかな目で見るお兄さん。


 違うんです。本当に本物は私なんです。

 今寄っているニセタチガールと違って、本当に本当のタチと愛し合った存在…それが私!


 でもそれってタチガール呼びされても仕方がない気もするけど。

まぁ好きにするといいさ、今頃はウィンボスティーに居るんじゃないか?もっと神の可愛らしさを広めたいって言ってたからな。ドエロイ話を酒のつまみにしながら。
ありがとうございます…!おばーさんにもお礼言っておいてください!
あいよ。入れ込むのもほどほどにな。「若い時ぐらい変な恋に燃えるのもわるかね~。」ってのは、ばーさんの言葉だ。
本当にありがとう!

 目指す場所に目星がついた。

 ウィンボスティー。聞き覚えがある。確かストレちゃんの元いた国の王都だ。

 タチが王子様に「おいた」した場所…。


 そんな所いて大丈夫だろうか?

 北の大陸で一番大きな国の中心地、確かに人は多いし噂も広めやすそうだけど…。


 まぁ。タチが昔した事を気にして効果的な手段を避けるかと言えば…避ける気がしない。 

(行こう…ウィンボスティーに。)

 まだ日は暮れてないが、駆け足でズーミちゃんとユニちゃんの所に戻る。

 少しでも早くタチの元にたどり付くために。


 だって私。タチガールだもん。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色