佐藤くんとあたしアゲイン (5)
文字数 816文字
「違う。これイリュージョンだ」
「イリュージョン?」
「
たしかに、何もないはずの透明な場所に、二人はまだ立っている。
足もとを見ると、数百メートル下まで真っ逆さまに続く絶壁が――!
「見ちゃだめだ」
からかわれているだけなのだ。からかって、こちらが恐怖にふるえるのを見て、楽しんでいる。
「普通の地下道か何かだと思う」とクリストフ。「使われなくなったような」
「どうしてわかるの?」
「音が」
そうか、とアリアも気づく。音の響きかただ。はね返ってくる響きの速度と角度で物の位置がわかる。
彼に合わせて、自分の感度も
〈可愛いね〉
〈可愛い〉
〈二人とも〉
〈あ、動いた〉
笑いさざめく声のほうは
彼女のサンダルをストラップどうしで結び、自分のベルトループに提げた。目を閉じ、耳を澄まし、移動できそうな次元を探す――
(くそっ。集中できない)
そのとき。
アリアの手の中のタンバリンが、シャララ、とジングルの響きをたてる。
「それだ!」
本当のこと言っていいですか。いま「それだ」って言ったのは作者です。前の段落まで書いて、本気でどうしようか完全に行き詰まってました。そしたらジングル聞こえたのです。ほんと。びっくり。アリアちゃんありがとう。
アリアがタンバリンをふり始めると、暗い水底に光の柱が立つように、周囲の
おお、と石たちのどよめきがあがる。
(見せ物じゃねえぞ)
上方、右斜め前方75度。そこだけ柔らかく音が吸いこまれていく。あそこだ。抜け道。
あれも罠かもしれない。
だが一か八か、試してみるしかない。
「波多野さん」
「うん」
彼女が首に腕を巻きつけてきた。
クリストフはアリアを抱いて、跳んだ。