シュガーとスパイス (5)
文字数 751文字
一本の光が足裏から頭頂へ突き抜け、そのまま虚空をつらぬいていくような。
同時に、
そして――
音や皮膚感覚を、言語で伝えるのは難しい。視覚的比喩に頼るしかない。
だからいまから書くのはあくまで比喩であることを、肝に銘じて読んでほしい。
――そして、その同心円の波がはるかかなたで何かにぶつかり、打ち返され、
返る波はかえって勢いを増し、盛りあがり、立ちあがりつつ走り、
勢いあまって前転し、
その回転から生じた虹色の水の球が、アリアの目の前ではじけた。
早い話が、ざっぱーんと行ってがんっとなってどわーっと来てころころ、ぱちん!となったわけである。
「なんで? てか、なんで?」
虹の球からころがり出た男は、床に片手をついたまま茫然とつぶやいた。
1こめの「なんで」は「なんでいま呼ぶの」であり、2こめの「なんで」は「なんで波多野さんが使い手なの」なのだが、アリアには知るよしもない。
「佐藤くん」
佐藤四郎クリストフは目をつぶり、頭を強く一、二度振った。めまいを払い落とすかのように。
それから目を開いて、アリアの手もとから垂れる青と赤のリボンに気づき、叫んだ。
「
驚きすぎて、アリアがひとことも口をきけなかったのは言うまでもない。
(佐藤くんがしゃべったっっっ!!!!!)
そっちか。
まあ、アリアが驚くのも無理はない。佐藤四郎はこの時点まで、「あの」と「できます」の二語しかセリフをもらってなかったんである。嘘だと思うかたはいままでの十四話分を読み返してみてほしい。ほんとだから。
しかも、
(やだ、いい声。素敵)
アリアも読者も、兄三郎とかぶってない彼単独の声を耳にするのは、これが初めてなんである。