お熱いのがお好き (14)
文字数 666文字
コンビニに入って。
ペプシ生? なにそれ。買ってみようかな?
なんて思って、冷蔵コーナーを二度見したら。
ずっと奥まで――はるか彼方まで、鳥居が並んでいたら、どうしますか。
真っ赤な鳥居だ。
それが無数に。無限の彼方へ。
「兄者」
固い声で、佐藤四郎クリストフは、雑誌コーナーで立ち読みをしている佐藤三郎フロリアンを呼んだ。
ふり返った兄。
たぶん、あれと同じ表情がいま、おれの顔にも浮かんでいる。
(これ……)
(行く? 行かない? 行かなくない?)
茫然と立ちつくす二人の脳内に、武蔵ベンジャミンの声が響いたのはそのときだ。それも、悲鳴に近い。
〈三郎四郎!〉
考えるより前に、体が動いた。
土曜、午後二時。
とあるコンビニエンスストアで、男子高校生が二人ペプシ生の棚に消えたことに、誰も気づかない。
「くそっ……」
閉まりかけたエレベーターのドアに無理やりねじこむように、ベンジャミンもまた図書館の天井に開いた虚数空間にかろうじて巨体をねじこんだ。
こちらはよりによって頭上に開いたのだ。跳躍は彼の得意とするわざではない。
息をはずませながらあたりを見まわしたとき、すでに水原クロードの姿が影も形もなかったとしても、無理はない。
(ああっもう! 悪い予感しかない!)
途方にくれて、それでも真っ赤な鳥居のトンネルを走り出しながら、われらがベンジャミンは強く、悲痛に念じた。
〈三郎四郎、頼むから御曹司に追いついてくれ。おれはもうやってられない!!〉
赤、赤、赤。まがまがしい、いや、神々しいばかりの朱の道だ。