お熱いのがお好き (13)
文字数 994文字
拍子は、手で叩いて取るものじゃない。指を鳴らして取るものでもない。
肩で取る。揺らして。
最初は、小さく揺らして。肩を交互に、ちょこっと突き出して。
左、右、左、右。
おそろいの白いシャツブラウス、二人同時に袖をまくる。
二人同時に、すそをへその上で結び直す。
アリアはふわりとしたスカートだけれど、ミランダはジーンズだ。それもスキニー。
(やっぱりお姉ちゃん――美尻!)
ウーー、「テキーラ!」
曲はサルサに変わった。二人並んでクンディラ(斜め後ろに踏みこむステップ)。
腿にタンバリンを打ちつける。アリアが赤、ミランダが青、お互いに逆のをね、間違えないように。だから音は鳴らないが、フレームとジングルの振動は伝わる。
「いまのぴったり合うとやばいかも。何か起こりそう」「だね」
だめだこれ、楽しすぎる。夢中になっちゃう。
だって次はサンバ!
骨盤をぐりっと回すと、おへそが天を向く。ああ、快感!
男役になってリードしてくれる姉の手の中で、くるっとターンしながらアリアは思う。
(このひと以上にあたしをうまく踊らせてくれる男の子なんていない)
「ちょっと貸して」バルタザールが人さし指をくいくいと振っている。
ミランダが青いタンバリンを放ると、その指一本で受けとめ、そのままくるくる回しだした。
「え、マラバリスモ?!」
リオのカーニバル名物、タンバリン(ブラジルではパンデイロと呼ぶが)を用いたジャグリングだ。回したり、投げあげたり、腕をつたって肩から肩へ転がしたり。
「凄っ!」
彼は一体、那智の滝で何を修行してきたのであろうか。
「はは、悪い、つい。おれが遊んでもしょうがないよね」
「ううん、凄いの見せてもらった! 嬉しいよバル兄、こういう人だと思わなかった」
「おいおい、どんな人だと思ってた?」
「怖い人」
「だよな」
笑いながらタンバリンを投げ返してきた。アリアも笑って受けとめる。
「ねえねえ、もう一回やらない? 最初から」
「アリちゃんそれだめ! それ……」
「え?」
姉の驚いた顔から、自分の手もとに視線を移す。
青いリボン。
楽器が、入れ替わっている。
(あ)
自分の薬指が、枠のふちぎりぎりをぴしりととらえ、
ディーン……という心地よい響きが四方に広がっていくのを、
アリアは夢の中のように見、聞いていた。