Quest25:志願者をギルドに案内せよ その4
文字数 8,497文字
「帰りました」
「お帰り、ユウ。風呂の準備はしといたよ。悪いと思ったけど、着替えを準備するために部屋に入ったからね」
家に帰ると、フランが玄関で出迎えてくれた。
「それで首尾はどうだった?」
「新しいスキルを習得しました」
優が認識票を差し出すと、フランは訳が分からないと言うように首を傾げながら覗き込んできた。
「神威無効? どんなスキルなんだい?」
「よく分かりませんが、邪神を傷付けられるスキルみたいです」
「邪神ねぇ」
フランは訝しげに眉根を寄せた。
「邪神と戦うなんざ真っ平御免だよ」
「まあ、それはそうですね」
優だって邪神と戦うのは御免だ。
「で、他に収穫はあったのかい?」
「魔剣と聖剣はイメージによって決まるってことくらいですね」
「イメージ? ああ、なるほどね」
皆まで言わずとも察してくれたようだ。
「人造魔剣が実在するかは分かりませんでした」
「構わないさ」
「興味がないんですか?」
「ないね。そんなもの、厄介事の種にしかならないじゃないか」
「もし、手に入ったらどうします?」
「速攻で売り払うに決まってるだろ」
フランは即答した。
彼女らしいと言えば彼女らしい。
「ところで、グリンダさんはどうしてます?」
「研究室に引き籠もって水薬の製造だよ。明日、サロンに行くから徹夜はしないと思うけどね。さっさと風呂に入っちまいな」
「い、一緒に――」
「もう入っちまったよ」
フランは踵を返すと廊下の奥に向かって歩いて行った。
一緒にお風呂に入れなかったことに落胆しつつ、脱衣所に入った。
優は服と下着を脱ぐと洗濯機に入れた。
洗剤を入れ、ダイヤルを捻り、蓋を閉める。
すぐに水の音が聞こえてきた。
浴室に入り、体を洗う。
「……いい湯だな」
浴槽に浸かり、天井を見上げる。
異世界でお風呂に入れるとは思わなかった。
剣と魔法の世界だが、文明レベルは現代に匹敵するのではないだろうか。
「もしかしたら、かなりの人数がこっちの世界に来てるのかな」
そう考えれば給湯システムや洗濯機、冷蔵庫、コンロなどを直感的に操作できたことも道理というような気がする。
まあ、突き詰めていったら同じような物ができたという可能性は否定できないが。
「……グリンダさんに聞いてみよう」
面白い話が聞けるかも知れない。
優は浴室から出て、タオルで体を拭った。
トランクスとTシャツを着る。
Tシャツの襟を摘まむ。
短いサイクルで洗濯をしているので、襟がよれよれになってしまっている。
「……いい湯だった」
洗面所から出て、自分の部屋に向かう。
部屋に入り、口元を綻ばせる。
キングサイズのベッドにはフランが寝そべっていた。
「フランさん、ようやく自分から求めてくれるようになったんですね」
「監視に決まってるだろ」
「言い訳はしなくていいのに」
優は軽い足取りでベッドに潜り込んだ。
「……ふ、フランさん」
「飽きるってことを知らないのかい」
優が身を寄せると、フランは呆れたと言わんばかりに溜息を吐いた。
「もう10日もお預けを食らっているんですよ」
「ちょ、ん――ッ!」
体に触れると、フランは艶っぽい息を漏らした。
表層はマシュマロのように柔らかく、その下にはしっかりとした筋肉が存在している。
「××××の加護がなくなっちゃいますよ!」
「10日もしてないけど、ステータスは低下してないよ」
フランはうんざりしたような口調で言った。
もちろん、知っている。
残念なことに一緒に寝るだけで××××の加護に魔力が補充されてしまうのだ。
「ふふふ、そんなことを言っちゃって、フランさんのここは……」
「ど、どうにもなっちゃいないよ!」
「何処まで我慢できますかね?」
フランはよく我慢したが、グリンダが乱入してすぐに限界を迎えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日、優は爽やかな気分で目を覚ました。
元旦の朝に新品のパンツを穿いたような爽やかさだ。
隣を見ると、フランは俯せの状態で顔を覆っていた。
時折、唸り声を上げている。
「どうかしたんですか?」
「……昨夜のことを思い出して身悶えしてるんだよ」
フランは低く押し殺したような声で言った。
「昨夜はノリノリでしたよ」
「だから、後悔してるんだろ」
後悔とは後で悔いると書く。
昨夜はその場の勢いやノリではっちゃけてしまったが、冷静になってみればとんでもないことをした。
「どうして、あたしは、こう、激しやすいのかねぇ」
フランは後悔を噛み締めるように言い、深々と溜息を吐いた。
「後悔しながらも満更でもないという表情、ね」
「うっさいね」
グリンダが欠伸を噛み殺しながら言うと、フランは不愉快そうに顔を顰めた。
アンタも原因の一端を担ってるんだよ、とでも言いたげな表情だ。
「おはようございます」
「おはよ、う」
グリンダは優に擦り寄り、触れるだけのキスをしてきた。
フランは横目でこちらを見ている。
非難と羨望が入り混じったような目だ。
もしかしたら、そういうことを極々自然にやれて羨ましいなとか考えているのかも知れない。
「チッ、スッキリした顔をして」
「貴方も、よ」
「……ぐっ」
フランはグリンダに突っ込まれて小さく呻いた。
「もう諦めた方がいい、わ」
「……何をだい」
「前にユウが感覚を調整していると言ったことがあったと思うのだけれ、ど」
「ああ、言ったね」
グリンダは沈黙し、パチパチと目を瞬かせた。
「不安になるから黙るんじゃないよ」
「性感も調整されていると思うの、よ」
「は?」
フランは鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべた。
「だから、性感を――」
「聞こえてたよ!」
「……聞き返してきたくせ、に」
フランが声を荒らげると、グリンダは拗ねたように唇を尖らせた。
「そいつは――」
「ユウを相手にした時が一番感じるということ、ね。試すつもりはないけれど、他の男では感じないように調整されてるかも知れない、わ」
「とんでもないね」
フランは深々と溜息を吐いたが、悲愴感は感じられない。
「もう少し驚くかと思った、わ」
「驚いてるよ。要するにあたし達は自分でも知らない内にユウ専用に改造されちまったってことだろ?」
「そんな人聞きの悪い」
グリンダはともかく、フランは自業自得だ。
「そのことはいいんだ」
「いいんですか?」
「もうどうしようもないだろ。それに、最後まで付き合う覚悟はできてるよ」
フランは溜息交じりに言い、微かに口元を綻ばせた。
「何が問題な、の?」
「3人ですることと調子に乗っちまう自分に慣れないんだよ」
「諦めた方がいい、わ。それが貴方の性格だも、の」
「分かってるよ! 分かってるんだけど、ああ、もうッ!」
フランは両手で顔を覆い、足をばたつかせた。
「ユウ、お風呂の準備をお願、い」
「放っておいて大丈夫ですか?」
「見る人によってはノロケにしか見えない、わ」
言われてみれば心の底から嫌がっているようには見えない。
口では嫌だ、嫌だと言いながら何処か余裕を感じさせる。
「フランは感覚的に今の状況を受け入れられずにいるけれど、何だかんだと言って居心地がいいと思っているの、よ。常識と実感の狭間で身悶えしている状況、ね」
「その通りですね」
隣を見ると、フランはまだ足をばたつかせていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「よくもまあ、飽きないわね」
スカーレットはテーブルに料理を並べながら呆れたような口調で言った。
メニューはパンとスープ、目玉焼き、ソーセージである。
「獣じゃないんだから、もう少し自制しなさいよ」
スカーレットは豆茶をカップに注ぐと自分の席――グリンダの隣に座った。
もちろん、豆茶は人数分用意している。
性格はキツいが、見事なブラウニーぶりである。
「いや、あたしは嫌なんだよ?」
「満更でもなさそうな表情で言われても説得力がないわよ」
フランは反論したが、スカーレットに指摘されて俯いた。
羞恥心からか、耳まで真っ赤だ。
「自制している、わ」
「何処がよ」
グリンダがぼそりと呟くと、スカーレットはうんざりしたような口調で言った。
「1日中イチャイチャしたい所を我慢している、わ」
「朝から晩までやりたいっての?」
「違う、わ。イチャイチャしたい、の」
「どう違うのよ?」
「イチャイチャはイチャイチャ、よ」
「まあ、いいわ」
どうやら、理解するのを諦めたらしい。
「そう言えば、父さんに何かした?」
「バーミリオンさんがどうかしたの?」
「昨夜から鍛冶場に閉じ籠もってるのよ」
う~ん、と優は唸った。正直に話すべきか悩む所だ。
「新しい魔法剣のアイディアを思い付いたらしいよ」
「ああ、それで」
スカーレットは合点がいったとばかりに頷いた。
それで納得してしまうのはどうかと思うが、変に突っ込まれるよりはいいだろう。
「それで、今日の予定は?」
「サロンに行って、ダンジョンの探索許可を申請するくらいかな」
「ダンジョン探索!」
「言っておくけど、前回みたいな大量の魔晶石はそうそう見つけられないよ」
目を輝かせるスカーレットに言っておく。
最下層に到達するまでに何度か見つけられそうな気はするが、簡単に見つけられると思われても困る。
「それに見つけられたとしてもモンスターを倒せるか分からないし」
「モンスター?」
「大量の魔晶石がある所には手強いモンスターがいるんだよ」
「手強いモンスターがいるから大量の魔晶石が残されていたとも言えるわ、ね」
グリンダが優の後に続く。
第1階層には超大土蜘蛛、第5階層には妖蠅。
どちらも一筋縄ではいかない相手だった。
大勢の冒険者が死んでいたことを考えれば勝てたことが奇跡のように思える。
「よく無事だったわね」
「運がよかったんだよ」
「それはないだろ」
溜息交じりに言うとフランに突っ込まれた。
「知恵と実力で乗り切ったの、よ」
「あまりそういう状況にゃ追い込まれたくないけどね」
フランは豆茶を飲み、ホッと息を吐いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
優は大きめのポーチに水薬を入れ、フランとグリンダを連れて店を出た。
雲一つない晴天だったが、心なしか普段よりも肌寒く感じられた。
サロンの近くに行くと、黒服が軽く手を上げた。
「よう、また来たのか?」
「はい、いつもお世話になっています。その御礼と言っては何なんですが、こちらをどうぞ」
優が水薬を差し出すと、黒服は躊躇う素振りを見せずに受け取った。
「水薬か? こんな高いものをもらっていいのか?」
「ええ、実はマジックアイテムと衣類を扱う店を始めまして。水薬1本300ルラで販売しております。詳細はこちらに」
ポーチから取り出した広告を差し出す。
黒服は広告を受け取り、しげしげと眺めた。
そして、服のポケットに広告を収める。
「しっかりしてやがるな。けど、安かろう悪かろうじゃ困るぜ」
「だから、試供品としてお渡ししているんですよ。ちょっとしたケガをした時に使って頂いて、魔道士ギルドで販売されている水薬と品質に違いがないことを――」
「魔道士ギルドより品質は上、よ」
グリンダが優の営業トークを遮る。
魔道士ギルドの水薬と同列に扱われるのは不愉快だという気持ちがひしひしと伝わってくる。
気持ちは分かるのだが、突発的な事態に対処できるほど優の営業力は高くない。
「ま、つまり、そういうことです。魔道士ギルドで販売されている水薬と遜色がない。品質が上かも知れないことをお客様自身に確かめて頂ければと思います」
「よくもまあ、ガキのくせに次から次へと色々なことを考えつくな」
かなり強引に話を纏めたが、黒服は呆れ半分感心半分という感じで言った。
「要するに今日は店の宣伝に来たってことか?」
「挨拶のつもりなんですけどね」
「分かった分かった」
黒服は道を空け、親指で入るように示した。
階段を上がり、2階のホールに辿り着く。
そこではいつものように街の有力者が歓談していた。
「バーソロミューさんは……いた」
周囲を見渡すと、すぐに数人の男性と親しげに話すバーソロミューの姿を見つけた。
どうやら、彼もこちらに気付いたらしく歓談を中断して近づいてきた。
「やあ、ユウ君。そろそろ、来る頃だと思っていたぞ」
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。お詫びと言っては何ですが、こちらをどうぞ」
「おお、済まんな」
優が水薬を差し出す。
バーソロミューは水薬を受け取り、照明に翳した。
「ほう、これは見事な水薬だな」
「お分かりですか?」
バーソロミューに追従する。
品質の善し悪しなど分からないが、グリンダが魔道士ギルドより上と言うくらいだから大丈夫だろう。
「分かるとも。通常の水薬は不純物が交じるためにわずかに濁るが、これはとても澄んでいる。まあ、体感できるほど効果に差が出るとは思わないがね」
「その通り、よ」
グリンダが肯定すると、バーソロミューは得意げに小鼻を膨らませた。
「店は順調かね?」
「ええ、お陰様で」
「それはよかった。骨を折った私も鼻が高い」
ああ、とバーソロミューは思い出したように声を漏らした。
「ユウ君を友人に紹介したいんだが、時間は大丈夫かね?」
「はい、大丈夫です。えっと、フランさんとグリンダさんは?」
「もちろん、一緒だとも」
バーソロミューは先程歓談していた男性達の所に優達を連れていった。
「待たせたな。何度か話したと思うんだが、彼はユウ君……優秀な冒険者で、グリンダの店のオーナーだ」
「ほう、君が」
たっぷりと髭を蓄えた男はしげしげと優を眺めた。
他の男性はフランとグリンダを見ている。
フランは恥ずかしそうにしているが、グリンダは平然としている。
「よろしくお願いします」
「はは、幼いのに弁えているようだ」
髭の男は優が差し出した水薬を受け取るとポケットにしまった。
「おいおい、品質を確かめないのか? そいつはちょっとしたものなんだぞ?」
「そいつは失礼」
バーソロミューが非難がましい口調で言うと、男はポケットから水薬を取り出し、照明に翳した。
「……濁りがないな。古い方法で作ったのか?」
「そう、よ。魔法で成分を抽出した、の」
ナイスフォロー、と優は心の中でグリンダに称賛を送る。
「一昔前まで水薬を作る時には魔法で成分を抽出していたの、よ。けれど、その方法は魔力の消費が激しくて量産に向かなかった、の」
魔晶石を使えばよさそうなものだが、使っていないということはコスト面か、技術面で問題があったのだろう。
もっとも、ここで無知を晒す訳にはいかないので、黙っておくが。
「……君は」
男はグリンダに視線を向けた。
「君が魔道士ギルドにいた頃は新しい方法で成分を抽出していたと思うが?」
「その通り、よ」
グリンダはそれっきり黙り込んだ。
男は降参とばかりに両手を上げる。
恐らく、古い方法に切り替えた理由を聞き出そうとしたのだろう。
「私ももらえないかな?」
「ええ、どうぞ」
優は隣にいた眼鏡を掛けた男に水薬を差し出した。
男は嬉しそうに水薬を受け取り、ポケットにしまった。
「さて、ユウ君。次に行こう」
「はい、お願いします」
バーソロミューに連れられて移動する。
挨拶して水薬を渡す。
何度か繰り返す内に水薬は残り1本となっていた。
「主だった連中には挨拶ができたな。できれば応接室でゆっくりと話したい所だが……」
「いえ、ありがとうございます」
優が頭を下げると、バーソロミューは最初に紹介してくれた人達の下に戻った。
声を掛けられたのはそんな時だ。
「ユウ君!」
「ウィリアムさん!」
優は応接スペースのソファーに座るウィリアムの所に向かった。
「久しぶりだね」
「はい、ご無沙汰しています」
「座ったらどうだい?」
「ありがとうございます」
頭を下げてソファーに座ると、フランとグリンダが左右に座った。
ソファーはそれなりに大きいのだが、3人だと少しだけ窮屈に感じられる。
「はは、モテモテだね」
「……どうも」
肯定も、否定もできずに頭を掻く。
「忘れてました。よろしければどうぞ」
「ありがたく受け取っておくよ」
優が水薬を差し出すと、ウィリアムは身を乗り出して受け取った。
それから水薬を照明に翳した。
「見事なものだ……と誉め言葉は聞き飽きているかな。何しろ、渡した連中は皆同じことをしているんだからね」
「いえ、僕達の店の商品が誉められるのは素直に嬉しいです」
「それもそうだね。自分の店で取り扱っている商品を誉めてもらえるのは嬉しいものだ」
ウィリアムは朗らかに応じた。
「随分、バーソロミュー殿に気に入られているようだね?」
「う~ん、どうなんでしょう?」
優は首を傾げた。
「謙遜する必要はないよ。君の……失礼、君達の実力を認めているんだよ」
「あたしらのことは気にしなくてもいいよ。これでも分は弁えてるからね」
「そう、ね」
「そんなことないですよ」
「嬉しいことを言ってくれるねぇ」
フランはニッと笑って乱暴に優の頭を撫でた。
「けど、事実は事実さ」
「そう、ね。私が店を持てたのはユウのお陰だ、わ」
「私じゃなくて、私達だろ」
そこは譲れないのか、フランは顔を顰めて指摘した。
「私達が店を持てたのはユウのお陰、ね」
「でも、やっぱり……」
「謙遜は美徳だが、過ぎれば嫌味だよ」
優は反論しようとしたが、ウィリアムに遮られてしまった。
彼はゆっくりと脚を組み、視線を巡らせた。
「君と話したくてうずうずしてる連中の視線に気付いてるかい?」
「いえ、全然」
ウィリアムは呆気に取られたような表情を浮かべ、小さく噴き出した。
「そんなに面白いですか?」
「面白いさ。冒険者には珍しいタイプだ」
ウィリアムはソファーの背もたれに寄り掛かると咳払いをした。
「……商談なんだが、水薬を週10本用意してもらうことは可能かな?」
「グリンダさん?」
「可能、よ」
優が目配せすると、グリンダは淡々と答えた。
「でも、どうして水薬を?」
「ヘカティアの魔道士ギルドがいきなり水薬の生産数を減らすと言い出してね」
「私の後任は求道派、よ」
ああ、と優は頷いた。
求道派は魔道を極めようとする者達だ。
研究の邪魔になるようなことを仕事をしたくないのだろう。
「殿様商売もいい所ですね」
「まあ、優秀な魔道士は数が少ないからね」
ウィリアムは苦笑した。
「あれ? でも、優秀な魔道士が少ないのなら、どうしてグリンダさんは僕の所に?」
「頼れる人が他に思い付かなかったの、よ」
グリンダは少しだけ恥ずかしそうに言った。
「スカウトしようと思った頃にはユウ君の所にいたって寸法さ。で、どうだい? 水薬を週10本」
「グリンダさん?」
「ユウに任せる、わ」
グリンダに目配せすると、丸投げされてしまった。
う~ん、と腕を組んで唸る。
週10本は非常に魅力的な取引だ。
「条件は?」
「特にないよ。魔道士ギルドが売ってくれなくなった分を確保したいだけなんだ」
「分かりました。じゃあ、冒険者ギルド経由でお願いします」
「ユウ君は石橋を叩いて渡る性格なんだな」
「すみません。色々と考えたんですけど、こういう契約のことって何1つ分からないので、ギルドに任せられるのなら任せてしまいたいんです」
「それもそうだね。分かった。ギルド経由で依頼を出すよ」
ウィリアムはパンッと太股を叩いて立ち上がった。
「そう言えば隊商の護衛はもうやらないのかい?」
「ああ、いえ、やらない訳じゃ……」
「その時は声を掛けとくれよ」
「ああ、よろしく頼む」
そう言って、ウィリアムはホールに向かった。
「……疲れました」
「ユウはアドリブが利かないねぇ」
「14歳の子どもに何を期待してるんですか」
優が言い返すと、フランは軽く目を見開いた。
「そういや、優は14歳だったね」
忘れてたと言わんばかりの口調だ。
「しっかりしてるか、ら」
「頼り過ぎちまってたね」
う~ん、とフランとグリンダは唸った。