Quest21:魔道士をチームに加えよ その4
文字数 8,689文字
◆◇◆◇◆◇◆◇
優はタオルを肩に掛け、洗面所から出た。
久しぶりのお風呂だったせいか、長湯をしてしまった。
ダイニングキッチンから美味しそうな匂いが漂ってくる。
優はその匂いに引き寄せられるようにダイニングキッチンを覗き込んだ。
料理中かと思ったが、フランはイスに座っていた。
当たり前のことだが、普段着に着替えている。
デニムのような生地のズボンと黒いシャツを着ている。
「上がったのかい?」
「ええ、いいお湯でしたよ。フランさんも入ってきたらどうですか?」
「あたしは最後でいいよ」
「じゃあ、グリンダさんに声を掛けてきます」
優はグリンダの部屋の前に移動し、扉をノックした。
しばらくすると、グリンダが扉を開けた。
「お風呂、どうぞ」
「分かった、わ」
扉が閉まり、中からカサカサという音が聞こえてきた。
紙袋から下着とパジャマを取り出しているのだろう。
流石に出てくるまで待っていたら警戒されるので、ダイニングキッチンに戻る。
「ユウ、お茶に付き合っとくれよ」
そう言いながらフランの対面の席には陶製のカップが置いてある。
どうやら、付き合うのは決定事項らしい。
優は席に座り、カップを見下ろした。
淹れたばかりなのか、湯気が立っている。
「バーソロミューさんはお茶まで用意してくれたんですか?」
「馬鹿なことを言ってるんじゃないよ。あたしが買ったに決まってるだろ」
フランは口元にカップを運び、静かに口を付ける。
1度だけ喉を上下させ、テーブルにカップを置いた。
普段――安宿で食事をしている時に比べて表情が柔らかい。
「何を見てるんだい?」
茶化すように笑う。
「いえ、こういうの初めてだなって」
「初めて? いつも一緒に食事をしてただろ?」
「一緒に食事はしてましたけど、あれって仕事の打ち合わせみたいな所があったじゃないですか」
「言われてみればそうだね」
フランは小さく息を吐いた。
「同棲の感想はどうですか?」
「同居だろ、同居」
まあ、とフランは頬杖を突いた。
「悪かないよ」
「フリフリのカーテンを注文したり、お茶を買ってきたり、悪くないどころか、ノリノリだと思いますけど」
「……アンタってヤツは」
そう言って、苦笑いを浮かべる。
「今の所は楽しいよ。料理をするなんて二度とないと思ってたからね」
「フランさんって、そういうの多いですね」
過酷な生活からか、彼女は人並みの幸せを求めてはいけないと考えている節がある。
「そういうユウは無神経にズカズカと踏み込んでくるね」
「気を遣ってたら何もできませんから」
「あたしの意見は無視かい」
フランは拗ねたように唇を尖らせた。
「結構、僕が考えるフランさんの幸せとフランさんが考える幸せって一致してると思いますよ?」
「そうかい、読心術師。だったら、あたしが何を考えてるか当ててみなよ」
「今は楽しい生活がいつまで続くんだろうって不安に感じてますね」
予想が当たったのか、フランは大きく目を見開いた。
今は楽しいと言っていたのだから、これくらい簡単に予想できる。
「フランさんって、家庭的なものに対する憧れが強いですよね? でも、自分から一歩踏み出すのに凄く臆病です」
多分、それは両親の死と無関係ではないだろう。
「押しに弱いのはそこが妥協点だからですよね?」
「……」
フランは押し黙った。
自分から幸せを求めなくても、押し付けられたものならば渋々というスタンスを取ることができる。
「ガキが知ったような口を利くねぇ」
「子どもでも分かることはあります」
優は立ち上がり、フランに歩み寄った。
「『祇園精舎の鐘の声』です」
「何だい、そりゃ?」
「平家物語の冒頭です。この後、色々と続くんですけど、要するに変わらないものは何もないよってことです」
顔を近づけると、恥ずかしいのか、フランは頬を朱に染めて視線を逸らした。
キッチンから鍋が吹きこぼれる音が響く。
フランは立ち上がろうとしたが、優は軽く肩に触れた。
「何のつもりだい?」
「いえ、キスでもしようかと」
「それくらいしてやっただろ?」
「ベッド以外ではしてません」
抵抗されるかと思ったが、唇はすんなりと重なった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「上がった、わ」
「ったく、アンタってヤツは」
グリンダがダイニングキッチンに入ってくると、フランは呻くように言った。
「自分の欲望に素直すぎるだろ」
「結構、気に入っている、わ」
そう言って、グリンダはその場で一回転した。
彼女が着ているのは黒いキャミソールとホットパンツだ。
黒いキャミソールは胸で押し上げられているためにへそが丸見えになっている。
我ながら素晴らしいチョイスだ。
だが、だがしかし、特別に注文している寝間着を見たら、ビックリしてくれるだろう。
「まあ、ユウの金だからいいけどね」
ぼやくように言って、キッチンに向かう。
しばらくすると、食器の触れ合う音が聞こえてきた。
「さぁ、飯の時間だよ!」
フランは戻ってくると、テーブルに料理を並べた。
メニューはサラダ、肉と野菜の塩スープ、ベーコンエッグ、バターたっぷりのトースト、豆茶だ。
「いただきます」
「知恵の神よ、今日の糧を恵んで下さり、感謝しま、す」
グリンダは手を合わせて祈りを捧げる。
「どうしたんだい?」
「食事の時に祈りを捧げている人を初めて見たので」
フランはイスに座り、小さく千切ったトーストを頬張った。
「まあ、安宿や冒険者ギルドで祈りを捧げてるヤツは滅多にいないね」
「フランさんはどんな神様を信仰しているんですか?」
「あたしは……と言うか、あたしが住んでた村は地母神を信仰してたけどね」
優は野菜スープを口に運んだ。
肉と野菜が大きめにカットされている。
素朴な味わいだが、美味しい。
「どうだい?」
「美味しいですよ」
「そうかい」
フランは照れ臭そうに笑った。
「どうして、地母神の信者だって言わないんですか?」
「昔、ダンジョンを殺せば地母神が復活するってヤツらがいてね」
「復活するんですか?」
「さあ、ね。復活するかも知れないし、しないかも知れない」
「無謀ですね」
ダンジョンを殺して地母神が復活するのならばいいが、復活しなければ街、下手をすれば国が滅びる。
「だから、その一派は徹底的に弾圧されたの、よ」
「当然ですよ」
自分達の命だけならまだしも、他人の命まで勝手にベットするギャンブラーは殺されても文句を言えない。
「そう言う訳で普通に地母神を信仰しているだけでもちょっとした嫌がらせを受けるようになったのさ」
ちょっとした嫌がらせで済んだのは地母神を信仰している人々が農業に従事していることも無関係ではないだろう。
「ところで、今後の予定はどうしますか?」
「ダンジョンを探索したいけど、どうなるか分からないからね」
言葉足らずだが、グリンダがフランと同じように加護を得られるのか気にしているのだろう。
「明日は水薬の材料を取りに行きたい、わ」
「そいつは無理だと思うけどね」
「どうし、て?」
グリンダは不思議そうに首を傾げた。
「まあ、自分で体験すりゃ分かるよ」
「加護を得るには負担が掛かるのかし、ら?」
「自分で確かめな」
フランは痛い目に遭ってしまえと言わんばかりに笑っている。
「ということは明日はオフですかね?」
「ダンジョンを探索した訳でもないのにオフってのは気が引けるねぇ」
「明日はフランがすればいい、わ」
フランはグリンダを見つめた。
「するって何を?」
「魔力の補充、よ。少しだけ魔力の匂いが弱まっている、わ」
「4日目だよ? あと3日は大丈夫さ」
3日は大丈夫ということは加護によるパラメーターアップは7日しか保たないということか。
「定期的に補給すれば一気に下がることはないと思う、わ」
「期待に目を輝かせてるんじゃないよ」
「輝いてましたか?」
「鏡を見せてやりたいくらいだよ」
フランがそういうからにはそうなのだろう。
「しかし、朝からするのは不健全なのではないでしょうか?」
「朝からやるつもりかい!」
「いえ、夕方からかも知れません」
フランと初めてした時は翌日の昼まで、2回目は明け方までしたのだ。
「はっ、そんな体力残ってる訳ないだろ」
「ふふふ、僕は体力値限界突破の男ですよ」
全く自信はないが、不敵に笑っておく。
「できるだけ多くのデータが欲しい、わ。チーム登録していない場合でも加護を獲得できるのかし、ら?」
「そういうのは勘弁して欲しいね」
フランはうんざりしたように言った。
「大事なこと、よ?」
「不特定多数の女とやりまくって病気を移されたらどうするんだい? あたしらにも移っちまうよ」
「……そう、ね」
グリンダはしばらく考えた後で同意した。
エッチな話をしているはずなのに艶っぽさがないのは何故なんだろうか。
優はそんなことを考えつつ、料理を食べた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……グリンダさん、来ないな」
優はベッドに横たわって呟いた。
元の世界には幾らでも暇潰しの手段があるのだが、この世界では限られている。
食器を洗い、洗濯物を干し、リビングで豆茶を飲みながら話し合う。
そこまでやっても時間は余る。
「……楽しかったな」
家族ではないけれど、久しぶりの団欒だ。
異世界に転移することがなければ今もあんな風に家族と過ごせたはずだ。
しかし、その機会は二度と巡ってこない。
永遠に失われてしまった。
視界が涙で滲んだその時、扉をノックする音が響いた。
「は~い、すぐ開けます」
「来た、わ」
扉を開けると、グリンダが立っていた。
「どうぞ、どうぞ」
「お邪魔する、わ」
グリンダが部屋に入ったので、扉を閉める。
ドキドキする。
こんなに綺麗な女性を抱いてしまっていいのだろうか。
いや、合意の上だから問題ない。
スキル獲得が目的なので、少し複雑な気分だが、ここは役得と割り切ろう。
きっと、ラノベやマンガの主人公なら自分を大切にしろと諭したりするのだろう。
だが、優は違う。
このチャンスを逃すつもりはない。
問題は前回、前々回とフランにリードされたせいで経験が足りていないことだ。
経験の足りない小僧に処女の相手が務まるだろうか。
「一緒にステップアップすれば問題ないはず!」
優は勢いよく振り返り、凍りついた。
グリンダはベッドでM字開脚をしていた。
下腹部にはフランと同じ紋様が浮かんでいる。
「早く済ませ、て」
「……」
役得じゃない上、一緒にステップアップする気がなさそうだった。
辛い。何が辛いかと言えばスキル獲得のためと割り切られている所が辛い。
「グリンダさん、僕のことを好きですか?」
「好き、よ」
どうやら、グリンダは優のことをあまり好きではないようだ。
それにしてもマグロはないのではないだろうか。
「グリンダさん、僕らが何をするか分かってますか?」
「もちろん、よ。実験動物を自分で繁殖させていたか、ら」
男女の営みについて経験に基づいた知識を持っていないということか。
彼女の望むようにしてもいいような気もするが――。
「グリンダさん、体を起こして下さい」
「分かった、わ」
優はベッドに上がり、グリンダの後ろに座った。
「どうした、の?」
「色々と試したいことがありまして」
キャミソールの下から手を入れて胸を触る。
「……柔らかい」
思わず呟く。重量感がありながらマシュマロ、いや、それ以上の柔らかさだ。
力を込めれば何処までも沈みそうな気さえする。
「どうし、て?」
「気持ちよくないですか?」
「分からない、わ」
円を描くように揉む。
「それにしても……」
立派な胸という言葉を呑み込む。
「うん、立派な胸ですね」
「それは誉め言葉な、の?」
「ええ、立派な胸というのは誉め言葉ですよ」
「そ、そう」
グリンダが上擦った声で応じる。
「グリンダさんの初めての人になれるなんて光栄です」
「どうし、て?」
「そりゃあ、グリンダさんが美人だからです。喜ばない男なんていませんよ。でも、他の人とは止めて下さいね。僕が嫉妬します」
「……」
グリンダは答えない。
ふと首筋を見ると、仄かに紅潮している。
どうやら、誉め言葉に弱いようだ。
もしかしたら、あまり誉められたことがないのかも知れない。
「魔道士になった理由を教えてもらえませんか?」
「どうし、て?」
「グリンダさんのことなら何でも知っておきたいんです」
「魔道士ギルドのギルドマスターに拾われたの、よ」
グリンダはゆっくりと語り始めた。
何でも彼女は王都ヘカテボルスの平民として生まれたらしい。
両親の職業はよく覚えていないそうだ。
と言うのも、彼女が幼い頃に死んでしまったからだ。
その後、親戚の家で数年を過ごした。
その親戚は鬼畜ではなかったが、彼女を使用人のように扱った。
10歳の時、彼女に転機が訪れる。
魔道士ギルドのギルドマスターに魔道士の素質を見出されたのだ。
それから彼女は死に物狂いで努力した。
立派な魔道士にならなければ捨てられると思ったからだ。
しかし、ギルドマスターの人となりに触れ、彼をサポートできるような魔道士になろうと決意した。
彼女が頭角を現すようになると、ギルドのメンバーから有形無形の嫌がらせを受けるようになった。
最初は苦痛に感じたが、彼らはそういう生き物なのだと無視するようになり、孤独を深めていった。
2度目の転機は2年前に訪れた。
ギルドマスターが派閥抗争に敗れ――正確には巻き返しを図ろうとして開発した魔法で多数の死者を出して失脚したのだ。
こうして、彼女はヘカティアに魔道士ギルドの支部長として派遣され、論文を提出できずに地位を失った。
「グリンダさんは立派ですね」
「そんなことない、わ」
「立派ですよ。何もない所から魔道士になったんですから」
「ギルドマスターの後ろ盾があった、わ」
「努力したのはグリンダさんじゃないですか」
短期間で頭角を現せたのは才能があったからだろう。
だが、才能があっても磨かなければ意味がないし、それ以前に努力をしなければ才能の有無は分からない。
「ギルドに残る方法はなかったんですか?」
「王都の本部で雑用をしろと言われた、わ。それだとモットーを全うできないも、の」
「グリンダさんは何をしたいんですか?」
「モットーを全うするだけ、よ」
大衆のために魔法を使いたいということか。
「具体的には?」
「……自分の店を開きたいと考えている、わ」
グリンダは少し間を置いて答えた。
「そうですか。だったら、仲間として協力します」
「ありがと、う」
「ただ、1つだけ約束して下さい」
「何、を?」
「きちんと理念を貫いて下さい」
「貫いている、わ」
「グリンダさんはそのつもりかも知れませんが、きちんとお客さんのことを見ているのか心配なんですよ」
たとえば仮想詠唱の魔法だ。
誰でも魔法を使えるようになる。
便利な魔法だが、命を懸けて魔法を身に付けたいと考える者がどれほどいるだろう。
命を懸けさせるくらいならマジックアイテムを安価に製造できる方法を考えるべきではないだろうか。
『魔道士よ、大衆のためにあれ』なんて理念を掲げておきながら自分の派閥のために行動してしまったから魔道士ギルドのギルドマスターは失脚したのだろう。
世の中に本音と建て前が存在するのは当たり前だし、どんな行動だって究極的には自分のためだ。
しかし、理念を――理想を掲げる者はその理想に殉じなければならない。
派閥の長ならば尚更だ。
グリンダは『魔道士よ、大衆のためにあれ』と唱えるのではなく、どんな店にしたいのかを考えるべきだ。
そうしなければギルドマスターと同じ失敗をするだろう。
「……きちんと見ている、わ」
「なら、安心ですね」
正直に言えば少しだけ不安だが、道を踏み外しそうになったら、その都度、指摘すればいいだろう。
「そろそろ、いいですか?」
「構わない、わ」
グリンダがベッドに横たわり、優は覆い被さった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
唸り声が聞こえる。猫が縄張り争いでもしているのだろうか。
猫嫌いと言う訳ではないのだが、家の近くに通り道があるのは勘弁して欲しい。
それにしても何処で鳴いているのだろうか。
かなり近くで鳴いているのは分かる。
いつの間に仰向けになったのだろう。
天井が見える。
彼の部屋に来てからどれくらい時間が過ぎたのだろう。
数分しか過ぎていないような気もするし、何日も過ぎているような気もする。
「……甘い、わ」
甘い匂いが脳を痺れさせる。魔道士は魔力を感知する能力を持っている。
いや、魔力を感知する能力がなければ魔道士になれないというべきだろうか。
感知能力は人によって異なるが、五感――視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のいずれかで感知する。
グリンダの場合は嗅覚だ。魔力を甘い匂いとして感知する。
そのはずなのに味覚でも魔力を感知している。
目で、耳で、鼻で、舌で、体で魔力を感知する。
膨大な魔力によって体を作り替えられている。
これは儀式なのだ、と蕩けた頭で考える。
だが、そんなことはどうでもいい。
どうでもよくなっていた。
「ユウ……好き、よ」
「僕も好きですよ」
そこで彼に好意を抱いていることに気付いた。
元々、好意はあった。
しかし、その好意は人間に対するものではない。
強いて言えば使い慣れた道具に対する愛着に似ている。
要するに好きでもなんでもなかったのだ。
今は違う。
彼に好意を抱いている。
男として愛している。
「ユウ、愛してる、わ」
グリンダはユウの耳元で囁いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ~、よく寝た」
優は体を起こし、大きな欠伸をした。
ふと隣を見ると、グリンダが安らかな寝息を立てている。
「それにしても……」
優は昨夜のグリンダを思い出し、だらしない笑みを浮かべた。
「ちゃんとスキルを獲得できたかな?」
認識票を確認する。
グリンダ
Lv:20 体力:6 筋力:6 敏捷:6 魔力:35(+**)
魔法:魔弾、炎弾、氷弾、風弾、岩弾、睡眠、毒霧、麻痺、混乱、転移、
幻影、付与魔法、儀式魔法
スキル:鑑定、魔道具作成、言語理解【神代文字、古代文字】、××××の加護
称号 :××××の××××
「魔力値だけがプラスされてる」
一体、どれくらい魔力がアップしているのか確かめなければならない。
多分、一次方程式を使えば正確な魔力値を導き出せるはずだ。
「フランさんは起きてるかな」
優は認識票を元の位置に戻し、ベッドから下りた。
もちろん、パンツとズボンは穿かなければなるまい。
廊下に出ると、美味しそうな匂いが漂っていた。
その匂いに引き寄せられるようにダイニングキッチンに入る。
フランは一人寂しく食事を摂っていた。
「おはようございます」
「いいご身分だね。もう昼だよ」
挨拶をすると、皮肉を返されてしまった。
嫉妬してるのかな? と頭を掻きつつ、対面の席に座る。
「首尾はどうだい?」
「スキルを獲得して、パラメーターが上がってました。ただ、上がっているのが魔力値だけだったんですよ」
多分、戦士タイプか、魔道士タイプかで上昇するパラメーターが変わるのだろう。
「フランさん、寝不足気味ですか?」
「誰のせいだと思ってるんだい」
フランは舌打ちをすると残っていた料理を頬張った。
空になった皿を手に取り、荒々しい足取りでキッチンに向かう。
優はフランに忍び寄り、皿を流しに置くと同時に背後から抱き締めた。
「ねぇ、フランさん」
「甘えた声を出してるんじゃない――ッ!」
フランが体を強張らせた。
「朝までやってたくせにバケモノかい」
「約束を守って下さい」
「そんな約束をした覚えはないよ」
「あと2日も我慢できるんですか?」
耳元で囁くと、フランは息を呑んだ。
単にカマを掛けただけなのだが、面白いくらい反応してくれた。
「ねぇ、フランさん」
「もう分かったよ!」
フランは激昂したように叫んだ。
「じゃ、フランさんの部屋に」
「ちょいと待ちな。あたしのベッドは使わせないよ」
「でも、空き部屋を使うのはアレですし」
ダイニングキッチン、リビング、倉庫はダメだ。
「……お風呂ですか」
「風呂だね」
優はフランの手を引き、風呂に向かった。
この日、優はステータスが下がる前に魔力を補給すれば歯止めが利くことを知った。