Quest27:武技を習得せよ【前編】
文字数 8,125文字
夕方、優は自宅のベッドで目を覚ました。
両サイドではフランとグリンダが安らかな寝息を立てている。
自宅に戻って3度目の夕方だ。
何をしていたかと言えば愛を確かめ合っていた。
死線を越えたばかりで疲れ切っていたにもかかわらず激しく求め合った。
疲労が限界に達するまで愛し合い、目を覚ましたら覚ましたで再び疲労が限界に達するまで愛し合った。
一応、食事は摂ったが、消費カロリーの方が摂取カロリーより多かったに違いない。
生産性の欠片もない、実に爛れた3日間だった。
「……燃え尽きる寸前の蝋燭」
蝋燭の火は燃え尽きる前に強く輝く。
そんな言葉が脳裏を掠めるが、どうも的確な表現ではないように思う。
たとえばエンジンが真っ赤に焼けて爆発寸前なのにこのままの流れに沿って死のうとさらに出力を上げるような感じだった。
とにかく、とんでもない真似をしたものである。
「……お風呂の準備をしなくちゃ」
優が体を起こすと、フランが仰向けになった。
小振りながらも形のよい双球が露わになる。
ついでに認識票も。
「フランさんはどれくらいレベルが上がったんだろ?」
好奇心に負けて顔を近づける。
フラン
Lv:22 体力:10+10 筋力:10+10 敏捷:21+10 魔力:1
魔法:なし
武技:なし
スキル:××××の加護
称号:××××の××××、ゴブリン・キラー、神殺し
「+10って」
どのタイミングで+10になったのか分かれば原因が究明できるのだが、何も言わなかったので、気付いていないのかも知れない。
ステータス補正が増えたばかりか、称号まで獲得している。
「……ゴブリン・キラー、神殺し」
前者はさておき、後者は厨二心をくすぐる。
多分、神殺しの取得条件は擬神――もしくは神とその眷属を殺すことだろう。
「あれ? 武技なんて項目あったっけ?」
優は顔を離し、視界の隅にあるフランのMPを確認した。
MPを示す緑のバーの下に黄色のバーが表示されていた。
単純に考えれば武技を使うたびに黄色のバー――仮にフォース・ポイント、FPとしておく――が消費されるのだろう。
「さて、グリンダさんは?」
残念ながら彼女は仰向けになっていない。
鎖を引き、認識票を引き寄せる。
グリンダ
Lv:25 体力:6+5 筋力:6+5 敏捷:7+5 魔力:38(+**)
魔法 :魔弾、炎弾、氷弾、風弾、岩弾、睡眠、毒霧、麻痺、混乱、転移、
幻影、付与魔法、儀式魔法、炎砲、氷砲、岩砲、風砲、泥沼、土壁
スキル:鑑定、魔道具作成、言語理解【神代文字、古代文字】、××××の加護
吸魔、魔道士の叡智
称号 :××××の××××、ゴブリン・キラー
「ゴブリン・キラーの称号は当然として、フランさんだけではなく、グリンダさんにまでステータス補正が掛かるとは……」
敏捷値だけでもグリンダを超えられたと内心喜んでいたのに蓋を開けてみれば差は縮まっていないときている。
「魔道士の叡智……どんなスキルなんだろ?」
字面から察するに魔法関連のスキルに思えるが――。
まあ、考えても仕方がない。今はお風呂の準備が最優先だ。
優はベッドから下りてトランクスを穿き、フランとグリンダが風邪を引かないように毛布を掛けた。
欠伸を噛み殺しながら浴室に向かう。
廊下でスカーレットに出くわした。
何故だか、とても不機嫌そうだ。
「ようやくヤリ部屋から出てきたのね」
「ヤリ部屋じゃないよ。僕の部屋だよ」
「同じことでしょ!」
スカーレットは苛立たしげに言った。
どうやら、彼女の中では優の部屋=ヤリ部屋という図式が成り立つらしい。
訂正したかったが、納得してくれないのは火を見るより明らかだ。
「マジック・アイテムの在庫は?」
「出掛ける前に補充した分がなくなったわ」
「一気に50本も!?」
「ゴブリンの大群が出たからでしょ」
「……なるほど」
優は手の平をポンと叩いた。
「いいからさっさとお風呂に入ってきなさいよ。臭いから」
「そんなに臭いかな?」
「イカ臭いのよ! この淫獣!」
スカーレットは顔を真っ赤にして叫んだ。
「お客さんに聞こえたらどうするの?」
「もう閉店時間よ。今はベスが掃除をしてるわ」
スカーレットは腕を組み、プイッと顔を背けた。
「分かったよ」
臭いとか地味に傷付くな、と優は浴室に向かった。
脱衣所を抜けて浴室に入る。
「術式選択、水生成×100」
水柱が立ち、浴槽が水で満たされる。
「術式選択、炎弾、炎弾――」
水に手を浸け、炎弾を放つ。
何度か繰り返すと、水はお湯に変わった。
優はトランクスを脱衣所の籠に投げ入れ、掛け湯をして浴槽に入った。
「……染みる」
股間がヒリヒリと痛んだ。
少し赤くなっている。
後先考えずにハッスルしてしまったせいだが、後悔はしていない。
長い人生、1度くらいはこんなことがあってもいいのではないかと思う。
「……フランさん、積極的だったな」
どんな心境の変化があったのかいつになく積極的、いや、情熱的だった。
ようやく幸せになってもいいと思ってくれたのかも知れない。
「皆で幸せになりたいな~」
「そう、ね」
優が天井を見上げて呟くと、グリンダが浴室に入ってきた。
惜しげもなく裸身を晒している。
首筋や胸に残ったキスマークを見ていると元気が戻ってきた。
グリンダが浴室に入って身を屈めると、フランの姿が見えた。
タオルを巻いているが、恥ずかしそうに頬を赤らめている。
「フランさん、どうぞ」
「ど、どうぞ?」
何故、どうぞなのか。
自分でも分からないが、フランは首を傾げながら浴室に入ってきた。
思わず、相好が崩れる。
グリンダは豪快に肩からお湯を浴び、
「ユウ、前に出て」
「もちろんですよ」
浴槽に入る。
胸に当たる感触は優をますます元気にさせた。
「元気、ね」
「ちょっと染みます」
フランはタオルを体に巻いたまま遠慮がちに湯を浴びている。
「脱げ、ば?」
「あたしはアンタみたいに羞恥心を捨ててないんだよ」
フランはムッとしたように言った。
「都合よく使い分けるの、ね」
「……ぐ」
グリンダが言うと、フランは小さく呻いた。
「まさか、一緒にお風呂に入れる日が来ようとは」
「そう、ね」
グリンダは優を抱き締め、囁くような声音で言った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「アンタ達、馬鹿じゃないの!?」
3人して湯あたりし、フラフラの状態でリビングに入ると、スカーレットは怒った。
予想はしていたが、ものすごい剣幕で怒った。
頭から湯気が出んばかりに怒りながら冷たい豆茶を淹れてくれるのは面倒見のいい性格故だろうか。
説教に耐え、自分の席――フランは優の隣、グリンダは対面に座る。
「風呂でやるもんじゃないねぇ」
「長湯し過ぎた、わ」
フランとグリンダは気持ち良さそうにグラスを頬に当てている。
「肌がツヤツヤしてるのが、これまた腹が立つのよね」
スカーレットはぼやきながらグリンダの隣に座った。
「まあ、それはそれとしてお疲れ様」
「疲れたなんてもんじゃないよ。ゴブリンが1000匹も出てくるわ、倒したと思ったらでっかいモンスターが出てくるわ……生きた心地がしなかったね」
フランは半分ほど豆茶を飲んだ。
「あの魔剣は何処に飛んでいったのかし、ら?」
「大変だったのね」
優はスカーレットを見つめた。
あれだけの大冒険を『大変だったのね』で片付けるとは常人離れした神経をしている。
「ユウ、流されたんだよ」
「普通は信じない、わ」
なるほど、と優は豆茶を口にする。
冷えた豆茶は熱に浮かされた頭に心地良い。
確かにゴブリン1000匹と戦ったと言われても信じられるものではない。
多分、フランは実のある解答を期待していた訳ではないのだろう。
要するにぼやきたかっただけなのだ。
優は自分達の活躍を正当に評価して欲しいと思うのだが、フランとグリンダはそれを望んでいないようだ。
もう一度、グラスに口を付けたその時、カランコロンという音が聞こえた。
ベスの陽気な声がリビングにまで響く。
「いらっしゃいませ! って、久しぶりね」
「よう、ベス姐。こんな所で働いてたのか」
「……エドワードさんだ」
優は席を立ち、廊下を覗き込んだ。
ベスとエドワードは親しげに話している。
どうやら、2人は顔見知りのようだ。
「御主人様!」
「通して下さ~い」
「失礼するぜ」
エドワードは軽く手を上げ、こちらに向かってきた。
「よう、冒険者ギルドに顔を出してねーって言うから遊びに来ちまったぜ」
遊びに来ただけあり、エドワードは鎧を着ておらず、剣も腰から1本提げているだけだ。
「あたしのイスに座って」
自分の席を譲ろうと腰を浮かせたが、スカーレットが先に立ち上がった。
「悪いな」
「いいのよ。これから料理をするつもりだったから」
スカーレットがキッチンに向かうと、エドワードはイスをお誕生席と呼ばれるポジションに移動させて座った。
「で、何のようだい?」
「心配だったから様子を見にきたって言っただろ?」
エドワードはきょとんとした顔で返す。
「何かあったのか?」
「部屋に籠もってやりまくってたのよ。飽きもせずに」
スカーレットは非難がましい口調で言ったが、エドワードは平然としている。
「激戦だったからな。危機的状況下で性よ、もとい、生存本能が刺激されたんだろ。俺だってピンチを切り抜けた後はアルビダとシャーロッテと宿に引き籠もっちまうからな」
「ピンチを切り抜けた後はムラムラしちゃうのよね」
振り返ると、ベスが廊下から覗き込んでいた。
「私は宿の仕事があるから。じゃあね」
ベスは視線に気が付くと軽く手を振って立ち去った。
しばらく間を開けて、カランコロンという音が響く。
「ベンさんはソロですか?」
「あいつは家に帰って嫁さんとよろしくやってるよ」
「妻帯者だったんですね」
「子どももいるぜ。どんな攻撃も凌いでくれるのに、子どもに『大きくなったらエドワードさんみたいな勇者になる』って言われてへこんでやんの」
エドワードはイスに寄り掛かり、ゲラゲラと笑った。
酷い台詞だが、眼差しと口調は優しい。
こういう所が勇者たる所以なのだろう。
ふぅ、と息を吐いて体を起こす。
「もう帰るんですか?」
「心配で見に来たって言っただろ? それに、仲間を待たせてるからな。自分勝手に動いてると見限られちまうよ」
ハハハッ、とエドワードは笑った。
「うん、でも……」
「何か聞きたいことでもあるのか?」
「鋭いですね」
「勇者だから勘が鋭いんだよ」
そう言って、指でこめかみを叩く。
それはオツムのデキが違う的なジェスチャーなのではないかと思ったが、黙っておく。
数年後には勘が鋭いを意味するジェスチャーになるかも知れないのだ。
エドワードの草の根活動に期待したい。
「武技って何ですか?」
「武技ってのは戦士の魔法だ。もしかして、習得したのか?」
「僕じゃなくフランさんです」
エドワードはフランを見て、軽く目を見開いた。
「まさか、武技を習得できるとはな。あの時は役に立ちそうにないと思ったんだが、俺の目は節穴だったみたいだな。今からでも3人でうちのチームに来るか?」
「止めとくよ。勇者のチームに参加したら命が幾つあっても足りやしない」
「私は研究を優先したい、わ」
「じゃ、仕方がねーな」
エドワードは軽く肩を竦めた。
「けど、まあ、一緒に戦うこともあるだろうからその時はよろしく頼むぜ」
「ああ、その時は足を引っ張らないように気をつけるよ」
2人はニッと笑った。
「それで、どんな武技を習得したんだ?」
「空欄なんですよ」
「2人ともあたしを置いて話を進めないでおくれよ」
フランは抗議するように言って、懐から認識票を取り出した。
「こりゃなんだい!?」
「レベルが5上昇した他、ステータス補正が+5から+10にアップ、ゴブリン・キラーと神殺しの称号を獲得しました」
優は認識票を握り締めたままのフランを手の平で指し示した。
「私も確認してみる、わ」
グリンダは胸の間から認識票を取り出して軽く目を見開く。
「体力値、筋力値、敏捷値に+5の補正が掛かっているわ、ね。新しいスキルと称号が加わっている、わ」
「ちょっと見せてくれねーか?」
フランとグリンダはエドワードに認識票を向けた。
「……レベル22で武技の項目が追加されたのか」
「普通はどれくらいで習得できるようになるんですか?」
「俺はレベル25だった。他の連中も似たような感じだからレベル25が1つの区切りになってると思ったんだがな」
は~、とエドワードは息を吐いた。
「お前はどうなんだ?」
「こんな感じです」
「……コメントしづらいな」
優が認識票を見せると、エドワードは呻くように言った。
「基本ステータスは低いのにスキルは多いんだな」
「エドワードさんはどんな感じなんですか?」
「俺はこんな感じだよ」
エドワードは認識票を取り出すとよく見えるようにこちらに向けた。
エドワード
Lv:50 体力:40 筋力:35 敏捷:50+10 魔力:1
武技:縮地、空舞踊、闘気刃、空破斬、限界突破
魔法:なし
スキル:敏捷値上昇
称号:女誑し、ハンター、ゴブリン・キラー、プラント・ハンター、
龍殺し、神殺し
「武技を5つも習得しているの、ね。どうやって、習得した、の ?」
「一言で言うのは難しいんだが、こう、ヒュボッって感じだ」
エドワードは腕を頭の後ろに回し、ヒュボッを表現する。
「ピンクレディー?」
「誰だ?」
「昭和のアイドルですよ」
「いや、異世界のことを言われても分からねーよ」
もっともな突っ込みである。
そもそも、ピンクレディーは昭和のアイドルである。
優だって特番で見たくらいだ。
「タケル、さんとはそういう話をしなかったんですか?」
「基本的にはしなかったな。つーよりもアイツにそんな余裕がなかったからな」
エドワードは溜息を吐くように言った。
「余裕がない?」
「詳しい説明は省くが、アイツは仲間と一緒にこの世界に召喚されたらしいんだが、仲間が殆ど死んでるんだよ。生き残ったのはタケルを含めて3人だけ、内1人は裏切り者だからな」
「……壮絶ですね」
自分がダンジョンでオーガに殺されそうになったことを思えば3人、いや、2人生き残っただけでも幸運だったという気はする。
もっとも、それは生き残った者にとって何の慰めにもならないだろうが。
「だからなのか、タケルはスゲー暗いし、いつも苛々してる。これは忠告なんだが、アイツを見つけても近づかねー方がいいぜ」
「そんないつも苛々している人になんて近づきませんよ」
頼まれても御免だ。
「まあ、俺としてはもうちょい気楽に生きて欲しいんだがな」
「それは難しいですよ」
何しろ、仲間が死んでいる上に裏切りも受けているのだ。
自分を責めたり、復讐に走ったりしても仕方がないと思う。
「なくしたもんを……いや、ここでぐだぐだ言っても意味ねーな」
「そのことを伝えたりは?」
「聞く耳を持たねーって感じだ」
エドワードは深々と溜息を吐いた。
何だかんだと言いながらタケルのことを心配しているようである。
「っと、話が逸れたな。武技は、こう、突然、部品が組み合うみたいな感じで使えるようになるんだよ」
そう言って、エドワードは再びピンクレディーになった。
UFOである。
「教えてくれる人はいないんですか?」
「ん~、そういうのを伝えてる流派もあるって聞くけどな」
そうですか、と優は肩を落とした。
「なんで、お前が落ち込むんだよ?」
「フランさんの必殺技を見てみたかったんですよ」
う~ん、とエドワードは唸り、頭を掻いた。
「教えられるものなのか分からねーが、俺でよければ教えてやろうか?」
「いいんですか?」
「ああ、侮った謝罪ってことで。受け取ってくれるか?」
「もちろんですよ! ね、フランさん!」
「あ、ああ」
どうも歯切れが悪い。
「どうかしたんですか?」
「何と言うか、トントン拍子に話が進むと、警戒心が先に立っちまってね」
「ごめんなさ、い。彼女は過酷な経験して人間がダメになっているの、よ」
フランがぼやくように言うと、グリンダがフォローと言えなくもないことを言った。
「いや、気にしちゃいねーよ。こんな稼業だからな。旨い話を聞いたら警戒するくらいで丁度いいと思うぜ」
エドワードは立ち上がり、リビングを出る直前に振り返った。
「水薬を買って行きたいんだが、いくらだ?」
「1本300ルラ、よ」
そう言って、グリンダが立ち上がる。
「アルビダさんがいるのに水薬を買うんですね」
「回復魔法はできるだけ温存したいからな」
「行きましょ、う」
「明日の朝、迎えに来るぜ」
そう言い残して、エドワードはグリンダと一緒にリビングから出て行った。
「武技が覚えられるといいですね?」
「ああ、そうだね」
フランは頬杖を突きながら答えた。
「……警戒心が先に立ってる訳じゃなさそうですね」
「どうも強くなることに前向きになれないんだよ」
まあ、借金を返すために冒険者になったという経緯を考えればそうかも知れない。
強くなりたいという気持ちがそんなに強くないのだ。
「……僕は」
うん? とフランは顔を上げた。
「今回の件で2人も死なせてしまいました」
「それは違うだろ」
フランは頬杖を突くのを止め、険しい目で睨み付けてきた。
「エドワードさんは犠牲を2人に留めたと言ってくれましたけど、でも、やっぱり、僕は2人も死なせてしまったんだと思います」
優は豆茶を飲み、グラスを見下ろした。
「努力をしても自分の望む結果を得られなければもっと努力をしておけばと思ってしまうんでしょうけど、何もしないで後悔するよりマシだと思うんです」
「それじゃキリがないだろ」
「はい、キリがないです」
「ユウは英雄にでもなるつもりかい?」
「とことん突き詰めれば自分のためって気がします。どのみち後悔するのなら後悔は小さい方がいいと思いませんか?」
「後悔が前提かい。ユウらしいって言えばらしいね」
「神様じゃありませんからね」
叶うならば全てを救いたいが、全てを救うことはできない。
そんなことが分かっているくせに割り切る自信がない。
「中途半端に力を持ってしまった者の業ってヤツですよ」
「業ね。小難しいことを言うもんだ」
「本来の意味とは違いますけどね」
業とは前世の悪行という意味の仏教用語だったように思う。
優のそれは自分で罪だと認識をしていながら法律で裁かれることのない行為だ。
「何だかんだ言って、僕には優先順位があるので、割り切れると思うんですけど、フランさんはそうじゃないんじゃないかなって思うんです」
「……」
フランは無言だ。
「ユウはその気にさせるのが上手いねぇ」
「付き合いが長くなってきましたからね」
「ま、最後まで付き合うって決めたんだ。全員で幸せになれるように気張らなきゃね」
フランは自分に気合を入れるように頬を叩いた。