お熱いのがお好き (11)
文字数 925文字
あれ
を。頼む。このとおりだ〉〈おれは持っていないと言ったはずだ〉
〈嘘だ。おまえでなければおまえの一族が持っている。他に誰が〉
返答はない。
〈おれが八つ裂きになればすむのなら何とでもしてくれ〉あまり激しく想念を飛ばすと帰れなくなると知っていながら、抑えきれない。〈どうせそう長生きもしない。おれの居場所はもう――ないんだ――たぶん。おまえの言うとおり。だからなおさら、
あれ
に関してだけはけりをつけたい――〉〈けりをつける、とは?〉
〈お上にお返しする〉
〈お上とは誰だ〉
〈きさまのあのちっちゃな甥っ子がお上だとまだ言い張るのか? そのゲームは終わったはずだ〉
〈終わっていない〉
〈往生際が悪いのはきさまのほうだ!〉
〈違う。落ちつけ義経。おれの話を聞け。ちゃんと〉
頭痛が酷くなってきた。
あと何分持つだろうと義経は思う。
〈たしかに〉と知盛の声が、いや、想念が響く。〈おまえとおれはあの
だがよく考えてみろ。そもそもあれは誰が始めたゲームだった?〉
こちらの頭が割れるように痛んでいるのを察知したらしく、声は早口になった。
〈すまない。時間がなさそうだな。いまはこれだけ忠告しておく。おまえは
あれ
さえ取り戻せばと思いつめているようだが、鎌倉殿は喜ばないぞ。むしろさらに怒りを買うだろう〉〈どうして……!〉
痛い所を突かれて、息ができなくなった。ごぼっ、と吐き出された泡が見る見るうちに頭上へと消えていく。意識が遠のきはじめる。
〈危ない。早く戻れ。ああ、おまえがおれを信用してくれさえすれば、わかるように説明してやるのに〉めずらしく知盛の声に焦りがにじむ。〈鎌倉殿に訊け、直接会って。いまはそれしか——〉
——
土曜の昼下がり。図書館の中は静かだ。
あちこちで紙のページをめくる音が聞こえるだけだ。
弁慶が目を上げると、義経は斜め前の席で、頬杖をついたままじっとしている。
ふと、その目から、涙が一筋、つっと流れて落ちた。
そのまま、なおもじっとしている。
弁慶も何も言わない。
何があったかはわからないが、だいたいの察しはつく。
いつものことだ。