佐藤くんとあたしアゲイン (2)
文字数 731文字
ミランダは茫然と地面にへたりこんだ。
妹の気配が自分の圏内から消えたなんて、生まれて初めてのことだ。
「すまない。おれが——おれが——くそっ!!」
「水原くん」
ミランダは目の前が暗くなりかけていたけれど、自分を上回るクロードの取り乱しようにちょっと感動してもいた。正直、妹がこんなに思われているとは、いまのいままで信じられなかったのである。
「自分のことしか考えてなかった」クロードの見開いた目がうつろだ。「狙われていたのはおれじゃなかったんだ。彼女が」
「でもなぜ」
「まだわからない」とベンジャミン。「
「誰が、何のために」
「わからないけど——」
「
「かるがるしく言わないほうがいい」ベンジャミンがするどくさえぎる。「誰に聞かれているかわからない」
重い沈黙が落ちる。
「大丈夫」
沈黙を破ったのは、フロリアンのひかえめな、だがしっかりした声だった。
「四郎がついてる」
「えっ?」
「四郎が行った」
そのとき初めて一同は、それぞれ、何が起こったかを正しく把握したのである。
(負けた)
とミランダとクロードが同時に思ったかどうかは、読者の想像にまかせたい。
フロリアンの心臓もばくばくしていた。彼の圏内から弟の気配が消えたのも、生まれて初めてのことだ。
ちっちゃなときから兄者兄者と自分についてまわり、源平合戦にまで「兄者が行くならおれも行く」とついてきてしまった弟。
あいつが単独行動に出るなんて。
ちょっと目頭が熱くなったりしている。
(四郎。ガンバ)
兄として、また波多野姉妹に片思いしている同志として、つい心の中で小さくガッツポーズをしてしまう三郎フロリアンなのだった。