質素な食事と澄み渡る夜空
文字数 1,717文字
そんな中、辺りが暗くなってきたことに気付いたベネットは、空を見上げながら口を開く。
「フォッジ迄は、まだ距離が有る。その上、暗くなってしまっては進むのも難しい。そこで提案だが、今日はここで野営しないか?」
「だな。なんだかんだ言って、暗くなってからの移動は危険だ。腹も減ったことだし、もう休もうぜ」
ザウバーは、暗くなり始めた空を仰いだ。
「そうだね。朝に沢山食べたって言っても、流石にお腹が減ったよ」
それだけ言うと、ダームはその場に力無くしゃがみ込んでしまう。
「大丈夫か? どこか調子が悪いなら言ってくれ」
ベネットはしゃがみ込み、心配そうにダームの顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ。これから休むんだと思ったら、急に気が抜けちゃって。お腹も空いてたし」
そう言うと、少年は歯を見せて笑う。
「それならば良いのだが……しかし、今朝方ザウバーが言った様に、無理だけはするな」
諭す様な語調で言うと、ベネットは膝についた砂を掃いながら立ち上がる。
「朝食と違い質素な物だが、食べないよりは良いだろう」
言いながら背負っていた荷を降ろすと、ベネットは街で買い込んでおいた食糧を探し始めた。
「質素で品数が少なくても、自然の中で食べるのって、僕は好きだな」
ダームはベネットが取り出したパンを手に取り、まじまじと眺めた。
「そうだな。人工的に作られた場所で食べるより、食物を育む自然の中で食べる方が、何倍も美味しく感じられる」
ベネットは、軽く目を細めながら話すと、ダームの頭を優しく撫でる。
「空腹は、最高のスパイスって言うしな」
「何か、違う気がするんだけど」
ザウバーの軽い言葉を聞いたダームは、声の主へ不信の眼差しを向ける。
「食事の時間だからと食糧を口に詰め込むより、真に食べたいと思って食べる方が美味しく感じられる。だから、ザウバーの言ったことは、あながち間違いでは無い」
そこまで話した時、ベネットはザウバーの方へ向き直る。
「言うタイミングは、間違っていた様だがな」
一通り話し終えたベネットは、ダームと顔を見合わせ、ゆっくり地面に腰を下ろした。
「慣れない移動で、体力を消耗したことだろう。食事を済ませたら、なるべく早く眠るとしようか」
そう言うと、ベネットは先程鞄から取り出した食物を均等に分け始める。
「だな。フォッジに着けない以上、無駄な体力を使いたくねえ」
「それに、体力を回復しておいた方が、フォッジで何か有った時に対応しやすそうだもんね」
ダームは、そう話すと立ち上がり、ザウバーと向かい合わせになるように座り直した。
「それじゃ、頂きます」
元気良く言うと、ダームは先程ベネットが取り分けた食物を嬉しそうに食べ始める。
それから、ゆっくり時は過ぎていき、ベネットが用意した食料は殆ど無くなっていた。この時、空は完全に暗くなっており、月や星の光によって、辛うじて人の存在を確認できた。
「そろそろ、交代で休むとするか」
そう提案をすると、べネットは晴れた夜空を見上げた。
「だな。一人は見張りで起きているとして、二人は寝るか」
ベネットの言葉を聞いたザウバーは、笑いながら彼女の意見を肯定する。一方、ダームはベネットの目を見ると、噛み砕いたパンを嚥下しながら頷いた。
「決まりだな。先ずは、ダームとザウバーが休んでくれ。私は、暫く考えたい事が有る」
そう言うと、ベネットは意見を窺う様に、仲間の顔を見た。
「それでいいのか? 俺は起きていてもいいぜ?」
「私は、今までも色々な街を回っていた。だから、心配するに及ばない」
「なら良いけどよ。じゃあ、三、四時間経ったら交代するが、何かあったら起こしてくれ」
ベネットの言葉を聞いたザウバーは、直ぐに寝る支度を始める。それから、彼は毛布を胸まで被ると、静かに眠りに落ちていった。
ダームも、ベネットに礼を言って横になり、直ぐに目を瞑って眠り始める。会話の無くなった世界では、風が草や葉を揺らす音以外に何も聞こえてくることはなかった。