佐藤くんとあたし (1)
文字数 1,056文字
転校生って二割増しから五割増し、いい男に見える。
一つちがいのお兄さんが上の学年にいて、佐藤くんとそっくりで、だからやっぱりいい男だった。
佐藤先輩。
どっちがいい?!って女子たちは騒いでいて、ばかなの?とあたしは思った。
佐藤兄弟は東北の人だってうわさだった。
確かめたことはない。
二人とも、ものすごく無口なのだ。とくに佐藤弟。背が高いのに、いつもちょっとすまなそうにうつむいて歩いていて、女子から話しかけられたりしたら、それだけで耳まで真っ赤になってしまう。
染まった耳は桜色で、もちもち、桜餅。
美味しそう。
「あ」
せっかく見とれてたのに、きゅうに目をふさがれた。このやろ。やめて。息が。くすぐったい。
「ふふ、知ってる? おれさ、佐藤んちに下宿させてもらってたことあるんだよね」
「なにそれ、初耳」
「好きだねー耳」
「がっ! 噛むな」
この男、水原クロード。こいつこそ学年トップのイケメンだけど小柄。弟キャラ。そう思って気を許して、いつのまにかするりとふところにと言うか胸元にと言うかブラの中に入りこまれた女子は数知れず。
「やめときな。佐藤が好きなの、おれだから」
「は?!」
そうなのか。
佐藤くんとはよく、目が合って、それは佐藤くんがよくこっちをちらちら見てるからで。目が合うと、なんかせつなそうに伏せたりして。あたしは、もしかして好かれてる?なんてうぬぼれてた。
そうか。そうだったのか。
「おれにしとけって。波多野さん」
水原の白い指が、ちょんちょんとあたしの頬をつつく。なんだってこいつはすみずみまでこんな綺麗にできてるの。男のくせに。
あたしはぼそっとつぶやく。
「してる」
「聞こえない」このばか、わざとだ。
「だから、してるって」
「何をぉ?」
彼の手をふり切ってあたしは逃げ出した。このままだと人前で胸をもまれる以上のことをやられかねない。水原の笑い声が追いかけてくる。ばか、ばか、ばか。
ばかはあたしだ。
このまま水原とつきあってれば、また佐藤くんと目が合うかも。
なんて思ってる。
廊下に飛び出して、しばらく早足で歩いてたら、がっきと腕をつかまれた。痛っ。
あたしより5センチ上のところに、あたしにそっくりな顔がある。あきれ顔。
「これ」ギンガムチェックの包みを押しつけられた。
「あ」
お弁当……
また忘れてた。ごめん。お姉ちゃん。いつもいつも、いーっつもごめんなさい。
あたしの名前は波多野アリア。お姉ちゃんは、ミランダ。一つちがいだ。