佐藤くんとあたしアゲイン (1)
文字数 740文字
アリアは片脚で可愛くけんけんしながら言った。本人はべつに可愛くけんけんするつもりはなかったのだが、何をやっても可愛い子なんだからしかたない。
「どしたの。いいよ、待ってるよ」
ミランダが笑って立ち止まる。男子たちも数歩行った先でふり返っている。
「大丈夫。すぐ追いつくから」
いっつも自分はびりっけつだな、とアリアは思う。みんなの足引っぱっちゃう。
彼女なりに焦っているのだ。
じっさいはアリアが最後尾になったことはない。たいていその後ろにクリストフがいて彼女が脱落しないように見てくれているのだが、こういうさりげない思いやりのものすごい尊さに気がつかない女子多いよね! 作者は何きゅうにテンション上がっているのだろう。
いまもアリアは、クリストフが
いない
ことに気づかない。(へんなの)
彼女が首をかしげているのは、サンダルが見当たらないからだ。
(脱げてからそんなにけんけんしたかな)
今日はたくさん足を使った。泳いで歩いて踊って、しゃがんで隠れて。
その上けんけんだ。
さすがに疲れて、はだしのつまさきをちょっと地面につけた。
地面に――
(えっ?)
踏むはずの路面が、ない。ぽっかりと穴があいている。
ぬらりと冷たい手に足首をつかまれた。きみょうに固い笑い声がくくっと響く。
「つかまえた」
悲鳴。
駆け戻ってきた四人の目の前で、すっと穴が閉じる。
しゃにむに突っこんだクロードの手は、一瞬アリアの指先にふれたが、そのままはじき返された。
「くそ!」
閉じた入り口を殴りつけ、くりかえし殴りつけようとするクロードのこぶしをベンジャミンが止める。
「やめろ御曹司。手が折れる」
がーん……と轟いた金属音の、かすかな余韻がいつまでも残る。
マンホールだ。