Catch me if you can.
文字数 1,266文字
「この一帯は、学園が建設される迄、人工的に作られたものは一切有りませんでした」
庭師を名乗る男は、ベネットが現れたことに気付くなり、語り掛ける様に話し始めた。その声を聞いたベネットは庭師の居る方に向き直り、彼の話に耳を傾ける。
「しかし、この地に宿る力に気付いた人間達は、その力を長く利用する為の建設を始めました。そして、人工的に作られた建造物に押し込められ、私の力は衰えていきました」
庭師は、大きく息を吐き出すと、悲しそうに目を伏せる。
「日を追う毎に力を失っていく私の前に、自然や命を慈しむ少女が現れました。また、その少女は、小さいながらも素晴らしい力を秘めておりました。ですが、その少女の力は、全く解放されていませんでした。それ故、私は少女を見守り、力を解放する負担に体と精神が耐える事が出来る時迄待とうと決めました」
庭師は、一瞬悲しそうな表情を浮かべると、涙をこらえる様に目を閉じる。
「しかし、その少女は学園から消え、私の希望は失われてしまいました。それでも、私は少女が何時か帰って来ると信じておりました。そして今、その少女は、光聖霊の力を得て私の前に現れたのです」
そう伝えた時、男は目を開いた。
「その少女とは、貴女の事です。他の方が居らしたので、庭師として見た事にしましたが……当時、私は学園内に生える花を介して貴女の存在を知りました」
「それで、草木聖霊たるファンゼ様が、この私に何を望むのでしょうか?」
「気付いておられましたか。正しく私は、草木聖霊ファンゼです」
ファンゼは頷き、軽く目を閉じる。
「貴女には、力を取り戻す手助けをして頂きたいのです」
「私に何が出来るか分かりません。ですが、私に出来る事があるなら、喜んで協力致しましょう」
ベネットは胸に手を当て、ファンゼに対して頭を下げる。
「それは、頼もしい限りです」
聖霊が安堵の表情を浮かべた刹那、その対面にダームとザウバーが現れる。魔法陣を使って到着したザウバーは、直ぐにベネットの方へ駆け寄った。
「大丈夫か?」
「見ての通りだ」
そう言うと、ベネットはまるで何事もなかったかの様に、ザウバーの目を見た。その際、青年がベネットへ近付いてきたことに気付いたファンゼは、二人の間へ割って入る。
「どうやら、早くも第一関門は突破された様ですね」
彼は、ザウバーの目を見据えると、その気持ちをたしなめる様に言い放った。
「ですが、そう簡単に力を与える訳にはいきません。それに、まだ伝えるべき事を伝え終えておりません。もう少し頑張って頂きましょうか」
そう告げると目を瞑り、聖霊は深呼吸を行った。そして、ファンゼが目を開いた時、彼とベネットの姿は、またしてもザウバーの前から消え去ってしまう。
二人が消えた瞬間を見たダームと言えば、目を見開いて固まった。一方、青年は苛立った様子で舌打ちをすると、大きく息を吐き出す。