シュガーとスパイス (1)

文字数 970文字

 この世界にも学園祭というものがある。そして賑わう。

 アリアたちの高校はインターナショナルならぬインターレイシャル(多種族混合)スクールなのだが、制服があり、「ヒューマノイド型ボディに整えて通学すること」という校則もあるので、ふだんの授業中はどの生徒が水霊族(ナイアード)天馬族(ペガサス)かなどということはわからない。
 まあ、しばらく見ていればわかるのだけどね。樹霊族(ドリュアード)はたいてい窓際に座って光合成をしたがるし、土霊族(ノーム)は逆に廊下側や後ろの席が好きだ。こっそり机に何か彫ったりしている。うん、君、それじつは教壇からばっちり見えてるよ。先生は知ってて見逃してるだけだ。

 ちなみにここには龍族(ドラゴン)はいない。別格で、絶滅危惧種でもある彼らは、名家の子弟だけが入れるお嬢さまお坊ちゃま学校の敷地からめったに外には出てこない。
 うわさによると、そこでは朝も昼も別れぎわも「ごきげんよう」というあいさつが交わされているのだそうだ。

 それはさておき。

 学園祭のあいだは無礼講だ。私服OK。このときばかりは一角獣(ユニコーン)たちも堂々と角を出していい。樹霊(ドリュアード)たちは地毛の緑や紅の髪をふりたてて登校する。淡水霊(ナイアード)海水霊(ネレイド)は……さすがに全裸はまずいということで、結果として彼らがいちばんふだんと変わらない格好だ。
 だから、波多野アリアはちょっぴり不満気なのである。

 水系の生徒たちからの「下半身に金粉かスパンコールを付けてもだめですか」という嘆願書は、毎年提出されては却下されている。多文化尊重をかかげているんじゃなかったんですかと抗議しても、郷に入っては郷に従えと諭されてしまうのだ。
 水系の子には美形が多いこともあって、学外からの来訪者にはあまりに刺激が強すぎる。教員サイドだって頭を抱えているのだ。学年主任に水族の教諭が就いた年には、許可するしないで前夜祭ぎりぎりまで激論が続く。

 今年もスパンコールは却下で、しかもアリアたちのクラスは喫茶店をやることになって、アリアはメイド服を着せられて、借りものだから胸まわりがとってもきつい。
 寄せて上げるって何の意味があるの、と、あらゆる意味で天然なアリアは思う。
 でも手ブラじゃお盆が持てないでしょとクラスメートに言われ、納得したりしている。

 この回ではもっとすごく大変な話をしなくちゃならないのに、アリアの爆乳のせいでなかなか先へ進めない作者なんである。
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登場人物紹介

波多野静/アリア(はたのしずか/ありあ)


この物語のヒロイン。明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳。惚れっぽいのが玉にキズ。海霊族(ネレイド)。

波多野遥/ミランダ(はたのはるか/みらんだ)


アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。海霊族(ネレイド)。

水原九郎義経/クロード(みずはらくろうよしつね/くろーど)


アリアの同級生。小柄だが学年一の美貌で、すでに女子の半数は陥落させている(推定)。身体能力、とくに跳躍力に優れ、お気楽な言動で周囲をふりまわす。ベンジャミンたちから「御曹司」と呼ばれている。樹霊族(ドリュアード)。

武蔵弁慶/ベンジャミン(むさしべんけい/べんじゃみん)


アリアの同級生。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。人馬族(ケンタウロス)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)


アリアの同学年生(クラスは違う)。長身で俊足だが、内気で目立つのが苦手。極端な無口。女子に対する耐性ゼロ。水狐(ウォーターフォックス)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)


クリストフの兄。容貌・性格・身体能力ともにクリストフとよく似ている。ただし左肩から右脇腹にかけて貫通創あり(一度死亡)。火狐(ファイアーフォックス)。

平野知盛/ヴァレンティン(ひらのとももり/ばれんてぃん)


平野一族の若き当主。物腰柔らか、文武両道の公達(きんだち)。現在はアリア姉妹の実家に客人として身を寄せる。クロードとは因縁の仲。樹霊族(ドリュアード)。

水原由良頼朝/カミーユ(みずはらゆらよりとも/かみーゆ)


クロードの異母姉。アリアやクロードたちとは別の全寮制高校に学ぶ。男装して生活している。頭脳明晰、真面目で誠実だが、男心も女心もまったく解さないのが玉にキズ。樹霊族(ドリュアード)。

北条政人/オーギュスト(ほうじょうまさと/おーぎゅすと)


カミーユの同級生。寮では隣室。そつのない完璧な優等生。影となり日陰となり(?)カミーユを支えるが、いまだに友達以上恋人未満の生殺しポジションに置かれている。水霊族(ナイアード)。

梶原源太景季/エドガー(かじわらげんたかげすえ/えどがー)


カミーユの同級生。佐々木エドマンドと血縁者ではない。橇犬族(ハスキー)。

佐々木四郎高綱/エドマンド(ささきしろうたかつな/えどまんど)


カミーユの同級生。梶原エドガーと血縁者ではない。橇犬族(ハスキー)。

遠藤盛遠/文覚/バルタザール(えんどうもりとお/もんがく/ばるたざーる)


カミーユとは中学時代からの先輩後輩の仲。アリアとミランダとは江ノ電の中で知り合う。荒海を一喝して静める法力の持ち主。性格は豪快で、人情に厚い。水霊族(ナイアード)。

土佐昌俊/ジョバンニ(とさしょうしゅん/じょばんに)


ベンジャミンのかつての修行仲間。その後カミーユに仕えていたはずだったが……。土霊族(ノーム)。

後白河雅仁/ローレンス(ごしらかわまさひと/ろーれんす)


法皇。この国の権力構造の最高位にありながら、一見ひょうひょうとした異端児の風貌を持つ。が、その本心は未知数。バルタザールとは那智の滝での修行仲間。龍族(ドラゴン)。

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