ロッカバイ・ベイビー (10)
文字数 960文字
白熱の糸が、虚空をつらぬいて落ちていく。
落ちつつ、見るまに冷えて、色を失っていく。
いにしえの
「
古代の海人族のものだという。
「
くりかえし
――その糸を、繰るように。
昔を今に なすよしもがな
――昔を今に巻き戻して、やり直せる方法が、あったらいいのにね。
「ヴァレンティン!! いやああ!!」
泣き叫んで身もだえするミランダを抱きすくめて、フロリアンがリープする。
二人の姿がかき消えた後に、ヴァレンティンの最後の想念が昇ってくる。
昇ってきて、はじける。泡のように。
微笑のように。
〈おれも――用済みだからな〉
からの枠に戻った苧環——《船》から、ほつれて残った糸の切れ端が垂れ、薄闇にきらめいている。
うつぶせに倒れたクロードの体は、水面に落ちた木の葉のように、しばらく宙に浮いていたが、
やがてゆっくりと沈みはじめた。
「終わったか」
ベンジャミンは長刀を一振りしてシールドを解除すると、
一度かるく足踏みしてふり返り、クリストフに声をかける。
「後でな」
そして身をひるがえし、落ちてくるクロードを受けとめに向かった。
「大丈夫?」クリストフはそっと声をかけた。
「うん」
力のない返事に、クリストフの胸は痛む。
いつのまにか彼女は、自分の腕の中にいた。だが、彼女というより、彼女のぬけがらだ。うつろになってしまっている。
(きつかったよな。おれらは慣れてるけど――あんな――)
おれには
、あの人しか
。かりにも、つきあっていて、恋人だと思っていた男の心の奥をのぞいてしまって、そこに自分の居場所が1ミリもなかったと知ってしまったら。
どうなんだろう。
それこそせめて、ほんの少しでも時が戻せたら。彼女が彼のあの叫びを聞いてしまう前まで、戻せたら。
でも――おれじゃ、何もしてあげられない。
そっと、後ろから抱きかかえた。ここへ来るときは慌てていて乱暴に扱ってしまったから、今度はその分も、大事にしてあげようと思う。
「行く?」
「うん」
アリアの手のタンバリンが力なく揺れ、小さなジングルたちがかすかに、シャララ、と鳴る。
クリストフはアリアを抱いて、跳んだ。