プリトスの街
文字数 1,266文字
「少しは落ち着け、街は逃げやしねえから」
ダームの行動を見たザウバーは、半ば呆れた様子で声を漏らした。彼の言葉が聞こえなかったのか、ダームはザウバーの方を振り返る事無く歩き続ける。
「子供のうちは、元気のある方が良いだろう」
「こいつの場合は、元気良過ぎるだろ」
意外な言葉が発せられた為か、ザウバーは少し困惑した様子で言葉を発した。
「年端もいかぬ頃から、自分の感情を常に抑えて生活するよりは、随分良いと思うぞ」
そう返すと、ベネットはザウバーと目を合わせる事無く、街の中へ歩みを進めた。この時、ダームは二人の数メートル先を歩いており、その差はどんどん開いていく。
「プリトスに来たのは、聖霊について調べる為だよね。これから調べに行くメルタト大学って、街のどこに在るの?」
「そういや、詳しい場所までは聞いて無かったな。ま、適当に探せば見つかるだろ」
ダームの質問を聞いたザウバーは、そう返してから少年の目を見つめた。ザウバーの目は微かに泳いでおり、発した言葉とは裏腹に動揺していることが窺える。
二人の会話を聞いたベネットは首を横に振り、大きな溜め息を吐く。
「プリトスは、大学が在る程に大きな街だ。無暗に歩き回らなくとも、案内板が設置されている筈だ」
彼女の声に覇気は無く、ザウバーのいい加減な性格に呆れている様でもある。
「大学が在る街って、大きいんだね」
説明を聞いたダームは目一杯の背伸びをし、街の大きさを確かめる様に辺りを見回した。すると、彼の瞳には、食品や雑貨を売る店が映し出される。
立ち並ぶ店からは、それぞれに客を呼び込もうとする店員の声が溢れてきており、それが街を活気づけているようでもあった。
「大抵の場合、街には人が住み暮らすのに必要な施設から出来るからな」
周囲を見回すダームの姿を見たベネットは、彼の疑問に対して説明を始める。
「そして、大学の様な一部の者達だけに必要とされる建物は、ある程度街が栄えてから作られることが多いものだ」
簡単な説明を終えると、べネットは微笑しながらダームの目を見つめた。
「それもそうだね。大学だけ在って、食べものや服を売る店が無かったら不便だもんね」
そう言うと、ダームは説明に納得した様子で大きく頷いた。
「で、その肝心な案内板は、どこに有るんだ?」
ザウバーは、早く調査を進めたいと言わんばかりに話を切り出す。ザウバーの声は、普段よりも若干低く、それが彼の不機嫌さを現わしていた。
「大抵は、街の入口。そうでなければ、街の中心か広場に設置されている場合が多いな」
質問を受けたベネットは、淡々とした口調で青年の疑問に答えていった。
「でも、街の入口は過ぎちゃったよね。あまり遠くは無いし、戻ってみる?」
ダームは、自らの意見に対する反応を窺う様に、仲間の顔を見上げ首を傾げる。すると、ザウバーとベネットは無言で頷き、三人は直ぐに街の入り口へ引き返した。