epilogue
文字数 1,453文字
◆◇◆◇◆◇◆◇
数日後――フランは家を見上げた。
借金塗れだった自分が家を持つことができた。
そう考えると誇らしい気分になる。
「ホントに行っちゃうの?」
視線を落とすと、スカーレットが上目遣いでこちらを見ていた。
ツンツンしている彼女がしおらしくしている。
明日は雨かも知れない。
もちろん、口にはしない。
その代わり――。
「ユウを元に戻してやらなきゃいけないからね」
フランは微笑み、腰の剣――人造魔剣に触れた。
ユウが人造魔剣だったことは打ち明けてある。
悩んだ末の告白だったが、スカーレットの返事は素っ気ないものだった。
以前、手を握った時に人間ではないと何となく分かったらしい。
バーミリオンもそうだ。
いやはや、ドワーフとは恐ろしい。
それはさておき、ユウは剣のままだ。
意思のようなものも感じられない。
グリンダは使用者を見つけたせいで人になる機能が停止したのかもと言っていた。
多分、そうなのだろう。
人間に戻すべきではないのかも知れないが――。
「まあ、ちょくちょく立ち寄るよ」
「いつでも待ってるわ」
それと、とスカーレットは隣を見た。
そこにいるのはグリンダだ。
「なんで、行っちゃうのよ。この店はアンタの夢だったんでしょ?」
「ユウの方が大事だも、の」
グリンダはスカーレットから目を背けながら言った。
「水薬(ポーション)は沢山作ってあるから大丈夫よ」
「なくなる前に戻って来なさいよ」
「魔法が使えるから大丈夫、よ」
はぁぁぁ、とスカーレットは溜息を吐いた。
グリンダのせいでしんみりとした雰囲気が吹き飛んでしまった。
だが、まあ、こういうのもありだろう。
「さて、行くかね」
「まずは王都、よ」
フランは踵を返して歩き出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
九鬼(クキ)真(シン)――真は片膝を突き、頭を垂れていた。
主の命令があるまで頭を上げることはできない。
主はそこまで気にしていないかも知れないが、幾度となく失敗した身である。
不興を買うのは避けたかった。
「……顔を上げなさい」
「はッ!」
真は顔を上げた。
そこは薄暗く暗く、広大な空間である。
見渡す限り何もない。
そんな中に玉座がぽつんと存在し、少女が座っている。
滑稽にすら感じられる光景だが、真にそんな余裕はない。
「……私の欠片を見つけたわ」
「はッ!」
少女は笑い、自身の胸に触れた。
ぼぅ、と光が灯る。
黄色の光――地神を象徴する光だった。
光の発生源は少女に宿る神核だった。
それは極めて真球に近いが、わずかに欠けている。
それだけで目の前の少女――地神は十全に力を振るうことができない。
この世界の住人にとっては幸いにも――。
だが、地神が神核の欠片を見つけた以上、時間の問題だろう。
地神は力を取り戻し、唯一神となる。
そして、世界を蹂躙する。
真は蹂躙の対象外だ。
そういう約束で従属している。
結果として命以外の全てを失ってしまったが――。
「すぐに欠片を……」
「……」
地神が黙り込む。
この神は偶に気紛れを起こす。
綿密に立てた計画でさえ気紛れで変更を余儀なくされる。
「止めておきましょう。あの反逆者が作り上げた剣が私に届くのか確かめてみましょう」
「御心のままに、優美様」
「……ふふふ」
真が頭を垂れると、地神――小鳥遊優美は笑った。