佐藤くんとあたしアゲイン (4)

文字数 994文字

「佐藤くん」
 アリアは岩盤の上にぺたんと座ったまま、ぽろぽろ涙を流していた。立てないらしい。
「大丈夫?」
「うん。あの、さ、さわられた」ふるえている。「ここ、足。ス、スカートの中に、入ってくるかと、思った」

 痛ましくて何も言えない。
 怒りで気が狂いそうになる。
「ごめん。ごめん、おれが」そばについていたら。
「ううん。来てくれて、ありがとう」わあっと泣きだした。「怖かった」

 無理もない。つい先日の宅急便事件に続いて、二度目だ。
 どうしてあげたらいいかわからなくて、ただ不器用に抱きよせて背中をごしごしこすった。
 おれが来たからもう安心してとか、気の利いたことが言えればいいのだが、こちらも頭が真っ白になっていて何も浮かばない。
「怖かったね」やっとの思いでそう口にする。
「うん」
 泣いている。

「足、痛い?」
「ひねった。蹴ったら、いなくなったんだけど、そのときひねっちゃった」一人で必死に闘って撃退したのだ。
「立てる?」
「わかんない」
「ここは?」足首をそっと握ると、小さく苦痛の声を上げた。
(だめだ、くじいてる)

「そ、そのへんに、まだ、いると思う」

 歯噛みするようなくやしさが突き上げてくる。
 罠だったかもしれない、と初めて気づく。
 この辺一帯が敵のエリアなのだ。こちらがふり払うと簡単に退却するのは、向こうに余裕があるからだ。さっきからあたりを満たしている楽しそうなさざめきは、その余裕の笑い。
 嘲笑でさえない。なぶって、遊んでいる。
 何のために。
 誰が。
土霊族(ノーム)? 石霊族(トロール)――?) 

 クラスメートに土霊族(ノーム)はいるが、石霊族(トロール)にはまだ、二人とも会ったことがない。

 読者は、「土」と「砂」の違いをご存知だろうか。
 作者はつい最近まで知らなかった。(お恥ずかしい。)
 砂は、岩石の砕けたものだ。つまり、無機物。
 そこに落ち葉や倒木、動物(ビースト)の死骸などの有機物が混じってはじめて「土」になる。

 ようするに、土があるのは地球だけなのだ。月や火星に土はない。あるのは、石だけだ。
 死の世界、というのも間違いだ。はじめから生のない世界に、死もありはしない。

 そびえ立つほど巨大だとも、物陰に隠れるほど小粒だとも言われる石霊族(トロール)
 おちゃめな土霊族(ノーム)と違って、彼らのしかけてくる悪戯は洒落にならない。
 彼らに冗談は通じない。
 いや、

 話そのものが通じない。
 命あるものが生きようと死のうと、それが何か?というやつらだ。
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登場人物紹介

波多野静/アリア(はたのしずか/ありあ)


この物語のヒロイン。明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳。惚れっぽいのが玉にキズ。海霊族(ネレイド)。

波多野遥/ミランダ(はたのはるか/みらんだ)


アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。海霊族(ネレイド)。

水原九郎義経/クロード(みずはらくろうよしつね/くろーど)


アリアの同級生。小柄だが学年一の美貌で、すでに女子の半数は陥落させている(推定)。身体能力、とくに跳躍力に優れ、お気楽な言動で周囲をふりまわす。ベンジャミンたちから「御曹司」と呼ばれている。樹霊族(ドリュアード)。

武蔵弁慶/ベンジャミン(むさしべんけい/べんじゃみん)


アリアの同級生。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。人馬族(ケンタウロス)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)


アリアの同学年生(クラスは違う)。長身で俊足だが、内気で目立つのが苦手。極端な無口。女子に対する耐性ゼロ。水狐(ウォーターフォックス)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)


クリストフの兄。容貌・性格・身体能力ともにクリストフとよく似ている。ただし左肩から右脇腹にかけて貫通創あり(一度死亡)。火狐(ファイアーフォックス)。

平野知盛/ヴァレンティン(ひらのとももり/ばれんてぃん)


平野一族の若き当主。物腰柔らか、文武両道の公達(きんだち)。現在はアリア姉妹の実家に客人として身を寄せる。クロードとは因縁の仲。樹霊族(ドリュアード)。

水原由良頼朝/カミーユ(みずはらゆらよりとも/かみーゆ)


クロードの異母姉。アリアやクロードたちとは別の全寮制高校に学ぶ。男装して生活している。頭脳明晰、真面目で誠実だが、男心も女心もまったく解さないのが玉にキズ。樹霊族(ドリュアード)。

北条政人/オーギュスト(ほうじょうまさと/おーぎゅすと)


カミーユの同級生。寮では隣室。そつのない完璧な優等生。影となり日陰となり(?)カミーユを支えるが、いまだに友達以上恋人未満の生殺しポジションに置かれている。水霊族(ナイアード)。

梶原源太景季/エドガー(かじわらげんたかげすえ/えどがー)


カミーユの同級生。佐々木エドマンドと血縁者ではない。橇犬族(ハスキー)。

佐々木四郎高綱/エドマンド(ささきしろうたかつな/えどまんど)


カミーユの同級生。梶原エドガーと血縁者ではない。橇犬族(ハスキー)。

遠藤盛遠/文覚/バルタザール(えんどうもりとお/もんがく/ばるたざーる)


カミーユとは中学時代からの先輩後輩の仲。アリアとミランダとは江ノ電の中で知り合う。荒海を一喝して静める法力の持ち主。性格は豪快で、人情に厚い。水霊族(ナイアード)。

土佐昌俊/ジョバンニ(とさしょうしゅん/じょばんに)


ベンジャミンのかつての修行仲間。その後カミーユに仕えていたはずだったが……。土霊族(ノーム)。

後白河雅仁/ローレンス(ごしらかわまさひと/ろーれんす)


法皇。この国の権力構造の最高位にありながら、一見ひょうひょうとした異端児の風貌を持つ。が、その本心は未知数。バルタザールとは那智の滝での修行仲間。龍族(ドラゴン)。

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