お熱いのがお好き (12)
文字数 1,211文字
坂の多い町だ。それも、急坂。《
登り切った所がわずかに開けて、また降りていくばかりだったりする。木立の中を。
三人が選んだのもそんな場所の一つだ。
額を集めて、まずはマニュアルをのぞきこむ。
「これ、こういうことだろ? ちょっと貸して」
バルタザールに言われて、アリアは自分のタンバリンを渡した。姉妹がそれぞれ自分のタンバリンを使わないかぎり術は働かないらしいので、バルタザールが試しに使って見せる。
シャカシャカ、タン。ジングルを軽く振って、皮のまん中をひと打ち。
「これで召喚が解除。呼んだ相手を解放できる」
「えー! そんな簡単だったの」
「いちばん最初に書いてある」
思わずよろめいてしまうアリアだ。どんだけパニクってたのだ佐藤くんも自分も、あのとき。
「あとは」
シャカシャカタン、シャカシャカタン。同じ「タン」でも枠のほうを軽く叩く。
「これをくりかえしていると、そのうち相手との道がつく。相手の所へ行ける」
「道って、どうやって?」
「それはおれにもわからん。やって見せてほしいくらいだ」
(わあ、やってみたい……!)
わくわくするアリアだが、
「それより先に、やっちゃいけないことを確認しときたい」
ミランダは冷静だ。
「周りを巻きこむような大技は、お二人さんが同時に使ったときみたいだ。火と水」
「火と水?」
「ミランダちゃんが火の気で、アリアちゃんが水の気なんだろうな。それが同時に動くと大きい」
「お姉ちゃん火なの?」わからなくもないけど。
「水の中の火かな。火と水はかならずしも打ち消しあうものじゃないんだ。例えばアーユルヴェーダ的に言えば、三つのドーシャのうちピッタ(熱)はアグニ(火)とアーパ(水)の組み合わせで……あー、いいのいいの、そんなこと気にしなくて」
目をぱちくりさせているアリアを見て、バルタザールはからからと笑った。「それより、踊って見せてくれないの?」
踊っていいの? 横目で姉を見ると、
いいんじゃない? 横目で返してきた。
二人で、にこっと笑う。
「曲なににする?」
「うーん、まあ普通に? テキーラ?」
たぶんどなたもご存知のあれだ。マンボと言えば「テキーラ」。
あたりには大きな岩がごろごろしている。上が平らで、座ったりまたがったりするのにちょうどよさそうなのが多い。
そのうちの一つに用意してきたアイポッドを置こうとしたら、バルタザールがさりげなく、自分の腰かけている岩をぱたぱたっと手のひらで叩いた。
「え、うそ」
上手い。
「バル兄、(フィンガー)ドラム叩けるんだ?!」
得意げにちょっと眉をあげて、もう一度叩いてみせるバル兄だ。
普通の耳にはひたひたとしか聞こえなくても、アリアたちには豊かな振動が伝わる。
カホン。ジャンベ。コンガ?!
早く始めようぜ、という顔をしている。
音楽スタート。ワン、(ア)トゥー、(ア)スリー・フォー・ファイブ。