Quest20:マイホームをゲットせよ【後編】
文字数 8,357文字
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日、優とフランが冒険者ギルドに入ると、エリーが歩み寄ってきた。
基本的にダンジョンを探索した翌日は休むことにしているが、今日は特別だ。
「ユウ君、バーソロミュー様から指名の仕事が入ってます」
「どんな仕事ですか?」
優が尋ねると、エリーは困惑しているかのように眉根を寄せた。
「ゴキブリ退治です。ただ、報酬が2000ルラとその建物に住む権利なんです」
「渡りに船です!」
優は勢いよく手を打ち合わせた。
もちろん、偶然ではない。
昨日、久しぶりにサロンに行ったのだ。
名刺を配った後でウィリアムにもう少しお金が貯まったら家を借りたいと伝えた。
彼は何とも微妙な表情を浮かべていた。
それは冒険者が家を借りるのは難しいと知るが故の表情である。
彼は話を広め、バーソロミューの耳に入った。
彼が建物に住む権利を報酬とした真意は分からないが、冒険者ギルドよりも優を高く評価してくれたのは間違いない。
「それで家賃はお幾らなんでしょう?」
「ただです。その代わり、ゴキブリが発生した時は可能な限り速やかに駆除するという条件が付きますが……」
悪くない、いや、破格の条件と言っていいだろう。
「もちろん、受け……」
「ユウ、迂闊だよ」
フランがペシペシと優の頭を叩いた。
「エリー、あたしらはどれくらい住んでていいんだい? 速やかに駆除できなかった時のペナルティーも詰めてあるんだろうね?」
「期限はありません。駆除できなかった時のペナルティーは契約解除ですが、ユウ君は冒険者なので、長期のクエストに参加している時は例外としてもらいました。また、事前通告なしのペナルティーは無効となります」
へぇ、とフランは感嘆の息を漏らした。
よくもまあ、ここまで不利な条件を呑んでくれたものである。
「代替わりした時はどうなるんだい?」
「契約期限を区切っていないので、代替わりしても条件は変わりません。契約内容を変更する時は冒険者ギルドを通すことを条件として盛り込みました」
「依頼書を貸しておくれ」
フランはエリーから依頼書を受け取り、フンフンと頷きながら目を通した。
「随分、いい条件だね?」
「戦って勝ち取ったんです」
エリーはムッとしたように言ったが、その口調は何処か誇らしげだ。
「ユウも読んでおきな」
「……はい」
優はフランから依頼書を受け取り、文章を目で追った。
おおよそ、こちらの不利益になるようなことは書かれていない。
エリーがどれくらい懸命に戦ったのか文章から伝わってくるようだった。
とは言え、冒険者ギルドに対する評価を改めるのは早計だ。
「問題ありませんか?」
「はい、この条件で依頼を受けたいと思います」
「頑張った甲斐がありました」
そう言って、エリーは嬉しそうに微笑んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ゴキブリ退治を依頼された建物は目抜き通りの外れにあった。
5階建てで1階が店舗とエントランスになっている。
エントランスの前にはバーソロミューと執事っぽい男性が立っていた。
さらに箱馬車が止まっている。
「おお、ユウ君。待っていたぞ」
「破格の報酬ありがとうございます」
優はバーソロミューに深々と頭を下げた。
「いや、頭を上げてくれ。私は君が家を借りようとしていると聞いて、なんとか力になりたいと思っただけなんだ」
「お気遣い感謝いたします」
優は顔を上げ、バーソロミューを見つめた。
「そう言えば依頼書にどの階を貸して頂けるのか書いていなかったのですが?」
「ああ、それなんだが、1階なんだ。店舗かと思うかも知れないが、奥にはちゃんとキッチンも、リビングもある。トイレも、水道もだ。部屋だって4部屋もあるんだぞ。店舗部分は好きに使ってくれて構わない。もちろん、店を開く時は私が力になろう」
バーソロミューは捲し立てるように言った。
「こんなにいい立地なのにいいんですか?」
「正直な話、ゴキブリに建物を占拠されてしまってな。住人は出て行ってしまったし、悪評も簡単に拭えそうにないんだ」
「……なるほど」
優はポンと手を打ち合わせた。
要するにバーソロミューは魔道士がきちんと管理しているアパートを謳い文句に住民を募ろうとしているのだ。
「急いではいないが、できるだけ早めに退治してくれると助かる。おい」
「こちらが鍵になります」
バーソロミューが声を掛けると、執事っぽい男性は鍵の束――と言っても6本しかないが――を差し出してきた。
「では、私は仕事に行く。頼んだぞ」
バーソロミューと執事っぽい男性は箱馬車に乗り込んで何処かに行ってしまった。
「ここって6戸しかないんですかね?」
「鍵が6本ってことはそうなんだろ。ほら、さっさと魔法を使いな」
「術式選択! 地図作成、反響定位、敵探知!」
フランが急かすように肩を叩き、優は魔法を起動させた。
ワイヤーフレームで目の前の建物が再現され、その中で蠢くゴキブリが黄色の三角形として表示される。
「……帰りたい」
「今更、泣き言を言うんじゃないよ。自分の家が欲しいんだろ?」
「だってぇ」
建物の内部は黄色の三角形で埋め尽くされている。
確かにゴキブリに占拠されたと言っていたが、誰が本当に占拠されていると思うだろう。
「氷弾×500でもどうにもならないですよ」
「冷気は下に沈むし、これだけ数がいると魔法だけじゃ頼りないねぇ」
フランは思案するように腕を組んだ。
「う~ん、毒を発生させる魔法ってなかったかね?」
「……
毒霧は文字通り、毒の霧を発生させる魔法だ。
「なら、そいつを使えば一発じゃないか」
「空気より重いですから上の階にいるゴキブリは退治できないですよ。5階から使おうにもゴキブリの群れに突っ込むのはちょっと」
「隣の建物から行けば問題ないだろ?」
優は建物を見上げた。
道具を揃えれば隣の建物から移動できるだろう。
「やっぱり、毒霧は止めましょう」
「あたしらに毒は効かないんだし、ゴキブリを殺せりゃいいだろ?」
「多分、毒霧を使ったら通りを歩いている人達が死ぬと思います」
毒霧は戦闘用――敵を殺すための魔法だ。
「ダメかね?」
「テロリストにはなりたくないです。それにゴキブリ退治が済んだら人が住む訳ですから影響が残るような真似はしたくないです」
「いいアイディアだと思ったんだけどねぇ。けど、毒は悪くないアイディアだろ? そうだ! 毒餌ってのはどうだい?」
「ああ、その手もありますね」
元の世界では毒餌が市販されていた。
何でもゴキブリには巣があり、毒餌を食べたゴキブリが巣で死ぬと、別のゴキブリが死体を食べて死ぬんだとか。
「でも、この方法って大繁殖する前にやるべきなんじゃ?」
「あれもダメ、これもダメ。ユウもちったぁアイディアを出しなよ」
フランはムッとしたように言った。
「……アイディアと言われても」
「そんなに難しく考えなくてもいいんだよ。ユウのいた所じゃ、どうしてたんだい?」
「ここまで繁殖しているとなると、バ●サンですね」
数年前、1日おきにゴキブリと出くわしていたことを思い出しながら答えた。
あの時はバ●サンを焚いたらゴキブリが出なくなった。
「ば、バ●サン?」
「煙状の殺虫剤です」
「へ~、便利なものがあるんだねぇ」
フランは感心したように言った。
「で、どうやって作るんだい?」
「それを知ってたら作って売り出してますよ」
額に痛みが走った。
フランにデコピンをされたのだ。
「役に立たないじゃないか!」
「でも、煙ってのはいいアイディアだと思いませんか?」
「まあ、ゴキブリを退治できる程度の毒でいいってことだからね」
人間が死なず、悪影響も少なければやってみる価値はある。
そんな毒があればの話だが。
「グリンダさんの所に行ってみましょう」
優はフランの手を引いて歩き出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
魔道士ギルドには煙が漂っていた。
グリンダは読んでいた魔道書を閉じ、気怠そうに口を開いた。
「いらっしゃ、い」
「ゴキブリを退治したいんですけど、弱い毒を出せる物ってありますか?」
グリンダは思案するように黙り込んだ。
「ある、わ。どれくらい必要な、の?」
「5階建ての建物を燻せるくらいです」
「手伝っ、て」
グリンダは立ち上がると奥の部屋に向かった。
後を追い掛けようとしたが、フランが手で制した。
「あたしが行くからユウは待ってな」
「……はい」
フランが奥の部屋に消え、優は周囲を見回した。
魔道士ギルドはマジックアイテムだけではなく、薬草も取り扱っている。
と言っても、頭痛や腹痛が治まる程度の薬草だ。
「神殿は大病院、魔道士ギルドは町医者って感じなのかな?」
そんなことを考えていると、フランとグリンダが藁のブロックのような物を抱えて戻ってきた。
グリンダは1つ、フランは2つだ。
グリンダはカウンターにブロックを置くと荒い呼吸を繰り返した。
「結構、重いもんだね」
そう言って、フランはブロックを床に置いた。
「これがそう、よ」
「どんな効果があるんですか?」
「煙を吸うと激しく噎せ返る、わ。しばらく涙と咳が止まらないから洞窟に潜んだモンスターを燻し出す時によく使う、の。屋内で使った後は換気を十分にすれば問題ない、わ」
グリンダはイスに座り、大きな溜息を吐いた。
「もうちょい体を鍛えなよ」
「必要ない、わ」
グリンダは冒険者ではなく、魔道士ギルドの支部長だ。
所謂、ホワイトカラーだ。
ホワイトカラーは必要以上に体を鍛えなくていいのだ。
「いくらでしょう?」
「サービス価格で3ブロックで銀貨1枚、よ」
「ありがとうございます」
優は財布から銀貨を取り出し、カウンターに置いた。
「毎度あ、り。それにしても大変、ね」
「そうでもないですよ。この依頼をこなせば家? アパート? を貸してもらえることになってますから」
グリンダはパチ、パチと目を瞬かせた。
「引っ越し祝いを考えておく、わ」
「その時は遊びに来て下さい」
ええ、とグリンダは静かに頷いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「買ったばかりの鍋なのにもったいないことをするねぇ」
「でも、穴を空けないと草が燃えませんよ」
優はハンマーと
寸胴鍋は故買屋で買ったばかりだ。
少しでも高く売るためか、綺麗に磨かれている。
「よし、できた」
寸胴鍋に解した草を鍋の中に入れる。
これでバ●サンの完成だ。
「エントランスのゴキブリを魔法で凍死させた後で草を燃やします」
「開けるよ」
「待って下さい。心の準備が……」
エントランスの扉の前に立つフランを慌てて制止する。
優は深呼吸を繰り返し、扉の前に立った。
カサ、カサという音が聞こえてくる。
「開けるよ!」
「術式選択! 氷弾×100!」
優はフランが扉を開けると同時に魔法を放ち、勢いよく扉を閉じた。
冷気がドアノブ越しに伝わってくる。
黄色の三角形はあっという間に数を減らす。
エントランスに何も表示されなくなったことを確認してから扉を開ける。
仰向けになったゴキブリの死体を見ないように寸胴鍋を階段の前に置く。
カサ、カサという音が上から聞こえてくる。
「術式選択! 炎弾×1/10!」
火が解した草に灯り、煙がゆっくりと立ち上る。
速攻でエントランスから飛び出し、慌てて扉を閉める。
「ユウはホントにゴキブリが苦手なんだねぇ。男の子ってのは虫が好きなんじゃないのかい?」
「ゴキブリと他の虫を一緒にしないで下さいよ!」
背筋がぞわぞわし、優は背中を掻いた。
「で、虫は好きなのかい?」
「昔は好きでしたけど、今は嫌いです」
小学校低学年くらいまでは夏にはクワガタを、秋にはバッタを捕まえに行ったものだが、ある時期から虫全般が苦手になった。
「……ホラー映画を見過ぎたせいかな?」
「ほらーえいが?」
フランは不思議そうに首を傾げた。
「演劇みたいなものです。ハリウッド映画は存在していない生き物を存在しているかのように動かすことができます」
「ユウにそれを再現する技術があればねぇ」
「それは言わない約束ですよ、お
「誰がお母さんだい!」
怒ったのか、フランは顔を真っ赤にして叫んだ。
「どうどう、人が見てます」
優は視線を巡らせつつ、フランを宥めた。
外れとは言え、目抜き通りだ。
人通りは決して少なくない。
「……分かってるよ」
フランはふて腐れたようにそっぽを向いた。
耳まで真っ赤だが、怒っているようには見えない。照れ臭そうに見える。
もしかして、お母さんに憧れているのだろうか。
考えてみればお母さんになるという選択肢のない人生だったのだから憧れていても不思議ではない。
しかし、保護者的ポジションに落ち着かれるのはマズい。
何となくマズいような気がする。
「あの草、効果があるんだね」
「……そうですね」
優は建物を見上げた。
建物とワイヤーフレームが重なり、黄色の三角形――ゴキブリが上へ、上へと逃げていく様子が分かる。
その間にも黄色の三角形は一つ、また一つと減っていく。
ただし、それは階段部分に限ってのことだ。
玄関の扉を開けていないので、部屋のゴキブリは減っていない。
「最初からこの方法を使えば良かったですね」
「それを言っちゃお終いだろ」
「でも、こんな簡単にゴキブリを退治できるのなら何のためにあんな怖い思いをしてきたのか……」
生身でゴキブリと退治した日々は無意味だった。
「いい小遣い稼ぎができたじゃないか」
「そりゃ、そうですけど」
優は深々と溜息を吐いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
夕方、優はエントランスの前で小さく息を吐いた。
黄色の三角形は地図から消滅している。
この時点で依頼を達成しているが、ある程度はゴキブリの死骸を纏めるべきだろう。
「……泥縄って、こういうことを言うのかな」
階段のゴキブリを駆除した後、寸胴鍋を4つ追加購入した。
1階ずつ駆除するよりも纏めてやった方が効率がいいと思ったのだ。
確かに効率は良かったが、火事と勘違いした衛兵に事情を説明する羽目になった。
お陰で今もエントランスの前で待機中だ。
店舗の扉が開き、顔の下半分をマフラーで覆ったフランが出てきた。
「はぁ~、しんど」
「お疲れ様です」
優が労うと、フランはマフラーを押し下げた。
「ゴキブリの死体は袋に詰めておいたよ」
「重ね重ねお疲れ様です」
「まあ、これでユウの希望は叶ったって訳だ」
「これで一緒に住めますね」
「――ッ!」
フランはビクッと体を竦ませた。
「いや、あたしは……」
「酷いです。家を借りたら一緒に住もうって約束したのに」
「……そ、それは」
ん? とフランは怪訝そうに眉根を寄せた。
「そんな約束しちゃいないよ!」
「でも、いいアイディアだって言いましたよね? つまり、それは一緒に住んでもいいってことですよね?」
うぐ、とフランは呻いた。
「言ったけどね。若い内から可能性を狭めなくたっていいだろ?」
「先日、この世界では重婚が認められていると聞きました」
「アンタ、もう別の女を連れ込むつもりかい!?」
フランは低く押し殺したような声で言った。
「僕の可能性が狭まることはないってことですよ」
「……そ、そりゃ、そうなんだろうけど」
「じゃあ、決まりです」
「ちょいと勝手に決めるんじゃないよ。あたしにだって心の準備ってもんが……」
「却下です」
優はフランの言葉を遮った。
「心の準備が整うのを待っていたら何も決まりません」
「あたしの気持ちが大事なんじゃないのかい?」
「フランさんの気持ちを優先していたら何も決まりません。きっと、僕には相応しい人間がいるとか決断を先延ばしにするに決まってます」
「言ってくれるじゃないか」
フランは挑発的な口調で言った。
「……と言うか」
優が歩み寄っても、フランはその場を動かない。
ここで退いたら押し切られるとでも考えているのかも知れない。
「あんなことまでしておいて心の準備なんて必要ですか? むしろ、フランさんが責任を取ると切り出すべきなのでは?」
「……うう」
フランは苦しげに呻いた。
開き直られたらそれまでなのだが、彼女は自分に非があるとなれば責任を取ろうとする程度に善人なのだ。
そのくせ、悪ぶろうとするから自縄自縛に陥るのだ。
可愛いものである。
もちろん、その善人さに付け込ませてもらうが。
「これからもお願いしますね?」
「分かったよ」
フランが答えたその時、ガラガラという音が聞こえてきた。
音のする方を見ると、箱馬車がこちらに向かっていた。
箱馬車は徐々にスピードを落とし、優達の前で止まった。
扉が開き、バーソロミューがゆっくりと下りてきた。
「進捗状況はどうかな?」
「ゴキブリは駆除済みです。死骸は袋に詰めてあります」
「なんと!」
バーソローミューは驚いたように大きく目を見開いた。
「やはり、君は有能だ」
「ありがとうございます」
優は深く頭を下げ、鍵の束を差し出した。
「先に報酬を渡すとしよう」
バーソロミューが目配せをすると、執事っぽい男性は鍵の束を手に取り、その内の一つを外した。
「どうぞ。スペアキーはこちらで管理しておりますが、できるだけなくさぬように心掛け下さい」
「ありがとうございます」
優は執事っぽい男性から鍵を受け取り、再び深く頭を下げた。
「……死骸についてなんですが」
「ああ、それはこちらで始末しておこう。ユウ君の仕事はこれで終わりだ」
優はホッと息を吐いた。
「いつから入居できますか?」
「そうだな。水回りに手を加えなければならないが、明後日の昼には入居できるようにしておこう」
「もう実用化したんですね?」
「ああ、難しいものではないからな」
バーソローミューはホクホク顔だ。
とは言え、どれくらい儲けたか尋ねるのは野暮だろう。
「また、いいアイディアを思い付いたら教えてくれ」
「そうですね」
煙で燻す駆除方法を教えても大丈夫かな? と優は腕を組んだ。
もっとも、いつまでも秘密にはしておけない。
「実は、今回は弱い毒を含んだ草を燃やしてゴキブリを駆除したんです」
「……ユウ」
フランが教えちまっていいのかいと言うように親指で優の尻を突いた。
ほぅ、とバーソロミューは目を細めた。
優は地面に散らばっていた草を集め、執事っぽい男性に差し出した。
彼は草を受け取るとポケットからハンカチを取り出し、大事そうに包んだ。
「草の詳細は魔道士ギルドのグリンダさんに聞いて下さい。ただ、この草はゴブリン退治にも使うらしいので……」
「そんなに心配しなくても買い占めたりはせんよ。ゴブリンが私の街を蹂躙する可能性を上げるなんて恐ろしい」
バーソロミューは我が身を掻き抱き、ブルブルと震えた。
「僕達は寸胴鍋に草を入れて燃やしましたが、専用の容器に詰めて売るのもありかも知れませんね。そうすれば一般庶民にも手が出せます」
「ほぅ、いいアイディアだ。ところで、寸胴鍋を使ったそうだが……」
「必要経費って感じですね」
優は軽く肩を竦めた。
「そうか。引っ越し祝いを送りたいんだが、何がいい?」
「家具とお布団一式が欲しいです」
バーソロミューは笑みを深める。
多分、そんなものでいいのか。安い男だな、とでも考えているのだろう。
「ははっ、欲がないな。うむ、食器とマジックアイテムも付けようじゃないか。あとはカーテンだな。色のリクエストがあれば聞くぞ」
「ありがとうございます」
「いやいや、それは私の台詞だ。これからもいい関係を続けたいものだ」
優はバーソロミューと固い握手を交わした。