第11話 タチの選択
文字数 2,486文字
連れられたのは、ズーミの部屋。
白くて真ん丸の室内にはポツポツと小さな窓が開いている。
外に見えるのは魚と綺麗な青。そう、ここはひと悶着した地上の傍にある湖の中だ。
と、水の玉に運ばれここにいる。
部屋主はというと、地上の後片付けを手伝いにいった。
協力をもうしでたのだが、これ以上よそ者まかせは申し訳ないそうだ。
地主のサガと言ったところか。
理由は室内にならぶ、数々の品のせいだろう。
私の背より大きな本棚が三つ、クローゼットも二つある。
ここにお出かけ用の服が収納せれているのだろう。
それと、ぬいぐるみもいくつか…
地上であった射的の景品だ。
確かお店の名前は「神落し」
物は多いが、整頓されている。
あの大きな拳に当てられたのだ、そういえば左腕も紫に色に腫れて――
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/85889d4d493a2bad64a7b7be0739d860.jpg)
色はまだ痛々しいものの、腫れがだいぶ引いてる。
隣に座った私に、ズボンを開け自慢するように印をみせる。
ハート型の下腹部にある卑猥なブツを。
まして悪魔と交わすなら相応のモノを求められる。
まったく理解できなかった、自らの生を縮め、その上子孫も残せない…。
人間にとって重要であろう、その二つを望んで捧げてまで得たいもの…。
私も子を作れない。
そもそも親もないし子孫もいない。
この人間の体だって、死んだらそこで一区切りというだけ。
新たに私を宿す肉体でこの地に目覚め…の繰り返しだ。
だけど、それは神だから。
他の生き物のような繋ぎ方ではないが、私という主体がずっとつづく。
今までは、なにかしらの才を持ち始まった。
今回も十歳前後の健康な体で目覚めたが、何にも無しで六年生きている。
私が人ならわかったのだろうか?
しょせんニセだから「なんでそうあるのだろう?」と思ってしまうのだろうか。
彼女の赤い瞳がグイっと寄ってくる。
私に何かを伝えたいように、瞳から意志がほとばしっていた。
人として生まれたのは十三回目、そもそもの始まりは「焦がれ」だった。
全てがあるがままの私と違い、短い生、狭い視野でしか存在できない人間。
その彼らの、理不尽と不条理に嘆く姿をみて、焦がれたのだ。
神に不条理が降り注ぐことなどないから。
今となっては神であったときの事をちゃんと思い出せない。
なぜなら、人の形をしているから。
短い生、狭い視野。なにも見渡せない不自由な生…。
それを求めてこうあるのだ。
つい口にしてしまった。これが人…というよりこれも人か。
久しく忘れていた、人間への興味。
不思議だ。彼女のありようが分かってみたい。
彼女の頬にそっと触れてしまう。
なんだろうこの感じ…「なんだろうこの気持ち」と言いたくなる、この感じ。
タチの瞳から目を離せない。当然向こうはそらすタイプじゃない。
見えない力で彼女に吸い寄せられていく…。
そこに交わる視線…がもう一つ
ぶくぶく。
窓の外からズーミがみてる、食い入るように。
何ボーっとしてたんだろう私。
神様が見えない力を感じてるってなんだ。
私の両腕を掴み、グイグイ迫るタチ。
まだ右腕紫色だけど痛くないのだろうか?
その窓出入口でもあるのか。
人間が子供に浮気現場見つかるとかそういう感じ…?
違うか。
カエルのぬいぐるを抱きしめて、興味津々で私たちを見つめるズーミ。
見世物じゃないぞ。
美しく幻想的な水の中、そんな素敵な場所でも、二人のやりとりはなにもかわらなかった。