愛されたいの (1)

文字数 960文字

「ごめんなさい! あたしまたやらかしちゃった」
 アリアは半泣きでおたおたしている。
「ちがう、アリアちゃんのせいじゃない」岩を飛び下り、バルタザールは二、三歩でアリアに駆け寄った。「まちがって渡したのおれだし、だいたいおれのシールドが甘かった。中であんまり反響してもと思って弱めに設定してたのが裏目に出た」
「だけど変だよ」ミランダは息をはずませつつも冷静だ。「バル兄、あたしたちが二人そろって打たないとそんなに大技にはならないって言ったじゃない」
「そうだな」
「他に原因があるんじゃない? 何か、他に」

「例えば?」アリアの声はふるえる。

「確かにそうだ」バルタザールは乾いた唇をなめた。「ここが――」耳を澄ましている。「ここが震源地になってない。なってたらとっくに誰か到着してるはずだ」

 彼が飛び下りた岩を、三人でふり返る。
 岩をえぐったように直径1メートルほどの小さめの穴が空き、そこから真っ赤な鳥居の列が見える。

「こういうことじゃないかな」とバルタザール。「もともと帯電していた所が近くにあった、もっとハイポテンシャルで。そこにおれらが刺激を与えちゃって」
「通電したんだ」
「たぶん」
「誰、そのハイポテンシャル」
「わからん」
「行ったほうがいいと思う? あたしたちも」
「わからん」じんわりと揺らいでいる赤の入り口をにらみながら言う。「関わらないほうがいいかもしれない。けど」
「あたしは責任を感じる」とミランダ。
「あたしも」といそいでアリア。てか、あたしが悪いよ!

「行ってくる」ミランダはすばやく腰をかがめて体を岩の中へすべりこませた。「アリちゃんはバル兄と待ってて」
「やだ、あたしも行く」
「二人で先に行って」バルタザールが叫ぶ。「たぶんそのほうがいい。おれはここの始末をしてすぐ追いかける」
「わかった。アリちゃん行こう」
 しなやかな姉の手が汗で冷たい。

 バルタザールが十字を切ってシールドを解除しているあいだに、姉妹の姿は消えた。岩に開かれた入り口もゆっくりと薄れていく。
「おい」
 男は岩に飛びかかって両手の指をめりこませると、ぐわっと力まかせに押し開きながら怒声をはなった。
「開けろゴルア!」

 びびった時空間がもう一度ぱっと開き、彼を通したことは言うまでもない。
 恐るべし文覚。

 あとには、ひんやりした岩肌だけが残っている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

波多野静/アリア(はたのしずか/ありあ)


この物語のヒロイン。明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳。惚れっぽいのが玉にキズ。海霊族(ネレイド)。

波多野遥/ミランダ(はたのはるか/みらんだ)


アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。海霊族(ネレイド)。

水原九郎義経/クロード(みずはらくろうよしつね/くろーど)


アリアの同級生。小柄だが学年一の美貌で、すでに女子の半数は陥落させている(推定)。身体能力、とくに跳躍力に優れ、お気楽な言動で周囲をふりまわす。ベンジャミンたちから「御曹司」と呼ばれている。樹霊族(ドリュアード)。

武蔵弁慶/ベンジャミン(むさしべんけい/べんじゃみん)


アリアの同級生。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。人馬族(ケンタウロス)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)


アリアの同学年生(クラスは違う)。長身で俊足だが、内気で目立つのが苦手。極端な無口。女子に対する耐性ゼロ。水狐(ウォーターフォックス)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)


クリストフの兄。容貌・性格・身体能力ともにクリストフとよく似ている。ただし左肩から右脇腹にかけて貫通創あり(一度死亡)。火狐(ファイアーフォックス)。

平野知盛/ヴァレンティン(ひらのとももり/ばれんてぃん)


平野一族の若き当主。物腰柔らか、文武両道の公達(きんだち)。現在はアリア姉妹の実家に客人として身を寄せる。クロードとは因縁の仲。樹霊族(ドリュアード)。

水原由良頼朝/カミーユ(みずはらゆらよりとも/かみーゆ)


クロードの異母姉。アリアやクロードたちとは別の全寮制高校に学ぶ。男装して生活している。頭脳明晰、真面目で誠実だが、男心も女心もまったく解さないのが玉にキズ。樹霊族(ドリュアード)。

北条政人/オーギュスト(ほうじょうまさと/おーぎゅすと)


カミーユの同級生。寮では隣室。そつのない完璧な優等生。影となり日陰となり(?)カミーユを支えるが、いまだに友達以上恋人未満の生殺しポジションに置かれている。水霊族(ナイアード)。

梶原源太景季/エドガー(かじわらげんたかげすえ/えどがー)


カミーユの同級生。佐々木エドマンドと血縁者ではない。橇犬族(ハスキー)。

佐々木四郎高綱/エドマンド(ささきしろうたかつな/えどまんど)


カミーユの同級生。梶原エドガーと血縁者ではない。橇犬族(ハスキー)。

遠藤盛遠/文覚/バルタザール(えんどうもりとお/もんがく/ばるたざーる)


カミーユとは中学時代からの先輩後輩の仲。アリアとミランダとは江ノ電の中で知り合う。荒海を一喝して静める法力の持ち主。性格は豪快で、人情に厚い。水霊族(ナイアード)。

土佐昌俊/ジョバンニ(とさしょうしゅん/じょばんに)


ベンジャミンのかつての修行仲間。その後カミーユに仕えていたはずだったが……。土霊族(ノーム)。

後白河雅仁/ローレンス(ごしらかわまさひと/ろーれんす)


法皇。この国の権力構造の最高位にありながら、一見ひょうひょうとした異端児の風貌を持つ。が、その本心は未知数。バルタザールとは那智の滝での修行仲間。龍族(ドラゴン)。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み