お熱いのがお好き (6)
文字数 1,572文字
ノープランなわけではない。その逆だ。
構想十年。
世界観設定メモがツンドラの永久凍土ほどある。資料も読んだ。試作も二作(戯曲だけど)完成させた。
だが、どうにももの足りない。
旅のプランばかり練っていて、いつまでも本当の旅に出られないのが苦しくて。
その苦しさが極限に達して、思わず、目の前に来た列車に飛び乗った、
という感じだ。
気がついたら、列車は疾走している。
あわてて手もとを見ると、地図がない。あるのは白いメモ帳だけ。
ここは、どこだ?
鎌倉、という地名を出しちゃったので、カミーユたちがいるのは鎌倉に決定している。
それでいい。作者は鎌倉が好きなのだ。あの緑濃きたたずまい、あの静けさ。
名菓「鳩サブレー」。
問題は、クロードたちはどこにいるのか、ということなんである。
まさかそれ決めてなかったの?!って、そうなんです、決めてなかったんです。
いや、もちろん京都にいるはずなのだ。
だけど作者には京都の土地勘がまるでない。何度か行ったことはあるけれどいつも短期滞在で、作者の脳内の京都というのは
・修学旅行なのにたまたまその日だけ閉まっていた二条城
・同じく修学旅行の自由行動の日に親友と二人でこっそり行った「とらや」本店
・猿沢の池(それは奈良)
・出張で泊まったコープ・イン・京都とその近くの素敵な
・北野天満宮にいる素敵な牛の像
などなどのイメージのコラージュでしかなく、これを正しい配置に並べろと言われたらリアル福笑いだ。
そもそも作者は、自宅の近所で道に迷うというディープな方向音痴だ。
京都などという東西南北パワースポットのグランドスラムな町なんて、とてもじゃないけど正確に描く自信がない。
その上。
アリアたちが悪い。アリアとミランダが。
京都は内陸だ。どうやって人魚が上陸するのだ。
鴨川をえんえんとさかのぼってくるのか。
そんなの人魚じゃない。鮭だ。
悩んだ末に、いつも的確なコメントをくれる友人Mに相談してみた。
「クロードくんたちの高校ってどこにあるんだと思う?」
答えはあっさり返ってきた。
「江ノ島だと思ってたけど?」
え……、江ノ島?! ち、近っ!! 近すぎやしないか??
「江ノ電に乗って通学してるんだと思ってたけど。桜木花道みたいに」
あーー!!(たしかに)
さっそくオズマガジン(oz magazine)2021年5月号、特集「やっぱり鎌倉が好き。」を取り寄せて開いてみた。
94-95ページのイラストマップ「行ってみよう 鎌倉のさんぽルート」。
見開き左下のすみに江ノ島電鉄「腰越駅」がある。壇ノ浦から凱旋した義経が、ここで頼朝にブロックされて鎌倉に入れてもらえず、胸もはり裂けんばかりの嘆願状「腰越状」を書いた土地だ(本編「ロッカバイ・ベイビー (8)」参照)。
その「腰越駅」の上に「←至 江ノ島」と書いてある。それそれ。江ノ島、圏外ということね。ページの外にいるのね。
で、少し右に視線を転じて、驚いた。
人魚が。
人魚が、海に描いてある。それも二人。
バンザイなんかしちゃってラリラリだ。
うそでしょ……!(瞠目)
そういうことか! 彼女たちには腰越ブロックも何も効かないわけだ。由比ヶ浜だって七里ヶ浜だって上陸しほうだい。なるほど!
浜に上がって、二人できゃっきゃ言いながら尻尾のウエットスーツを脱ぐ。
「蕎麦食べたい」
「えー? あたしフルーツパンケーキがいい!」
ありがとうオズマガジン。この2ページで元は取れた。(
いつもありがとうM。今度おごる。
男子たちがどうやって追いかけてくるのか完全にノープランだけど、なんとかなるだろう。
ということでGO!
毎回こんな感じで書いてます。