Quest19:××××の加護を検証せよ その3
文字数 8,115文字
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日――こいつは凄いねぇ、とフランは一角兎を追い掛けながら口角を吊り上げた。
一角兎はモンスターの中では最弱に近いが、獲物としてはそれなりに厄介だ。
動きが素早く、警戒心が強い。
平地ならばいざ知らず、障害物の多い森では追い掛けるのは非常に困難だ。
今までは警戒心の強さを利用してユウのいる方向に追い込んでいた。
下手な追い込み方をすると反撃してくるので、それなりにテクニックが必要だ。
今日は違う。
自分で追い掛けて狩ることも、程々にダメージを与えてユウのいる方向に追いやることもできる。
パラメーターが上昇したからだけではない。
スピードが同等、上回っていたとしても地の利は一角兎にある。
横から迫り出した木の枝、下生えの草に隠れた段差が行く手を阻み、人間に本来のスピードを発揮させてくれないのだ。
ああ、枝が迫り出しているね、とフランはわずかに首を傾ける。
木の枝が頬に触れるか触れないかの所を通り過ぎ、笑みを深める。
木の枝も、段差もスピードを損なう要因には成り得ない。
目で見なくても何処から木の枝が迫り出しているのか、何処に段差があるのか手に取るように分かる。
フランが大きく踏み込んで木の杖を振り上げると、一角兎は首を巡らせて方向転換を図った。
今までの自分ならば対応できず、一角兎を見失っていただろう。
だが、フランの瞳には一角兎が止まっているかのように映る。
ユウはあっちにいるね。だったら、あっちに飛ばせば仕留めてくれる、とそんなことを考える余裕まである。
フランは木の杖をフルスイング。
掬い上げるような一撃を喰らった一角兎は高々と宙を舞い、綺麗な放物線を描いて地面に落下する。
しかし、流石はモンスターと言うべきか、すぐに立ち上がって逃げようとする。
かなりのダメージを受けているらしく、動きは格段に遅くなっている。
そこに――。
「術式選択! 氷弾!」
ユウの魔法が降り注ぎ、一角兎は凍りついた。
今までは追い切れなくて範囲攻撃をしていたが、適度に弱らせればこの通りだ。
ユウは一角兎に歩み寄り、手慣れた様子で解体を始める。
まあ、何回も解体をしていればどんな馬鹿だって手順を覚える。
「今日はいつになく調子がいいですね」
「火焔羆を倒したせいかね」
フランは木の杖を担いだ。
1匹目を狩った時は槍を使っていたのだが、勝手が掴めずに毛皮を傷付けてしまったのだ。
毛皮を傷付けると価値が下がってしまうので、ユウが持っていた木の杖を使うことにしたのだが、なかなか使い勝手がいい。
借り物の力だってのは分かってるんだけどねぇ、とフランは自分の手を見下ろした。
この力を試してみたいという気持ちが湧き上がる。
馬鹿な考えだ。
折角、楽に一角兎を狩れるようになったのだ。
ここは余計な色気を出さずに堅実にいくべきだ。
この5年で思い知ったはずだ。
自分は英雄になれない、凡人に過ぎないのだ、と。
ようやく安定して稼げるようになった。
もう妹に肩身の狭い思いをさせずに済む。
冒険なんてすべきじゃない。
頭では分かっているのにこの力を使いたい、この力を存分に振るいたいという気持ちを消すことができなかった。
「……フランさん?」
「な、何だい?」
「解体し終わりましたけど?」
いけない、いけない。どうやら、物思いに耽っていたようだ。
「これからどうしますか?」
「ど、どうって、いつも通りでいいだろ」
フランは自分が誘惑に抗えたことに安堵するが、ユウは少し不満そうだ。
「何か不満でもあるのかい?」
「フランさんの調子もいいことですし、もう少し奥に行ってみませんか?」
冷静さを取り戻し、視界の隅に表示されているユウのMPを確認する。
ユウのMPは98%。
フランのポーチには下位治癒水薬が2本、解毒薬、抗麻痺薬が1本ずつ、焼夷、電撃、氷結、閃光のマジックアイテムが1個ずつ入っている。
「ユウ、薬とマジックアイテムは?」
「下位治癒水薬が2本、閃光のマジックアイテムが1個あります」
これだけあれば不測の事態にも耐えられる。
「よし、もう少し奥に行こう。方針は命大事に、モンスターと遭遇するまで魔力はできるだけ温存する。分が悪いと思ったら閃光を使って、とっとと逃げるよ」
「分かりました」
ユウは神妙な面持ちで頷いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
フランとユウは茂みから泥浴びをする猪を見ていた。
大きさは牛ほどもあり、その毛皮は分厚い脂肪と相俟って並の刃物を通さない。
さらに下顎から伸びる牙は鋼鉄の鎧を容易く貫く威力を秘めている。
「どうしますか?」
「あたしが魔猪を引き付けるから、ユウはここから援護しな」
魔猪が泥浴びをしているのは小さな窪地だ。
その周辺は猫の額ほどの荒れ地、さらにその周辺を木々が囲っている。
木々を盾にすれば筋力値と敏捷値の低いユウでも魔猪の攻撃を凌ぐことができる。
もちろん、ある程度までだが。
フランが槍を地面に置くと、ユウはギョッとした顔でこちらを見た。
「危ないですよ」
「どうせ、傷付けられないんだ。だったら、最初からこっちを使った方がいいさ」
魔法銀の剣を抜く。
動物やモンスターは人間が思っている以上に賢い。
人間が弱いと知れば躊躇なく襲ってくる。
もし、目の前にいる魔猪が人間と戦った経験を持ち、並の武器が自分に通じないことを学んでいたとしたら槍は牽制の役にも立たない。
仮に人間と戦った経験がなくても戦いの最中に並の武器が通じないと学ぶ可能性がある。
それならば最初から魔法銀の剣を使った方がいい。
「あいつが窪地から出るまであたしらのターンだ。ぶちかましてやりな」
「分かりました」
任せたよ、とフランはユウの頭を撫で、茂みから飛び出した。
「この豚野郎! 掛かってきな!」
「Pigiiiiiii!」
フランが挑発すると、魔猪は泥浴びを中断して近づいてきた。
予想通り、泥に足を取られて遅い。
「術式選択! 氷弾×10!」
ユウが木の陰から魔法を放つ。
氷弾は魔猪の前肢に炸裂した。
泥が凍りつき、濡れた毛皮に霜が降りる。
一角兎ならばこれで終わりだが、魔猪は何事もなかったように凍った泥を砕きながら歩を進める。
「術式選択! 氷弾×100!」
ユウのMPが87%まで一気に減る。
その代わりに窪地の泥を全て凍結させるほどの冷気が魔猪を包む。
だが、魔猪は鬱陶しそうに体を震わせただけだ。
分厚い脂肪のお陰か、冷気に対して強い耐性を持っているようだ。
「ユウ、使うなら炎弾にしな!」
全身が濡れているので効果は薄いだろうが、効きもしない氷弾をぶち込み続けるよりはマシだ。
「術式選択! 炎弾×100!」
MP77%。
魔猪が炎に包まれ、白い煙――湯気が立ち上る。
フラン達のターンはここで終了だ。
魔猪は窪地から這い上がり、ユウのいる方を睨んだ。
攻撃を仕掛けてきたヤツが木の陰に隠れていると考えたのだろう。
「おっと、通しゃしないよ!」
「Pigiiiiiiiii!」
フランが割って入ると、魔猪は突っ込んできた。
スピードを維持したまま突き上げるような一撃を放つ。
巨体からは想像もできないスピードだが、ギリギリまで引き付けて横に躱す。
加護を得る前ならば絶対に喰らっていた。
フランは着地と同時に魔法銀の剣を振り下ろした。
「Pigiiiiiiiii!」
左の牙が地面に落ちる。
魔猪は立ち止まり、フランに突進してきた。
今度もギリギリまで引き付けて躱し、お返しに魔法銀の剣を振り下ろす。
「Pigiiiiiiiii!」
魔法銀の剣は魔猪の毛皮を切り裂き、その下にある脂肪層にまで達している。
調子に乗っちゃマズいね。ユウから少しでも引き離さないと、とフランは魔猪の背後に回り込む。
思惑通り、魔猪はフランの方に向きを変える。
「術式選択! 炎だ――」
「魔力を節約しな!」
折角、注意を逸らしたのだ。
ここで強力な一撃を放って再び注意を引かれてはたまったものではない。
「炎弾×10!」
木の陰から無数の炎が飛来し、魔猪の尻を炙る。
泥が乾いたのか、毛の焦げる嫌な臭いが周囲に漂う。
魔猪はユウの魔法を物ともせずに突っ込んできた。
先程に比べてスピードが遅い。
牙を突き上げる。
芸のないヤツだねぇ、とフランは牙を躱た。
だが、魔猪は素早く距離を詰めて牙を突き上げる。
体を捻って牙を躱し、距離を取る。
革鎧に傷が付いている。
完全に避けたつもりだったが、掠っていたらしい。
猪だから突進するしか能がないと思っていたのに連続攻撃まで仕掛けてくるとは予想外だった。
「術式選択! 炎弾×10!」
炎弾が地面に着弾し、炎が真上に噴き上がる。
だが、そこに魔猪の姿はない。
フランは吹き飛ばされ、背中から地面に叩き付けられた。
魔猪は急加速して魔法を躱し、そのついでとばかりに首を巡らせたのだ。
重量級の戦士であれば耐えられたかも知れないが、体格差があり過ぎた。
倒れているフランに魔猪が襲い掛かる。
「Pigiiiiiiiii!」
「術式選択! 炎弾×10!」
炎がフランと魔猪の間で噴き上がる。
魔猪は躊躇するかのように動きを止める。
その隙に立ち上がり、距離を取る。
なるほどねぇ、スピードに緩急を付けて目を慣れさせないようにしてるのかい、とフランは口角を吊り上げる。
突進と突き上げだけならばここまで手こずらなかった。
どれだけスピードが速かろうがそれだけなら対応できる。
けど、相手の戦い方が分かってりゃ戦いようがあるってもんだ、と唇を舐める。
「Pigiiiiiiiii!」
魔猪が突進してくる。
フランはギリギリまで引き付けて躱し、傷をなぞるように魔法銀の剣を振り下ろした。
「Giiiiiiiii!」
血がしぶき、悲鳴じみた鳴き声が上がる。
魔猪は正気を失ったように距離を詰め、牙を突き上げてくる。
フランは大きく跳び退り、余裕を持って牙を躱す。
「術式選択! 炎弾×10!」
「Pigiiiiiiiii!」
尻が炎に包まれ、魔猪は再び悲鳴じみた鳴き声を上げた。
泥は完全に乾いている。
もはや、炎を遮る物は何もない。
勝敗はすでに決したと言える。
それが分かっているのか、ジリジリと後退り、窪地を背にして立ち止まった。
そして、吠えた。
「Pi、giiiiiiii!」
強烈な衝撃波が押し寄せる。
地面を砕き、捲り上げ、フラン目掛けて一直線に突き進んでくる。
しかし、衝撃波はフランの手前で2つに割れた。
まるで見えない剣によって引き裂かれたのように。
フランは反射的に指――抗魔の指輪を見つめた。
青白く発光している。
大した力はないと思っていたのだが、申し訳なくなるような性能だ。
魔猪が突進してくる。
破れかぶれになっているのか今までにないスピードだ。
流石にこれは止めきれない。
「術式選択! 炎弾×100!」
大地が燃え上がり、魔猪は動きを止めた。
炎の壁で視界を遮られているので、魔猪が動きを止めたのが分かったと言うべきか。
フランは炎の中に飛び込み、反対側に飛び出した。
魔猪が首を巡らせ、憎々しげに睨み付けてくる。
「遅いんだよ!」
全身のバネを使って魔法銀の剣を突き出す。
狙いは脇――分厚い脂肪層の奥、肋骨が見えている所だ。
魔法銀の剣は見事に魔猪を貫いた。
「Pigiiiiiiiii!」
魔猪は悲鳴を上げ、正気を失ったように暴れ狂う。
生物は重要器官を損傷してもすぐに死んだりしないのだ。
フランは吹き飛ばされそうになりながら必死に剣を握り締めた。
ここで手を放したら確実に死ぬ。
「いい加減にくたばりな!」
刀の鍔を握り、渾身の力を込めて捻る。
それがとどめになったのか、魔猪はドッと音を立てて倒れた。
フランは魔猪が動かないのを確認し、ゆっくりと離れた。
地図のマーカーは消えていたが、念のためだ。
「フランさん、怪我はないですか?」
「お陰さんでね」
フランは駆け寄ってきたユウの肩を抱き、グシャグシャと頭を撫でた。
「凄かったです」
興奮しているのか、ユウは頬を紅潮させている。
「ユウのフォローがあったからさ」
リップサービスではなく、心からの言葉だ。
こうして欲しいと思った時に的確にフォローをくれた。
フランも同じようにできていたと思う。
ユウは魔猪に睨まれてビビってるんだろうなとか、自分なりに考えながら魔法を使ってるんだろうとか、そういうことを察しながら動けたのだ。
「解体に手間取りそうですね」
「ま、気長にやりゃいいさ」
「今日はこれで終わりですか?」
何かを感じ取ったのか、ユウはそう尋ねてきた。
「ああ、あたしらの基本方針は命大事に、だろ?」
何が意外なのか、ユウはキョトンとしている。
ユウのMPは63%――余裕はあるが、地図作成、反響定位、敵探知を同時に使っているせいで回復しない。
初めて来た場所で初めて魔猪と戦ったことを踏まえればここで切り上げるべきだ。
「分かりました」
「聞き分けのいい子は好きだよ」
軽く背中を押すと、ユウは魔猪の解体を始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
冒険者ギルドに着く頃にはすっかり日が暮れていた。
やはりと言うべきか、ユウは魔猪の解体に手間取った。
何度も巨体を転がして皮を剥ぎ、分厚い脂肪を切り裂いて魔晶石を回収する。
サイズはオーガのそれよりも少し大きめだ。
牙を根元から引き抜くのにも手間が掛かった。
下手な刃物より切れるから手で掴んでという訳にもいかない。
ナイフで歯茎をこじり、濃密な血臭にうんざりしながらやっとこさ牙を引き抜いた。
「買取を頼むよ」
「はい、承りました」
フランがカウンターにリュックを置くと、エリーは手慣れた仕草で毛皮を取り出し、動きを止めた。
「まさか、魔猪?」
「ああ、解体に苦労したよ」
魔猪退治は中堅どころ――ランク的には上の下か、中の上の冒険者がチームで挑むクエストだ。
それにしたって、返り討ちに遭うことがままあるので、フランとユウが魔猪退治したのは奇跡とまでは言わずとも大きな意味を持つ。
その証拠に冒険者達はこちらを見て、何かを話し合っている。
「私はユウ君を危険な目に遭わせたくなくて貴方に預けたんですよ?」
「手こずったらケツを捲って逃げるつもりだったさ。なあ、ユウ?」
「はい、僕達の基本方針は命大事にです」
フランが目配せすると、ユウは元気よく頷いた。
「まあ、いいですけど」
エリーはムッとした様子でリュックから牙、一角兎の角と毛皮、魔晶石を取り出すと査定を開始する。
しばらくして、エリーは500ルラをカウンターに置いた。
フランは自分の財布に500ルラをしまい、残りをユウに手渡した。
「おや、50ルラ足りないねぇ」
「……そのことなんですが、実はフランさんが育成制度を利用していることにギルド内から反発が起きていまして」
わざとらしく指摘すると、エリーは呻くような声音で言った。
「あたしがじゃなくて、ユウがだろ?」
「はい、育成制度を引き続き利用できるように粘り強く交渉したのですが……」
エリーはユウと会うために育成制度の利用を提案したので、それはもう粘り強く交渉しただろう。
「もう駆け出しじゃないってことかい?」
「その通りです」
何しろ、ユウは駆け出しと呼ぶには実績を積みすぎている。
ゴブリンの軍勢を倒し、ゴキブリ退治で指名されるようになり、大量の魔晶石まで発見している。
最終的にはフランの下に残ることを選んだとは言え、エドワードから引き抜きまで受けているのだ。
そんなユウを駆け出しと主張するのは無理がある。
フランはボリボリと頭を掻いた。
たった50ルラとは言え収入を失うのは辛いが、ここでゴネて反感を買うのは避けたい。
「う~ん、仕方がないねぇ」
「え?」
エリーはギョッとフランを見た。
「その顔は何だい?」
「いえ、フランさんなら絶対に文句を言うと思ったので」
フランは腕を組み、そっぽを向いた。
「はいはい、あたしゃ強突く張りですよ。と言うか、文句を言われたくなけりゃ事前に連絡しとくれよ」
「以後、気を付けます」
エリーは深々と頭を垂れた。
本当に反省しているか分からないが、ここで指摘しても仕方がない。
「ユウ、帰るよ」
空のリュックを背負い、出口に向かって歩き出す。
すると――。
「ユウ! 魔猪を倒すなんて凄いね!」
「うわっ!」
メアリがユウに抱きついた。
以前はこの段階でイラッときていたものだが、不思議と落ち着いている。
「はいはい、ユウにちょっかいを掛けるのはよしとくれ」
「別にフランさんには関係ないと思いますけどぉ?」
メアリは不満そうに唇を尖らせた。
「これでも、あたしがリーダーなんでね。メンバーの体調くらい気にするさ」
「……偉そうに」
メアリがボソリと呟く。
「これでも、私はユウを勧誘しているつもりなんですけど?」
「勧誘なら無駄だよ」
「そんなのやってみないと分からないと思います」
断固とした口調だ。
ユウをチームに加えれば自分達も美味しい目にあえると思っているのだから譲るはずもないか。
まあ、ちょっと前のフランも同じようなことを考えていた。
そのくせ、怒ったり、自暴自棄になったり、押し倒したりと――よくもまあ、ユウは付いて来たものだと思う。
「……あたしはダメ人間なんだと」
「は?」
「自分が見捨てたら、あたしは馬鹿なことをやって死んじまうんだとさ」
実際、馬鹿なことをやって死にそうな目に遭っているので、ユウの意見は正鵠を射ていると言える。
「だから、面倒を見てくれるんだと」
「何よ、それ」
「言ったまんまだよ。ユウはダメ人間であるあたしの面倒を見て下さってるのさ」
馬鹿にされたと考えたのか、メアリは不愉快そうに顔を顰める。
だが、本当のことなのだから仕方がない。
「なあ、ユウ?」
「そこで僕に振るんですか?」
「けど、言っただろ?」
「そりゃ、確かに言いましたけど」
ユウはモジモジしている。
「大体、そんな露骨な手でユウを引き抜こうとしなくても言ってくれりゃダンジョンくらい付き合ってやるよ。まあ、取り分が減るから指名の依頼は勘弁して欲しいけどね」
「馬鹿にして! 施しのつもり!?」
メアリはユウから離れ、フランに詰め寄った。
「……馬鹿にしたつもりはないんだけどね」
フランは頭を掻いた。
見た所、メアリは上手く稼げていないようだ。
まあ、駆け出しの冒険者はそんなもんだ。
「どうするんだい?」
「そんなの断るに……」
「よろしくお願いします」
いつの間に来ていたのか、アンがメアリの言葉を遮り、頭を垂れた。
「アン!」
「プライドよりも目先のお金を優先しましょう」
ぐぬ、とメアリは呻いた。
「お、お世話になります」
「はいはい、素直な子は好きだよ。あたしが手続きをしてくるからあんたらは明日に備えて休んどきな」
そういや、メアリのヤツは槍を持ってるのかね? とフランは首を傾げた。